二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

文字の大きさ
61 / 94
異世界。

嘘の代償。

しおりを挟む
エストラは、長い睫毛を瞬かせた。

ゆっくりと震える体でアルベルトの翳した手を避けて微笑んだ。

「アルベルト・・殿下・・。こちら・・へ。」

エストラは、フラフラの体で上半身を起こし、茫然と眺めるアルベルトの耳元で何かを囁いた。

青い瞳は大きく揺れて、エストラを見つめた。

驚いたアルベルトは、崩れ落ちるエストラの身体を青ざめた表情で支えた。


「・・美月、聞いて・・・。
最後に、俺は・・大嫌いに・・なった自分を・・変えに・・いく。」

私は、エストラの顔を見下ろした。

涙で揺れる金色の瞳が美しく輝いていた・・。

「ずっと、君・・が好きだっ・・た。その・・笑顔が・・好きだ・・たよ。」

懐かしい病室の風景が胸を霞める。

楽しそうな笑い声で溢れていた。

笑顔を浮かべた藤くん、そして、トウマ兄ちゃんと小さな子供たち。

本を読んであげたり、将棋の勝負を子供たちにせがまれるとわざと負けて笑んでいた。

私は気づかなかった。

藤くんばかり、見ていて・・。

あの頃は、周りをちゃんと見れていなかったんだ。

いじめも、死のうとした弱さも藤くんに依存して、彼に甘えて慰められてばかり。

現実から、初めての恋に逃げていた。


「トウマお兄ちゃん有り難う・。ずっと、気づかなくてごめん。」

私は、青い瞳を細めた。

その言葉をしっかりと受け止めて、エストラに私の全力の笑みを向ける。

金色の瞳は嬉しそうに涙を湛えて微笑んだ。

「・・ごめんな。君を・・苦し・・めて。」


「ううん・・。確かめることも、向き合う勇気もなかった。
だけど、きっと色々な真実は私の知らないところにあるんだね。
私は、逃げていたから・・。
過去の全てから。弱い自分から、ずっと。」

「・・弱くない。美月は・・弱くないよ。
・・昔か・・ら、格好・・かた・・よ。」

エストラも、懐かしむように天井の岩を仰ぎ見る。

      バタバタバタ・・・。

後ろから沢山の足音が聞こえた。

「アルベルト、美月!!」

イムディーナ達の部隊が、別側の穴からこちらに向かって走って来る。

「同じ場所に繋がってたみたいだねぇ・・。
合流出来て良かったよー。」

アレクシスが、手を振って近づいてくる。

意識が逸れた瞬間に、見えない速さの強い風が一瞬私の体を横切る。

「・・・?」

驚いた表情で少し固まる。

「おーーい!!大丈夫か?」

私は、声のした背中の方を振り返って声を上げた。

その瞬間の事だった。

<ドォォォオオオォオン・・・。>

ビュッ・・。

ものすごい強い風が、洞窟の中を通りすぎて目を開けていられなかった。

「うわああっ!!!」

吹き飛ばされそうになった、アレクシスがバタバタしていた。

私は咄嗟に、膝をついた。

「・・なに!!今の。・・爆発?」

緑色の大きな結晶を見つけた場所の方から、物凄い爆破音が聞こえた。

「風土壁(ふうどへき)。」

イムディーナが両手を掲げる。
酷くなる爆発に、すぐに防御壁を作って皆を包み込んだ。

「美月!!」

アルベルトが、私の前に立ち抱き締めて守る。
見えない視界の中で必死にエストラへと視線を向けた。

良好とは言えない、視界の中でそこにいたはずのエストラの姿は見えなかった。

「嘘!?・・エストラ、なんで!?」

寝そべっていたエストラの姿が跡形もなくそこから消えていた。

「・・消えたのか?!それとも今の爆発で!?」

クレイドルが眉根を寄せた。

そこには、ただ血だまりだけが広がっていた。

「今の・・。今の爆発はエストラだ・・。
あいつは、最期の力を振り絞ったんだ。
・・爆弾ごと、結晶の内部で爆発させたんだ。」

「嘘よ!?だって・・、あんな怪我で?」

だって・・。

あんな体では動けないはず・・。


「な、なに?」

ノアが、驚きに目を見開く。

「エストラが・・。なんだって・・。アルベルト殿下!!今、何と言ったのですか・・!?」

ノアが、吹きすさぶ風の中で弾かれたようにアルベルトに険しい表情で問いかけた。

アルベルトの青い瞳は、悲しそうにノアへと向かう。

「エストラは、貴方を尊敬してました・・。
仕える主を裏切ってまで、アルベルディアの毒を命をとして葬ることを選びました・・。
遅かったですけどね・・。
彼はいつも悔いてましたよ。
民を、そして・・貴方を傷つけたことを。」

誰も言葉を発することが出来なかった。

ノアだけが、崩れ落ちるように地面に膝を落として赤い瞳を揺らしていた。

「なんで・・・。なんでだよ、エストラ!!
裏切るくらいなら、・・最初から・・。
・・馬鹿野郎!!
僕の作った爆弾は、エストラの命まで・・っ!!」

「・・ノア王子。」

ノア王子の痛みは計り知れない。

アルベルトは黙っていた。

・・風が止んだ。

目の前を大きな岩が重なりながら崩落を遂げていた。

震える声で赤い瞳を揺らしたノアは、涙を流して肩を揺らしていた。

エストラを憎むことは出来なかった。

たくさんの命を奪った彼は、ノアが自分を責めていたのと同じようにいつも揺れていた。

最後の最後まで・・。


洞窟は完全に崩落した。

イムディーナは、黒い月を見上げた。

「タロスの鏡はあちら側に渡ったのだな。」

大きく広がりを見せる黒い月に金の瞳は揺れていた。


アルベルトは、休んでいたテントの椅子からゆっくりと立ち上がった。

涙を流したままのノアの前で立ち止まる。

腰を落とし、ノアの耳元でひっそりとエストラの言葉を伝えた。

「トウゴ、・・・君の嘘の報いだ。」

ビクリと揺れた肩を冷たい青い瞳は眇められた。


「・・俺は君の嘘を知っていた。
俺の自殺も、全ては君の望み道理だろ。」
                                       
                                        
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...