二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

静寂の町「デルメ」。

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銀色の月と、漆黒の月が姿を現す刻。

アルベルディアの山間にそびえる「デルメ」へと、私たちは到着した。

少しだけ数が減った刺客との格闘もそこそこに、無事に着くことが出来た。

「なんだ・・・此処は・・・。」

我さきにと降り立ったアレクシスは、いつもは明るいその表情を曇らせて呆然と立ち尽くしていた。
私も目の前の閑散たる風景に驚いていた。

「人影がないわ・・。ここ本当に町が・・あったの?瓦礫の山しか見当たらないわ。」

瓦礫と廃墟が立ち並ぶ街は、以前は商業施設や学校、家々が立ち並ぶ大きな町だった。
人口密度も高く、2万人以上がそこに住み、農業や掘削業、魔法石の採掘に当たっていたようだ。

「人影もないし、明かりも少ないわ・・。なんだか、怖いですね・・・。」

エレクトラが、私の側でブルリと身震いをする。

「本当ね・・。活気があった町がここにあったなんて信じられないくらいの荒廃ぶりだわ。」

私も、ゴクリと溜飲を飲んで周りを見回しながら歩を進める。
人の気配がない、荒寥こうりょうが広がる。

「そう・・。人口2万人はいた町だった。
今の人口は400人に満たない。
あそこにデルメの現在の町長の家があるんだ。
今夜は、一晩そこに泊まらせてもらう手筈になっている。」

ノアが、黒いマントを翻して先頭に立つ。

少し歩くと、数件の民家の明かりが見えて来た。
そこの真ん中にある、大き目の邸宅の玄関扉をノアがノックする。

中からは、恰幅が良く、白い民族衣装に身を包んだ町長と、背の低い小太り気味の優しそうな女性が
姿を現した。

「ようこそいらっしゃいました。わたくしが現在のデルメの町長、メルダル=アルベントスと申します。」

町長のメルダルは、目を細めて歓迎してくれた。

穏やかそうな人物だった。

「・・・久しいね、メルダル。今夜はお世話になるよ。隣国の友人たちも宜しく頼む。」

「ノア王子のご友人と聞き及んでおります、何もない、狭い家ですがごゆっくりなさって下さい。」

2人の笑顔に、緊張気味の私たちの頬が少し緩んだ。

「あの・・。美月=ハツネ=ベルナンドと申します!!今夜はお世話になります。」

「まぁ、若くて可愛らしいお嬢さんね。お入りになってくださいね。」

ペコリとお辞儀をすると、リビングへと案内された。

町長のメルダルと、妻のマリーから夕飯のお持て成しを受けた。

「・・この町にお越しくださり、有難うございます。びっくりなさったでしょう?
町はもう、若い人などおりません。魔法石の発掘の際に発生した毒で、半分以上の人々が亡くなり・・。
生き残った家族も、みんな・・。この町を後にしました。」

「町の・・半分以上が亡くなったんですか!?まさか・・信じられない・・。」


町長の言葉に、衝撃を受けたアルベルトは声を荒らげた。

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