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お父様帰還

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 昨日はクリストフの膝枕で眠ることになり、目が覚めたら彼の部屋のベッドで寝かされていた。
 おそらくは朝になったので、彼が運んでくれたのだろう。

「ソフィア様、おはようございます」

 使用人達が私の支度を手伝いに来た。髪を梳かし、服も着替えた。ふと彼はまだ寝ているのか気になった。

「クリスはまだお部屋にいますか?」

 私が尋ねると使用人達は苦笑いする。

「あのお方はお部屋で過ごす時間は短いですよ。もう神官様方に指導をされております。その後には教会へ来られる方々に聖書を音読したり、懺悔を聞いているはずです」

 よくも昨日あれほど疲れた顔を見せていたのに、そこまで働けるものだ。そう思っていると彼の声が聞こえてきた。

「ソフィー、支度は終わったか?」

 部屋の外から声が聞こえてくる。どうやらもうお仕事が一段落したようで彼が戻ってきたようだ。私は使用人にお願いしてドアを開けてもらう。
 彼はいつもの白い法衣服を着て、いつもの司祭の恰好になっている。前ならこの姿を見ただけで怯えていたのに、すっかり慣れたようだ。
 彼はまるで昨日のことがなかったかのように尋ねてくる。

「昨日はお互いに別々の部屋で寝たが、私の部屋で不便を感じることはなかったか?」

 よくも白々しく言えるものだ。子供のような屁理屈を言っていた彼とは思えない。だけどわざわざそれを指摘して彼の評判を下げる意味もない。

「はい。クリスはしっかりと眠れましたか?」
「ああ。久々に良い夢を見た。おかげで今日の訓練はとても充実していたよ」

 それは良かった。でもよく座った姿勢で寝て疲れが取れるものだ。さすがは黒獅子。

「朝食を終えたら家まで送ろう。朝なら組織の者達も襲っては来ないはずだ」


 おそらくは朝というより、彼が側にいることが一番大きそうだ。あちらもクリストフの予定を知っていた上で襲ってきたのだから。
 朝食は教会らしい質素な食事だったが、特に不満も無いので普通に食べた。
 クリストフも教会内だと静かに食べていた。
 お互いに食べ終わり、私は彼と供に馬車へと乗り込む。

「何だかみんなから視線を感じましたね」

 歩くたびに色々な視線を向けられた。だがクリストフは当然だと言う。

「言ったであろう。其方は可愛らしいのだから目立つのだ」
「それはクリスだけでしょ」


 おかしくて笑ってしまった。
 理由はともあれこの魔女の刻印があるのだから、不必要に教会の人と接触は避けたい。

「そういえばドラゴンの巣は大丈夫でしたか?」
「ああ。少しだけもらっていた情報と違っていたがな。元々はドラゴンが残した卵の破壊だけだったのだ」


 情報が間違っていたとなると、早く来れたのは情報より難易度が低かったからなのだろうか。
 ドラゴンなんて危ない魔物と戦っていないのなら、それは良かったと思う。

「そうでしたか。楽に終わってよかったですね」

 だがクリストフは首を横に振った。

「逆だ。ドラゴンの卵どころの騒ぎではなく、ドラゴンが三体もいた」
「へっ!?」

 一体でもとある領地を火の海に変えたという逸話もあるのに、それが三体とは計り知れない。
 それなのにどうして彼は早く帰ってこれたのだ。
 だが理由は彼が未来を知っているからだった。

「運が良く未来で私が倒したドラゴン達だったから攻略もすぐに出来たのだ。そうでなければあれほど早くは戻れん」

 いやいや、まずドラゴンを三体倒すのなんて普通の人には無理だ。
 私の旦那様は、ドラゴンすら相手にならないらしい。これまで一度も勝てなかった理由が分かる。

「まあ無事でしたのなら良かったです。クリスは私を送った後はどうするのですか?」
「ドラゴン退治の功績でしばらく休みをもらったからな。もしよければしばらくは其方の家に滞在しても構わないか?」

 ドラゴン退治の褒美が休みって、なんとも欲がない。だけど彼が私の家で休息が取れるのなら、それこそ歓迎したい。
 もう私の敷地に入ったので、もうじき屋敷が見える。

「お父様が帰ってくるまではそこまで気にする必要はありませんわ」

 お父様がいると嫉妬で何をするか分かったもんではない。
 屋敷が見えてきて、外で出迎えをしている人たちが見えた。

「みんな、気が早……い? あれ、もしかしてお父様?」

 紳士服を着ている男性を囲むように使用人達が立っている。
 私の出迎えというより、本来の主人の側にいるという感じだ。

 優男で眼鏡を掛けているため周りからも知的に思われている。またお父様は多くの知恵を持っているので、見た目に負けない有能な男だ。それでいて騎士団長としての力量も持っていた。

 そんな父が仏頂面で立っていた。
 何だか不穏な雰囲気を感じる。

「帰っていらしていたか。ちょうど俺も話があったのでちょうどいいな」

 そういえば彼はすでにお父様へ話をつけていると言っていた。

 ――それなら安心してもいいよね?

 不安がある中で家の前に馬車を留める。そして降りると真っ先にお父様が詰め寄ってきた。
 これはいつものやつが来る、と身構えた。

「ソフィー無事だったか!」

 普段の知的な印象は反転して、親バカ丸出しで抱きしめてきた。
 周りを取り囲んでいる使用人達も微笑ましく見ていた。


「お父様、おかえりなさい。お早かったですね」

 こんなやりとりも懐かしい。未来では魔女の私を隠蔽した罪でお父様は処刑されたので、会えただけでも嬉しい。
 だけどやはりこの暑苦しさだけは慣れない。
 後ろから馬車を降りたクリストフの気配を感じる。

「お義父さん、お久しぶりです」

 お父様は私から顔を離してクリストフを見る。そしてその顔は目に見えるほど不機嫌な顔になった。

「ほう。積もる話もある。二人ともこのまま私の部屋に来なさい」

 お父様は私から離れて先に家に入る。私はこそっとクリストフへ話をする。

「クリス、お父様は少し過保護なところがありますから、あまり刺激しないでね」
「ふむ、それは俺の得意なところだ」

 なんだか心配だ。どうか今日は何事も無く終わることを期待する。
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