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4. 余命14日③
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「何故受け取ってはいけないのですか……?」
叱責された理由が分からず、問いかける私。
すると、こんな答えが返ってきた。
「アレクは成長期なのよ? それなのに朝食を減らすつもり?」
私も成長期のはずなのに……。
そう思ったけど、口に出すことはしなかった。余計なことを口に出せば、怒りを買ってしまうから。
「分かりました……」
「分かればいいのよ、分かれば」
満足そうに好物のパンを口へと運ぶお母様。
その表情は、私に嫌がらせをする時と同じだった。
当然だけど……メインディッシュを口にできなかった私のお腹が満たされることはなくて。
どこからか、得体の知れない怒りが湧いてきてしまった。
それから朝食を終えるのはあっという間で、私はお母様に追い出されるようにして食堂を後にした。
私室に戻れば、侍女がドレスを手に待機していて、こんなことを口にした。
「お嬢様、お着替えは用意してあります」
どうやら教会に行くのは決まってしまったらしい。
「ありがとう」
お礼を言ってから着替えを始める私。
念のため、先にドレスを確認したのだけど、おかしなところはなかった。
侍女の手を借りて着替えを終え、玄関に向かう私。
そこには既にお母様の姿があって、目が合うとこんなことを言われた。
「遅かったわね? もっと早くならないのかしら?
忌み子なんだから、メイクはいらないでしょ?」
「申し訳ありません……。今度から気をつけます」
一応、申し訳なさそうに頭を下げる。
普段はお母様の準備の方が遥かに長いのに、どうして文句を言われないといけないのかしら?
「分かればいいのよ、分かれば」
それからは馬車に乗っても言葉を交わすことはなかった。
それは教会に着いてからも同じで、少しだけ悲しくなった。
お姉様もお兄様も、こんな態度は取られないのに……。
そんな風に今の状況を悲観している時だった。
私達をここまで案内してくれた神官さんがこんなことを口にした。
「ここに手を置いて、神様に呼びかけてください」
「では、わたくしから」
そう言って私のことを勢いよく押すお母様。
なんとか踏みとどまったけど、もう少しで転んでしまうところだった。
それから10分近く、お母様は『神との対話』をしていた。
側から見れば、無言で俯いているだけなのだけど、本当に神様とお話出来ているのだから、不思議よね。
「終わりましたわ」
顔を上げ、満足そうに口にするお母様。
すると今度は神官さんが手汗で濡れた台を拭きはじめて、こう口にした。
「では、お嬢様の方もどうぞ」
「ありがとうございます」
礼を言って、台に手を置く私。
すると、意識がすーっと遠のいていって、気がつくと真っ白で何も無いところにいた。
「レティシアよ、久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです」
神様の姿は見えず、声だけが聞こえてくる。夢で聞いた声と、同じ声。
あまり知られていないのだけど、神様の姿が見えてしまったら、神に嫌われたことを意味する。だから、私は少しだけ安心した。
「汝よ、今日は何を願いに来たのだ?」
「まだ、死にたくないですわ……」
無理矢理連れて来られたのだから、願うことは無いはずだった。
でも、咄嗟にそんなことを言っていた。
「死にたくない。その願いは叶えられるか分からない。
我に出来るのは、生き延びるための手がかりを教える事だけだ」
私が漏らした言葉に、そう返してくれる神様。
神様が直接私たちの世界に関わることは出来ないという言い伝えは、どうやら本当らしい。
「では、どうすれば……」
「生きたいと思い続ければ、報われる。それしか我には言えぬ」
余りにも無責任すぎませんか、神様?
せめて昨日の夢のことを説明して欲しいわ……。
「昨日の夢なら、簡単なことだ。あれは我が見せたレティシアの未来だ」
思考を読まれたらしく、そんな声が聞こえた。
「あの夢は天啓でしたのね……」
「そうだ。そろそろ時間切れのようだな。
汝に祝福あれ」
直後、私の意識は遠のいていって……。
目を開けると、元いた教会の光景がそこにあった。
叱責された理由が分からず、問いかける私。
すると、こんな答えが返ってきた。
「アレクは成長期なのよ? それなのに朝食を減らすつもり?」
私も成長期のはずなのに……。
そう思ったけど、口に出すことはしなかった。余計なことを口に出せば、怒りを買ってしまうから。
「分かりました……」
「分かればいいのよ、分かれば」
満足そうに好物のパンを口へと運ぶお母様。
その表情は、私に嫌がらせをする時と同じだった。
当然だけど……メインディッシュを口にできなかった私のお腹が満たされることはなくて。
どこからか、得体の知れない怒りが湧いてきてしまった。
それから朝食を終えるのはあっという間で、私はお母様に追い出されるようにして食堂を後にした。
私室に戻れば、侍女がドレスを手に待機していて、こんなことを口にした。
「お嬢様、お着替えは用意してあります」
どうやら教会に行くのは決まってしまったらしい。
「ありがとう」
お礼を言ってから着替えを始める私。
念のため、先にドレスを確認したのだけど、おかしなところはなかった。
侍女の手を借りて着替えを終え、玄関に向かう私。
そこには既にお母様の姿があって、目が合うとこんなことを言われた。
「遅かったわね? もっと早くならないのかしら?
忌み子なんだから、メイクはいらないでしょ?」
「申し訳ありません……。今度から気をつけます」
一応、申し訳なさそうに頭を下げる。
普段はお母様の準備の方が遥かに長いのに、どうして文句を言われないといけないのかしら?
「分かればいいのよ、分かれば」
それからは馬車に乗っても言葉を交わすことはなかった。
それは教会に着いてからも同じで、少しだけ悲しくなった。
お姉様もお兄様も、こんな態度は取られないのに……。
そんな風に今の状況を悲観している時だった。
私達をここまで案内してくれた神官さんがこんなことを口にした。
「ここに手を置いて、神様に呼びかけてください」
「では、わたくしから」
そう言って私のことを勢いよく押すお母様。
なんとか踏みとどまったけど、もう少しで転んでしまうところだった。
それから10分近く、お母様は『神との対話』をしていた。
側から見れば、無言で俯いているだけなのだけど、本当に神様とお話出来ているのだから、不思議よね。
「終わりましたわ」
顔を上げ、満足そうに口にするお母様。
すると今度は神官さんが手汗で濡れた台を拭きはじめて、こう口にした。
「では、お嬢様の方もどうぞ」
「ありがとうございます」
礼を言って、台に手を置く私。
すると、意識がすーっと遠のいていって、気がつくと真っ白で何も無いところにいた。
「レティシアよ、久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです」
神様の姿は見えず、声だけが聞こえてくる。夢で聞いた声と、同じ声。
あまり知られていないのだけど、神様の姿が見えてしまったら、神に嫌われたことを意味する。だから、私は少しだけ安心した。
「汝よ、今日は何を願いに来たのだ?」
「まだ、死にたくないですわ……」
無理矢理連れて来られたのだから、願うことは無いはずだった。
でも、咄嗟にそんなことを言っていた。
「死にたくない。その願いは叶えられるか分からない。
我に出来るのは、生き延びるための手がかりを教える事だけだ」
私が漏らした言葉に、そう返してくれる神様。
神様が直接私たちの世界に関わることは出来ないという言い伝えは、どうやら本当らしい。
「では、どうすれば……」
「生きたいと思い続ければ、報われる。それしか我には言えぬ」
余りにも無責任すぎませんか、神様?
せめて昨日の夢のことを説明して欲しいわ……。
「昨日の夢なら、簡単なことだ。あれは我が見せたレティシアの未来だ」
思考を読まれたらしく、そんな声が聞こえた。
「あの夢は天啓でしたのね……」
「そうだ。そろそろ時間切れのようだな。
汝に祝福あれ」
直後、私の意識は遠のいていって……。
目を開けると、元いた教会の光景がそこにあった。
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