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異世界。

飛び込んだ暗闇。

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「アルベルト!!あのブラックホール・・。
そもそも、私の世界でも「ブラックホール」の生成は実現していないの。
だから、多分あれは偽りの魔法だわ・・・。
ワームホールに似せた魔術が施されていて、あの穴に吸い込まれても
どこかにホワイトホールのように出口がある可能性もあるわ!!
あの人は装置と言った・・。機械があるならそれを破壊すればいい!!
だから、貴方はそれを見つけて!!」

私は、細身の剣の角度を変えて走り出した。

階段の天井部分には、大きな黒い穴・・。

その真下に、艶やかに立ち塞がるシェンブルグ共和国の元王妃アルバがいる。

その前に、元王妃を守る兵士がいた。

しかも、アルベルディアの者ではなく杖や魔法石を持った魔術師と、魔術を操れる
剣士が数十人で脇を固めていた。

「ノア・・!!あの穴の大きさからして、どこまで側にいけば吸い込まれるの??」

兵と既に交戦を初めていたノアは、手にした剣で敵の攻撃を受け止めながら私を見る。

ノアは、ガーネットの瞳を瞬かせた。

「さっき、最後にアルベルディアの兵が浮き上がった地点を確認した・・。
階段の昇りきる手前10段目ぐらいで皆、体が吸い込まれるように消えた。
その地点が、怪しい・・。」

「分かったわ・・。私、中行ってくるね。
・・あのまま、兵たちを放ってはおけない!!
それを生成する装置があるなら、それをアルベルトと見つけて・・。」

「ばっ・・馬鹿な!?
もしかしたら出口なんてない本物のブラックホールなのかもしれないよ!?
それに、装置が壊れたら二度と戻って来れないかもしれないんだよ??」

目を白黒させて答えたノアに、私は笑って答えた。

「本物か、偽物かを見破らないと・・。みんなここで、あの穴に吸い込まれて終わりでしょ?
こっちから装置を破壊出来る人間がいなければ吸い込まれて終わりなの・・・。
だから、私が行って確かめて来る。
ホワイトホールがあるのか・・。
あの穴が、本当は何処に繋がっているのか確かめるわ。」

「・・美月!?おいっ・・。何をするんだ!?」

アルベルトが、アルバからの闇の魔術の攻撃を受けてシールドを張った瞬間に
私と目が合って、大きく青い瞳が揺れた。

「行ってくる・・・。
科学と魔術の融合で本当にブラックホールが実現出来ていたら
賭けは負けね。
だけど、もしもハッタリだったなら私たちは勝てるの。
・・・私は、行って確かめるわ。」

私は、スカートを翻して、走り出す。

長いブーツが走りづらい・・。

その私の横からイムディーナが同じ歩幅で走り出す。

「我も行こう・・・。その賭け、勝つ見込みがあるから行くのだろう?」

イムディーナは澄ました顔で微笑んだ。

もちろんよ!!!

見た目、ブラックホールだけどそんなに簡単に宇宙(かみのせかい)は再現出来ない!!
何百年かかっても相対性理論で言うブラックホールは作られていないんだ。

魔術があるといえども、たかが8年で何が出来るのよ!!

「まやかしなんかに負けないわ!!出口を見つけて帰還する・・・!!
・・それまで、装置の場所を探るのと、あの女達を宜しく。」

クレイドルや、エレクトラ(エリカ)も、驚きの表情で私を見上げた。

アルベルトは顔を顰めて私とイムディーナを、息を飲んで見守る。

キィン・・・。

「王子、余所見をしている暇などないぞ!!?」

アデルが、長剣での鋭い突きをアルベルトに繰り出した。

「・・・くっ!!!」

ガキィイイィン・・・・。

重い刃が重なり、剣劇が始まる。

お願い、どうかアルベルトを守って・・。
祈るような重いで、私はその光景に背を向けた。

階段をダッシュで駆け上がり、ふわりと体のバランスを失った瞬間に物凄い速さの
風が私の体を引き上げた。

「・・・うわぁっ。」

「あやつ・・。何を・・っ。」

元王妃アデルは、驚愕の表情で私を見つめた。

その瞬間にアルベルトの漆黒の剣はアデルの肩を切り裂いた。

「う・・うわぁぁあぁあぁ!!!!」

「美月・・・。美月っ!!!」

私を切なそうに見上げた青い瞳と最後の瞬間に目が合った。
そっと微笑んだ私を、苦しそうに見つめた。

ぶわっと浮いた、次の瞬間にはもう私のさっきまで居た世界は消えていた。
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