毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
484 / 600
第二十二章 コーラル〜海の人形〜

第467話 共喰い

しおりを挟む
 パウルは、自身が搭乗している個体を含め、6匹のアイギスを分離していた。
 ステージ6は電気信号を操る。電気信号でコミュニケーションを取っているアイギスへの通信を、邪魔されてしまう。故にステージ6の前では宿主の側から離れさせないか、そもそも分離しない事が推奨される。
 がしかし。邪魔をされるのが通信だけならば、やりようは幾らでもある。

 

 フリードリヒがかつてギリシャで、フルグライトというステージ6へ使った方法と同じだ。細かく指示をせず、アイギスを配置する。そこから動かないよう、停止を求める。それだけでいい。
 特にフリードリヒが扱うハナガサクラゲ型アイギスのは、最も効果的で相性がいい。菌床へへばり付き勝手に毒素を注ぎ、傘からも伸びる触手で菌糸を死滅させてくれるのだから。
 とは言え、その特性を持たないアイギスでも応用は可能。
 宿主の死角となる場所など、守りを固めたい場所に置いておけば、宿主からの指示がなくとも菌糸の攻撃を防いでくれる。幾ら電気信号が乱されようとも、防衛本能は働くのだから。

 また一定の位置から動かない指示を一貫してくれるのならば、強風への対策も容易。アイギスの触手を適当な突起物に絡ませれば、いい。柱でも樹木でも――フラクタル図形を描く伸、三角形状の菌糸でも。
 あらかじめ菌糸へ絡み付けさせていたお陰で、爆風を受けてもアイギスは吹き飛ぶ事なく定位置に留まっていてくれる。海流に流されないよう、海藻やに捕まるのと同じだ。
 後はただ、命じればいい。

「砒素」

 青い血で白衣を汚しながらも、自分に付き従ってくれているウミヘビ、砒素へ。

「処分して」

 網目状の菌糸の中に籠る、ロベルト……。否、コーラルの、処分を。

「了解じゃ、パウル先生」

 直後、砒素は足場にしていた菌糸から飛び上がり、近場のアイギスの傘へ飛び移る。
 そしてそこを踏み台とし、また別のアイギスへ向かい飛び渡る。
 ドパパパパパッ!
 その軽やかな跳躍と並行し、砒素は絶え間なくガトリングを撃ち続けた。
 飛んで、撃ち、着地し、撃ち、また飛んで、撃ち、また着地をし――
 ピンポン玉のように空を跳ね、自身を地に叩き付けようとしてくる菌糸の触手もまた撃ち落とし、死滅させ排除し、ただひたすらにコーラルの殻を破ろうと、四方八方から毒弾の嵐を浴びさせ続ける。
 破壊の為だけに最適化された動き。彼の行動には一分の無駄も、迷いもない。

 ガキィンッ!
 硬質な金属音が空に響く。
 毒弾を浴び薄まったに、砒素が銃撃の合間に投げたヒ首が突き刺さったのだ。
 ヒュッ
 間髪入れずに、もう一投。2本目のヒ首が投げられ、最初のヒ首の柄尻を正確に
 その衝撃が支点となり、硬質な殻にヒビが走る。パキッと乾いた音を立て、ヒビの中心にヒ首が食い込み、ついに殻の内部へと侵入を果たした。
 次の瞬間、

「……おや」

 トス。
 刃の切先が、コーラルの首元へ、突き刺さった。
 直後、首が、顔が、胸元が、肩が、赤黒く染まっていく。毒素が、巡っている。

「砒素くんは、やはり怖いね」

 しかしコーラルは相変わらず温和に微笑み、焦燥も悲壮も感じさせない。
 しかも彼の視線は砒素でもパウルでもなく、明後日の方向を向いていた。
 ――それは毒弾でこめかみを貫かれ、宙ぶらりんなまま動きを停止しているガーネットであった。
 ガーネットは険しい表情を浮かべ、注がれた毒素を体外へ出そうともがいている。幸い、毒弾は体内に残っていない。毒自体もウミヘビの毒素のような凶悪さはなく、即死は免れている。
 だから多少、《核》である脳の組織を幾らか失おうと、死ぬよりはマシだとくり抜いて、排出しようと、体内の『珊瑚』を忙しなく蠢かせ、こめかみの穴から赤黒い体液を漏らしている。
 一見するとただ停止しているように見えるが、死を回避しようと最善を尽くしている事が、コーラルには

 とは言え、それも徒労に終わるだろう。
 何故ならば、地面に突き刺した真紅の翼を硫黄が伝い、よじ登り、ガーネットの元へ向かっているのだから。
 あの無遠慮な頂上へ辿り着けば、動けないガーネットはあっさりと、頭を潰され死に至る。

(それは、勿体無いな)

 あれだけたっぷり、養分を蓄えたのに。
 そう思ったコーラルは、をヒビを修復しながら、コーラルはのそりと片腕を上げた。柔らかな肉をたゆたえさせ、まるで届く筈もない空間へ向け、緩やかに指を伸ばす。
 しかしコーラルにとって物理的な距離は重要ではなかった。
 その状態でパキンと、まるで木の枝を折るかのように指先を動かせば――
 ゴキンッ!
 ガーネット本人の首もまた、コーラルの手の動きに合わせ、胴から離れてくれるのだから。

「……え」

 ガーネットが唖然とした顔で言葉をもらす。
 胴体から、『珊瑚』の大部分から切り離されたそれはなす術なく墜落し、菌床の上でぐちゃりと潰れた。
 熟れたトマトが落ちたような、湿った音が響く。

「うん。これで『瘤』は取れたね」

 コーラルは満足気に目を細め、親指、人差し指、中指を一度くっ付け、離す。
 まるで幼児が狼の口を真似た指遊び。
 が、その直後、コーラルの動きなど見えていないというのに、何かを察した真紅の翼にしがみついていた硫黄がすかさず翼を蹴り、跳躍音だけを残し空を飛び、距離を取る。
 ――ガパッ
 鯨の口。
 そう表現するのが相応しいだろう、超大な菌糸の塊が2つ、真紅の翼が突き刺さった地面から隆起した。

「いただきます」

 ぴとりと、コーラルが指先を再度くっ付ければ、鯨の口もそれに合わせ、閉じる。
 バクンッ!
 そして重厚な破裂音と共に、真紅の翼ごと、その足場だった地面の一部までもを、一口で飲み込んでしまった。

「よく熟していて美味しいよ、ガーネット。よく育ててくれたね」

 コーラルは至福そうに笑う。
 真紅の翼が取り込んでいた養分と『珊瑚』を丸ごと頂いた所で、コーラルは毒素に侵された身体の部位を瞬時に置換。そして手の平に赤い羽根を形成し、そこへ毒素を全て移す事により切除パージした。
 羽根はみるみる赤黒く染まり、ひび割れ、崩れ落ち、やがて灰となって風に散っていった。

「でもちょっと物足りないか。おやつも頂こう」

 するとコーラルはとんとんと、その場で足踏みをした。
 それを合図に、地面に広がっていた真っ赤な菌床がオレンジがかった薄桃色へと変色し――ぶくぶくと膨らみ、うねり、泡を立て、魚の姿を模した傀儡が、何体も浮上した。
 まるで海中を泳ぐかのように、それらは、菌床の上を、泳ぎ始める。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。  この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

処理中です...