二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

王都への旅路。

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サラリと揺れた金糸の髪と、美しい青い瞳をノアは黙って見つめる。

 「エストラからの・・貴方への最後の言葉です。」

 「・・・それを、エストラが?」

 眉間に皺を寄せ、動きを止めたノアはアルベルトの腕を掴む。

 「そうです。彼は、そう言ってました・・・。その意図は解りませんが・・。」

 「彼は・・。そうですか、エストラは彼だったんだ。ははは・・。
 私は、どうしようもない人間なんです。前の人生でついた嘘が・・。
 変わろうと思った。この世界で目覚めた僕は、前のように絶望して死を迎える
人生を歩まぬように・・。
だけど、ここでもエストラの苦しみに気づかずに救えなかった。
・・まるでカルマのようだ。」

アルベルトは、怪訝な表情でその様子を見つめていた。

 「彼は、命に従いながらも、いつの間にか尊敬していた貴方が、自分の
 お知り合いだと解って最後まで揺れていたようです・・。
 私たちの命を狙う命を下されながらも。
だけど、最後は自分の選んだ正義を貫きました。
 彼女にも、ちゃんと・・。想いを告げる事が出来たんですよ。」

 遠くでエレクトラと、クレイドルとカップを手に談笑している美月を見た。

 彼女は、さっきの話をどう捉えたのだろう・・。
 自分のように人の心を読めない彼女は悩んでいないだろうか。

テントの中の暗がりで、苦痛に歪めたノアのその表情が色濃くなる。

 「もう1つ、この自分達が歪めてしまったこの世界を救ってくれ・・。
とも、言っていましたよ。彼は、この世界での8年間を必死に生きました。
ノア王子、・・貴方はどうされるのですか?」

 「・・まさに、因果応報ですね。私には、重すぎる期待と責任です・・。」


 「カルマを、償う為に必死で生きても新たなるカルマを背負う・・。
 昔は、あと1か月でも長く生きたかった・・。
だけど、今は生きていることがこんなにも辛い。」

 「幼かったのだと・・思います。
エストラは、全てを知っていました。
だけど、貴方の嘘を彼は何処かで許していたのだと思います。
 現在の貴方は、過去の貴方ではない・・。今を生きて成すべきことを成しましょう。」

アルベルトに向き直したノアは、悲しそうに笑った。

 「あの頃の僕たちに、彼女は眩しすぎました・・。」

 震える手をギュッと強く握るノアをの背中は痛々しかった。

アルベルトは、その言葉に痛みを耐えるのように踵を返してそこを立ち去った。

 自分にとっても、そうであったように・・。

 何かに必死ですがりたかった、違う種類ではあったが
彼の絶望をアルベルトは知っていた。


 驚いて止まった涙と、体の底から来る違う種類の震えにノアは
 そこから動くことが出来なかった。

ガラガラ・・。

 大きな車輪の音が響き渡る。
デルメの採掘場から、王都「アリアドネス」までは半日以上がかかる。

 「ペガサスで空を飛べばすぐなんだけどなぁ・・。
 刺客も出るし、絶対空からの方が楽で安全でしょ?
何でペガサス使わないかなぁ?」

 山間部のアップダウンに少し疲れ気味のアレクシスが、ため息交じりに口火を切った。

 「・・・確かに!!あれ、速かったわ。でも、人数が乗れないんじゃないの?」

 「いやいや!!イムディーナ様がいるから、何頭か気前よく出してくれそうじゃない??」

 「おいアレクシス・・、イムディーナ様は便利屋じゃないんだぞ・・。
 多く積んだ荷もあるんだ、馬車で行く方が効率が良いだろう?」

アレクシスのボヤきに私は笑う。
 昨夜の色々な出来事に、すでに疲れ気味の私には軽口のこの何でもない会話が心地良い。
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