二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

文字の大きさ
73 / 94
異世界。

闇と光。

しおりを挟む
音がしない空間の中に放り出された私は、ふわりと浮いたままの体に驚いていた。

無重力空間の再現・・・?

それとも、闇を作りそこに吸引の魔力をかけた空間なのかしら?
掃除機のように、コンセントがあるわけはないけど・・。

目の前にはただ、真っ暗な世界へと続く空間が広がっていた。

「照らせ・・。光よ。」

私は、呪文を唱えて暗闇に淡い光を灯す。

温度の変化も感じない・・。

ただ目の前が暗い闇で包まれていた。

目が慣れずに、私は辺りをキョロキョロと見まわした。


・・・カタン。

少し先の暗闇から何かが聞こえた気がした。

「・・・音??音がした!!」

やっぱり、ブラックホールじゃないんだ・・・。

目が慣れてきた私は、周りの空間へと視線を向ける。

少しだけ遠くに光が見えた。

アルベルディアの兵士たちは魔術を使えない・・。

「イムディーナ!!?そこにいるの??」

私は、漆黒の空間で闇に灯る光の方へと泳ぐように進む。

「・・美月??ここだ!!我は、ここにいる。」

イムディーナは、私の手を掴んで嬉しそうに見下ろす。

「この空間はブラックホールではなかったわ・・。
魔術も使えるし、空気もある・・。
それに音も伝わる・・。
やはり・・。これは、似せて作られた空間みたい!!
それならば、出口は作れるはずよ。
掃除機と同じ原理だと思う。
・・・ここに穴を開けて兵士たちを外に出しましょう。
脱出したら、この紛い物を外から破壊するわ!!」

「・・・光よ、我が遥か先まで照らせ。」

イムディーナの言葉に、その暗闇は数十メートル先まで光に包まれた。

魔法も使える、詠唱も可能な空間では私もイムディーナも戦える!!

光を照らしながら、私たちはその闇を進む。

先へと進んで行くと、アルベルディアの白い騎士服を身に纏った兵士が見えた。

驚くようにこちらを見た数十人の兵士たちは、安堵の表情を見せて抱き合っていた。

「闇の魔術・・・。ブラックホールではないのだな・・。」

「これは、多分・・・。この空間自体に闇の魔術がかけられているのだ。
エリカに授けた物を引き継いだお前なら、この世界と元の世界を繋げることが出来る筈だ。
・・お前の歌が、この闇を切り裂く力になる!!歌があれば・・。」

「・・・歌で???この空間の出口(ホワイトホール)が現れるの?」

「闇の魔術なら、光の魔術で破ることが出来る・・。
我が授けた美月の歌は、希望と癒し・・。
そしてそれは「光の魔術」そのものが込められた歌として効果がある。
だから、先の戦いで愚王カディールの魔術を破ることが出来た。
今回も・・。
おそらく外では、不死の魔術が施された兵との苦戦を強いられているはずだ・・。
カイザルでさえも、慄く化け物たちに君の父上は必死に戦ったんだよ。」

「お父様が・・・。その時に母が、歌を歌ったのですね・・。祈りを込めて。」

「そうだ・・。神殿で神へと歌を届け、聖堂に戻って光の魔術で闇に捕らわれた兵たちを
その魔術から解き放ったのだ!!
・・・君の歌も、同じだ。
この世界と、あちらの世界を繋げるのだ。
みんなでここから帰ってあの女と戦いの続きをせねばな。
・・賭けは、君の勝ちだ。」

私は、薄暗い空間で光に照らされた金色の瞳を見つめた。

強く輝くその瞳を目に焼き付ける。

まやかしに勝った私は、愛しい光景を思い浮かべた。

つい数日前に、アルベルトが怪我をして休んだ湖の畔で鳥たちと口ずさんだ歌。

差し込む、美しい自然の光とそよぐ風・・。

冷たく、透明な水の煌き・・・。

歌を歌うことを辞めていた私が、自然に口ずさんだメロディーは母の子守歌。

優しく、強くわたしを包む光。

そして、自然とこみ上げる愛しい人への思いが光になる・・。

私は、その自然の中で輝く笑顔を向けたアルベルトを思い出した。
想いが歌に乗る。

アルベルトしいへと、私を届けて!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...