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それ以来エリスティアはアレクシスと一緒に寝なくなった。
アレクシスのことを汚らわしいものでも見るように一瞥し、同じ空間にいるのも嫌なようだった。
アレクシスは何度かエリスティアの誤解を解こうと試みた。だがそのたびにアレクシスの声など聞こえなかったかのように、すぐさまその場から立ち去ってしまうのだ。
メイドに手を付けるなんてアレクシスにとって何でもない行為だった。
だからこそ、ここまでエリスティアが怒るとは思ってもみなかった。
エリスティアから無視されることにアレクシスは馴れていなかった。その冷たい態度にアレクシスは次第に心臓が冷えて止まりそうになるのだった。
(俺は間違っていた……)
アレクシスはただエリスティアに「好き」になってもらいたかっただけなのだと気付いた。
そして好きになってもらうのに、これまでの行為が間違っていたことにも……。
その朝一番でお城に呼び出されたガイは困惑していた。
あの急な結婚式の日、エリスティアにキスしていた所を王子に見つかり、城から放り出されたとき以来になる。
あのときの顔の傷は今もまだ痕が残っている。
それから一月以上にもなるというのに、一体なんの用なのか。
応接間に通されたガイは、しばらくして入ってきたエリスティアに目を奪われた。
「ガイ……?」
ちょっと驚いた顔をしているのは気のせいだろうか?
久しぶりに見るエリスティアはとても綺麗だった。
子供の頃から可愛らしい女の子ではあった。
人見知りのエリスティアは近所の男の子とはあまり喋れず、自分にだけはにかんだような笑顔をみせてくれた。それがとても嬉しかった。俺だけのエリスティア……自分だけのものにしたかった。それもあって早くに結婚を申し込んだのだ。
エリスティアは今や一財産しそうな豪華なドレスを纏い、美しい宝石を身に着けている。艶々した髪は綺麗にセットされ、頬は淡く色ついていて輝くような肌をしていた。
「あの、来てくれて嬉しいわ……あんなことがあったのに……最近どう?」
エリスティアの美しさに見惚れていたガイは、返事を求められている事に気づいて慌てて答えた。
「変りないよ」
君への思いも。ガイは心のなかで付け足した。
「そう……」
「君は……その、綺麗になったね」
「そう……?」
「ああ。ずっと綺麗になった」
「……ありがとう」
美しいエリスティアがはにかんだような笑みをガイへ向けた。
ガイはグッと手を握り締めた。連れ去ってしまいたくなる衝動を堪える。
エリスティアは困惑していた。
あれからしばらく経つというのに、一体なんの用でガイは来たというのだろう。
エリスティアにとってガイはもう過去の人であった。
幼馴染ではあるけれど、なんとも気まずい別れ方をしたこともあって、もう会うとこもない相手だと思っていた。
「でも、あまり幸せそうじゃないね……?」
心配そうにガイが聞いてきた。
「そんな事……」
思わず涙が溢れてくる。頬を涙が流れた。
あれほど情熱的にエリスティアを求めてきたくせに、アレクシスは他の女……それもエリスティアの一番信頼していたメイドに手を出したことがショックだったのだ。
しかも二人の寝室で行為に及んでいた。その事実がエリスティアはどうしてと許せなかった。
この一ヶ月、エリスティアはアレクシスの不器用な優しさや愛情(そう信じていた)を知って、いつの間にかアレクシスを愛していた。
ただしそれも全てまやかしだったのだ。
初めからそんなものは無かった。
そう思うとエリスティアは零れ出る涙を止められなかった。
「泣かないで」
そう言ってガイは強くエリスティアを抱き締めた。
「ガイ、放して……」
言葉だけでも抵抗してみせる。
しかしアレクシスの裏切りに壊れそうになっていたエリスティアは、ガイのその優しさに甘えてしまいそうで力強く抱きしめる腕を振り払えなかった。
「君が幸せならと思っていたけど、そうじゃないなら一緒に逃げよう。この国を出て二人だけで、誰も知らない所へ」
「ガイ……」
エリスティアはガイの腕の中で、昔築いた安心を見出だそうと胸に顔をつけた。
突如扉が勢いよく開いた。
「君が望むならと頑張ってみたが、やっぱり駄目だ! 君を失うわけにはいかないんだ。みすみす手放すほど俺はバカではないぞ! 愛している……頼む、許してくれエリスティア……」
茫然とし抱き合う二人を前に、もつれる足を急き立てるようにして入ってきたアレクシスは一気に捲し立てた。
その表情はまるで飼い主に足蹴にされた犬のように、悲壮感に満ちていた。
アレクシスのことを汚らわしいものでも見るように一瞥し、同じ空間にいるのも嫌なようだった。
アレクシスは何度かエリスティアの誤解を解こうと試みた。だがそのたびにアレクシスの声など聞こえなかったかのように、すぐさまその場から立ち去ってしまうのだ。
メイドに手を付けるなんてアレクシスにとって何でもない行為だった。
だからこそ、ここまでエリスティアが怒るとは思ってもみなかった。
エリスティアから無視されることにアレクシスは馴れていなかった。その冷たい態度にアレクシスは次第に心臓が冷えて止まりそうになるのだった。
(俺は間違っていた……)
アレクシスはただエリスティアに「好き」になってもらいたかっただけなのだと気付いた。
そして好きになってもらうのに、これまでの行為が間違っていたことにも……。
その朝一番でお城に呼び出されたガイは困惑していた。
あの急な結婚式の日、エリスティアにキスしていた所を王子に見つかり、城から放り出されたとき以来になる。
あのときの顔の傷は今もまだ痕が残っている。
それから一月以上にもなるというのに、一体なんの用なのか。
応接間に通されたガイは、しばらくして入ってきたエリスティアに目を奪われた。
「ガイ……?」
ちょっと驚いた顔をしているのは気のせいだろうか?
久しぶりに見るエリスティアはとても綺麗だった。
子供の頃から可愛らしい女の子ではあった。
人見知りのエリスティアは近所の男の子とはあまり喋れず、自分にだけはにかんだような笑顔をみせてくれた。それがとても嬉しかった。俺だけのエリスティア……自分だけのものにしたかった。それもあって早くに結婚を申し込んだのだ。
エリスティアは今や一財産しそうな豪華なドレスを纏い、美しい宝石を身に着けている。艶々した髪は綺麗にセットされ、頬は淡く色ついていて輝くような肌をしていた。
「あの、来てくれて嬉しいわ……あんなことがあったのに……最近どう?」
エリスティアの美しさに見惚れていたガイは、返事を求められている事に気づいて慌てて答えた。
「変りないよ」
君への思いも。ガイは心のなかで付け足した。
「そう……」
「君は……その、綺麗になったね」
「そう……?」
「ああ。ずっと綺麗になった」
「……ありがとう」
美しいエリスティアがはにかんだような笑みをガイへ向けた。
ガイはグッと手を握り締めた。連れ去ってしまいたくなる衝動を堪える。
エリスティアは困惑していた。
あれからしばらく経つというのに、一体なんの用でガイは来たというのだろう。
エリスティアにとってガイはもう過去の人であった。
幼馴染ではあるけれど、なんとも気まずい別れ方をしたこともあって、もう会うとこもない相手だと思っていた。
「でも、あまり幸せそうじゃないね……?」
心配そうにガイが聞いてきた。
「そんな事……」
思わず涙が溢れてくる。頬を涙が流れた。
あれほど情熱的にエリスティアを求めてきたくせに、アレクシスは他の女……それもエリスティアの一番信頼していたメイドに手を出したことがショックだったのだ。
しかも二人の寝室で行為に及んでいた。その事実がエリスティアはどうしてと許せなかった。
この一ヶ月、エリスティアはアレクシスの不器用な優しさや愛情(そう信じていた)を知って、いつの間にかアレクシスを愛していた。
ただしそれも全てまやかしだったのだ。
初めからそんなものは無かった。
そう思うとエリスティアは零れ出る涙を止められなかった。
「泣かないで」
そう言ってガイは強くエリスティアを抱き締めた。
「ガイ、放して……」
言葉だけでも抵抗してみせる。
しかしアレクシスの裏切りに壊れそうになっていたエリスティアは、ガイのその優しさに甘えてしまいそうで力強く抱きしめる腕を振り払えなかった。
「君が幸せならと思っていたけど、そうじゃないなら一緒に逃げよう。この国を出て二人だけで、誰も知らない所へ」
「ガイ……」
エリスティアはガイの腕の中で、昔築いた安心を見出だそうと胸に顔をつけた。
突如扉が勢いよく開いた。
「君が望むならと頑張ってみたが、やっぱり駄目だ! 君を失うわけにはいかないんだ。みすみす手放すほど俺はバカではないぞ! 愛している……頼む、許してくれエリスティア……」
茫然とし抱き合う二人を前に、もつれる足を急き立てるようにして入ってきたアレクシスは一気に捲し立てた。
その表情はまるで飼い主に足蹴にされた犬のように、悲壮感に満ちていた。
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