二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

知ってしまった想い。

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「そうだな・・。心と言葉が同じである女はあまり見たことがない。
・・・それに、あいつは変な女だからな。」

後ろから聞こえた声に、アレクシスとクレイドルは驚いた。
アルベルトが、蒼い瞳を細めて笑っていた。

少し遠く離れた場所で、美月は、兵士達と会話を交わし笑っていた。

男が触れても、相手が野菜に見えて戦える魔術とやらを、魔術師団の医魔術師エレクトラに
掛けてもらうようになった。

美月は、術中であれば倒れることは無くなった。

しかし、エレクトラは言っていた。

彼女が男性を拒否することになった出来事を、克服しないと根本からは解決しないと・・。

光り輝く太陽のように、屈託のない瞳で微笑む美月の姿を目に焼き付ける。

「しかし、美月はアルベルト王子と、エリカ姫の娘・・・。
いずれは異世界へと帰る者だ・・・。いつか帰ってしまう女性なんだ。」

「・・そうか?そんなの・・。関係ないと思うけど・・・。」

アレクシスの言葉に、アルベルトとクレイドルは眉根を寄せて見つめた。

「・・2人共、怖っ!!だってさ!!?アルベルト王子がエリカ姫を選んで異世界に転生したように
美月だって、この国の誰かを選んで帰らない選択だってあり得るじゃないか!?」

そのアレクシスの言葉に、驚いた2人は瞳を揺らした。
アルベルトは、思ってもみなかった選択肢の登場に胸が震えていた。

家族が大好きだといつも言っていた美月が、その家族よりも大好きだと思ってもらえる自信なんてない。

だけど・・・。

「彼女は父も母も、兄弟のことも愛している。
我々が、そんな選択肢を考える必要なんてないんだ!!
この世界を救う「月の選択」を・・・。もし、彼女が実現出来れば、家族の元に帰れるんだ。
僕は、彼女を無事に家族の元に返してあげたい。
彼らは、大切な彼女のことを待っている筈なんだ・・・。」

アルベルトは、マントを翻して魔術騎士団の詰め所の方へと向きを変えて歩みを進めた。

その瞳は、苦し気に揺れていた。

「クレイドル・・・。お前もそう思うのか?
彼女がこの世界に来てから、王宮も、騎士団や魔術師団も明かりが灯ったように明るい!!
活気が溢れて、皆が彼女の影響を受けて笑顔が増えた・・・。
あんな、影響力のある光を・・・。失ってもいいのか?」

アレクシスの言葉に痛みが走った。
そんなの、理解している・・。

エリカ姫が現れてからのルーベリア王国がそうであったように・・。

異世界からやってきた姫たちの齎す光は底知れぬものがあった。

「そうだな・・。彼女は眩い太陽そのもの。
出会わなければ知らなかった光だ・・。
しかし、知ってしまえば、失う訳にはいかぬ存在となってしまう・・。
そんな出会いがある事を私は今まで知らなかった。だから、私にも分からぬのだ・・・。」

この気持ちをどうすれば良いのか・・。
そして、アルベルトもきっとそうであることも。

眩い光を注ぐ太陽を仰ぎ見たクレイドルは、切ない溜息を吐いた。

アレクシスは、複雑そうに去って行くアルベルトの背中と、横にいる兄の姿を思い
目を閉じた。

その光景を上から見下ろしていたノアは、赤い瞳を揺らして見ていた。
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