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異世界。

戦いの幕開け。

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アルベルディア王国

王都「アリアドネス」の中心に聳える
三角形の近未来を彷彿する「コンビクションタワー」

その巨大な建築物の前に、9人が馬からひらりと降り立った。

漆黒のマントに騎士服を身に着けたシェンブルグの王子たちと、魔術騎士団副団長ルードリフ。

白い騎士服を身に着け、赤紫の瞳で見上げたノア王子。

私は、青い騎士服と白いスカートと、白いブーツを合わせ腰までの赤茶の髪をポニーテールに
纏めていた。

重い剣を持つ者、銃に弾を詰める物、細身の長剣を鞘から出して構える者。

各々が厳しい顔つきで、目の前にある巨大なビルの上を見上げた。
太陽はまだ輝かない時間・・。

王都の民たちは、まだ眠りの中。

そこに、国を乗り越えて集いし者たちとその後ろには、ノアと同じ白い騎士服を
身に纏ったアルベルディア王国騎士団を兵士たちが控えていた。

数十人を従えたノア王子は、赤紫色の瞳を細めて騎士団長に合図を送る。

合図と共に、兵士たちは扉のロック錠を外そうと扉に触れる。
その兵士たちは、その瞬間に体中に電撃が走りバタバタと倒れていく。

「チッ・・。」

アルベルトが、錠を睨む。

前へ歩み出したイムディーナは美しい姿勢で兵士を掻き分ける。

「・・・触るな。どけ・・。我がこの錠を解く!!」

イムディーナが、長い髪を揺らして錠に手を翳し小さな言葉を呟く。

<パ――――ン・・・・・。>

信じられないくらい呆気なく、その錠は光に包まれて砕け散り砂のように散る。

その光景を間近で見ていた兵士達はゴクリと喉を鳴らした。

剣を構え、帝銃の装備がなされている彼等も神力を前にして緊張の様子だった。

ギギギギ・・・。

大きな入口のドアが、歓迎するように左右の扉が開きだす。

中は真っ暗で光は見えない。
これが、三角錐の建物の中なの??

光が全く入らない建造物ではないはずだ・・。

「アルベルト・・。可笑しいわ!!中の空間が、この建物の中ではないみたい。」

ゾクッと身体に走る嫌な予感・・。

先陣を切って走り出す兵士たちがドドッと一気に建物の中へと吸い込まれるように
姿を消して行く。

「ああ・・。何だ・・。嫌な予感と、不吉な影がある・・。進んでは、駄目だ!!!」

アルベルトは、その場から急いで駆け出す。

勢いよく突っ走る兵たちを止めようと、全力で駆け出す。
私もアルベルトに続いて地を蹴って、走り出した。

「うわぁぁあぁあああぁああ!!!!」

「ぎゃあぁぁぁあ。」

建物の内部へと入って行くと、真っ暗闇の中の中央に大きな上階へと続く階段が備えられていた。

そこには左右に立派な手すりと、赤い絨毯が敷き詰められていた。

ゴオオオォォオオォオオォオ・・・・・。

漆黒の闇は、まるでブラックホールのように兵士たちはその中へと吸い込まれていく。

「なんだ・・。あれは・・っ???」

アルベルトの声とその長い指が指し示す先に、黒い大きな塊が見えた。

天井に大きな穴のような黒い渦が姿を現していた。

兵士たちは、剣を地面に突き刺ししがみ付いていた。
その抵抗空しく呆気なく姿を消していく光景に私は目を疑った。

「なんて・・・。ことだ。
これは、アルベルディアの研究者、ルーベルト教授の発明したブラックホール理論に
基づいた兵器だ・・。「超空間引力球」を完成させていたのか??」

ノアは、絶句して消えていく兵士の姿を真っ青な顔で見上げていた。

「それだけではない・・。
ノア王子、貴方の兵器開発に尽力してくれたこの世界の天才達は世界を消してしまう
力を編み出してくれたのだ。
これがその力の簡略化した球体の、引力装置だ・・。
ノア王子が夢見ていた宇宙の相対性理論から、世界の深淵に辿り着いた
天才に私の力と、闇の魔術を組み合わせたら・・・。呆気なくこの装置が完成したのだ。」

黒いうねりが強い足元まである長い髪と、アメジストのつり目の瞳に強い光を湛え、赤い口紅が塗られた半円のような大きな口をニィっと広げた女が階段の上階に立っていた。

赤いローブが風になびいて、ふわりと浮く。

細長い剣先を構えて私を指して、高く笑う。

「ノア王子・・・。シェンブルグの王子達よ。
ようこそ、我が聖なる断罪の地・・・。
「コンビクションタワー」へ。
アルベルディアの科学と、シェンブルグの闇の魔術を操るわたしに
勝てるかしら?
異世界から来た、「月の選択」を行う者よ。
・・・あの日の屈辱は忘れない。
我が帝国を、逃げ回っていた王子の一人に奪われ、夫をわたしが生んだ息子に殺された
私の憎しみが・・。お前に分かるか!?あれからずっと、この日の為だけに生きてきた。
同じ名前の王子、アルベルト・・。
あの漆黒の月は、我が命を懸けた呪い。
異世界の器、アルベルト王子・・。お前らを・・・殺す!!!!」

イムディーナから聞いていた。

私たちの敵は、シェンブルグの前王妃・・・。

昔は王太子だった宰相エリミアンの母親。

「へえ・・。貴方が漆黒の月を???
私は、ここには選択をしに来ただけ。
・・・知らないおばさんに、むざむざ殺されはしないわ!!」

青く金が輝く瞳を凝らして、赤いローブの女を見上げる。

チャキ・・。

私は、魔女のように美しいその女性を睨んで剣を前へと構える。

「美月、行くぞ・・・。
僕は、あいつだけは・・許せない。」

アルベルトは長い金色の髪を揺らして下を向きながら呟いた。

「長年、夜に闇を齎して民の不安を煽った。
祖国を、自分の夫と息子をあっさり捨てた自分を、正当化するあの前王妃だけは・・・。
僕は、お前を認めない・・。
お前なんか、国母には成りえぬ!!!」

「こいつと血が繋がっていると思うと、寒気しかしないなぁ・・。
怖い女だ・・・。」

アレクシスは、薄く笑う。

横にいたアルベルトは、スラリとした体躯に似合う漆黒の長剣をひと振るいをすると、青い瞳に闘志を宿して漆黒のマントを翻して地面を蹴って駆けだした。
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