二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

曝された青い瞳。

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「ミャァ・・。ミャアァーン・・。」

「しぃっ・・。駄目よ・・。まだ・・・、アルベルトは眠っているの。静かにね。
そうだ、お腹すいたのかな・・。ミルクでも飲む?」

朝日が昇る頃、太陽が姿を現したばかりの時間に私はベッドの脇で毛布の上に倒れるように
寝そべっていた。

アルベルトが傷を負った夜から、一夜明けた朝・・・。

時間を忘れるぐらい、必死でトリート魔法を発動し続けた私は、塞がった傷口を確認して
すぐに力尽きてしまった。

バキバキになった体と、立てない程の体力の消費に驚いた。

フラッと立ちくらみがして、這うように床を進んでキッチンへと向かう。
食べ物は、イムディーナがキッチンに用意してくれていた。

ミルクとパンとジャガイモなどの野菜。
水桶に水が汲んであった。

水差しに水を入れて、アルベルトベッド脇にあるサイドテーブルへと置く。

猫にはミルクをあげて、ピチャピチャと音を立てて飲む銀色の猫をそっと撫でた。

新しいドレスと替えの服も丁寧に置いてあったことには驚いたが、朝起きたら
水浴びをして替えの服に着替えようと思っていた。

猫と、体を休めているアルベルトはそのままに、家のすぐ近くを流れる小川へと向かう支度
を整えた。

石鹸をいれ、新しい着替えと体を拭く布をバスケットに入れて外へ出た。

  ザァァァ・・・。

木の陰に服を脱いで、大きな小川へと足を進める。

   ザバッ・・。ザバッ・・・。


透明な水を湛えた川に近づき、足で深さを確かめながら進んで行く。

「水が気持ちいい・・。冷たいけど。生き返るわ・・。」

石鹸を泡立てて、シャボンのいい香りが広がる。

体を洗いながら、辺りを見渡すと誰もいない広大な森と、小川、明るく照らす太陽と
鳥の声だけが聞こえた。

自然の音だけが、そこには響いていた。
心地よい鳥たちの囀りに、嬉しくなる。

布で泡立った石鹸を体に、擦り付けながら私は気分良く鼻歌を歌いだす。

気持ちいい・・。

水のせせらぎの音、木々が時々、風で揺れて聞こえる葉音。
鳥の歌声。

太陽の煌き・・。

昨日までの過酷な日々が嘘のように、平和な場所。

バシャン・・。

水に浸かって、泳ぎながら歌を歌いだす。
母が子守歌のように、よく聞かせてくれた歌。

メロディは、風に乗って流れる。

鳥が呼応するように、歌声を更にメロディーに乗せて囀(さえず)る。

気持ちいい・・。
幸せー!!!

目を閉じて、背泳ぎで泳ぎながら陸地へと向かう。

歌を歌いながら衣服を置いてある木の側へと、水から上がり川をザブザブと掻き分けながら
進む。

歌は止まらない。

側にある木の近くまで数羽の可愛い鳥が羽音をさせて飛び回る。

私は目を開けて、その木の側まで来たとき私の瞳が驚きの色を湛えた。

木の側で、私を見つめていたその青い瞳と目が合う。

私の歌は、そこで終わりを告げて側で旋回していた小鳥たちは止まり木を探して
飛び立った。

「・・・アルベルト!?貴方、起き上がって大丈夫なの?」

ザバッと、水を掻き分けてアルベルトの方へと歩を進めていると
アルベルトは真っ赤になって目を反らした。

「ふ、服!!服を着ろ!!・・すぐに!!」

「は?心配して言っているのに!!何よ、その態度っ・・。」

「っ馬鹿か!!お前、何も着ていないだろ・・。早く、服を着ろと言っている・・!!」

私は、言葉の意味をやっと理解して自分の体を見た。

上半身から下半身にかけてしっかりと露出していた。
冷や汗が、背中を伝う。

「ぎゃぁぁぁあぁあ!!!!馬鹿っ!!見ないでよ・・。
何でそこに・・。黙って見ているなんて最低よ!!!!破廉恥王子っ!!!」

バッシャーンと、大きな水音を立てて、体を川の中へと沈めた。
耳まで赤く色づいた私は、ついでに大量の水をアルベルト目がけてかけた。

恥ずかしくて、死ぬ!!!
何でそんなとこにいるのよ!!?

余りの恥ずかしさに、軽くパニック気味の私はアルベルトに水をかけ続けて、騒ぎ立てた。

バシャッと、顔や衣服に水がかかり金色の髪が濡れる。

「う・・わっ!!!病み上がりの人間に水をぶっ掛けるってどう・・どうなんだ。ゴホッ・・。」

「人の水浴び中に、じょ、女性の裸を黙って見ている、ド、変態に言われたくないわよ!?」

「気が付いて、部屋に誰もいないし・・。猫(こいつ)が、案内してくれたんだ!!
歌声が聞こえて、驚いて見たら・・。
こっちにお前が裸で歩いてくるからっ・・!!!そんな、あの・・。他意はなかった!!!」

顔以外は沈み込んだ私を見て、真っ赤になって顔を隠すアルベルトの様子に態度を軟化させた
私は、アルベルトに大声で叫んだ。

「そこで、後ろを向いていて・・!!体を拭いて、服を着るから待ってて!!」

「・・・う、わ、分かった!!!」

シャツにトウザーズ姿の王子は、びしょ濡れのまま目を瞑りゆっくりと後ろを向いた。

私は、ザバザバと水をかき分けて陸地へと上がる。

そして、木にかけた新しい衣服と布を手に取る。

側にアルベルトがいることに、意識がそちらへと向いてしまい真っ赤に頬を染めながら
震える手で、体をふきあげた。


「美月・・・。僕を助けてくれて有難う。目を覚ました時、驚いた・・。君が僕にトリート
魔法をかけ続けてくれたんだろう?起きた時、漲るような力に驚いた・・・。
君は、体力も魔力のゲージも・・。かなり少なくなっている。・・・大丈夫なのか?」

アルベルトの声に、目を見張った。

良かった・・・。

アルベルトの顔色は別人のように明るかった。

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