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第二十二章 コーラル〜海の人形〜
第467話 共喰い
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パウルは、自身が搭乗している個体を含め、6匹のアイギスを分離していた。
ステージ6は電気信号を操る。電気信号でコミュニケーションを取っているアイギスへの通信を、邪魔されてしまう。故にステージ6の前では宿主の側から離れさせないか、そもそも分離しない事が推奨される。
がしかし。邪魔をされるのが通信だけならば、やりようは幾らでもある。
置けばいい。
フリードリヒがかつてギリシャで、フルグライトというステージ6へ使った方法と同じだ。細かく指示をせず、アイギスを配置する。そこから動かないよう、停止を求める。それだけでいい。
特にフリードリヒが扱うハナガサクラゲ型アイギスの置き石は、最も効果的で相性がいい。菌床へへばり付き勝手に毒素を注ぎ、傘からも伸びる触手で菌糸を死滅させてくれるのだから。
とは言え、その特性を持たないアイギスでも応用は可能。
宿主の死角となる場所など、守りを固めたい場所に置いておけば、宿主からの指示がなくとも菌糸の攻撃を防いでくれる。幾ら電気信号が乱されようとも、防衛本能は働くのだから。
また一定の位置から動かない指示を一貫してくれるのならば、強風への対策も容易。アイギスの触手を適当な突起物に絡ませれば、いい。柱でも樹木でも――フラクタル図形を描く伸、三角形状の菌糸でも。
あらかじめ菌糸へ絡み付けさせていたお陰で、爆風を受けてもアイギスは吹き飛ぶ事なく定位置に留まっていてくれる。海流に流されないよう、海藻や珊瑚に捕まるのと同じだ。
後はただ、命じればいい。
「砒素」
青い血で白衣を汚しながらも、自分に付き従ってくれているウミヘビ、砒素へ。
「処分して」
網目状の菌糸の中に籠る、ロベルト……。否、コーラルの、処分を。
「了解じゃ、パウル先生」
直後、砒素は足場にしていた菌糸から飛び上がり、近場のアイギスの傘へ飛び移る。
そしてそこを踏み台とし、また別のアイギスへ向かい飛び渡る。
ドパパパパパッ!
その軽やかな跳躍と並行し、砒素は絶え間なくガトリングを撃ち続けた。
飛んで、撃ち、着地し、撃ち、また飛んで、撃ち、また着地をし――
ピンポン玉のように空を跳ね、自身を地に叩き付けようとしてくる菌糸の触手もまた撃ち落とし、死滅させ排除し、ただひたすらにコーラルの殻を破ろうと、四方八方から毒弾の嵐を浴びさせ続ける。
破壊の為だけに最適化された動き。彼の行動には一分の無駄も、迷いもない。
ガキィンッ!
硬質な金属音が空に響く。
毒弾を浴び薄まった殻に、砒素が銃撃の合間に投げたヒ首が突き刺さったのだ。
ヒュッ
間髪入れずに、もう一投。2本目のヒ首が投げられ、最初のヒ首の柄尻を正確に押し上げる。
その衝撃が支点となり、硬質な殻にヒビが走る。パキッと乾いた音を立て、ヒビの中心にヒ首が食い込み、ついに殻の内部へと侵入を果たした。
次の瞬間、
「……おや」
トス。
刃の切先が、コーラルの首元へ、突き刺さった。
直後、首が、顔が、胸元が、肩が、赤黒く染まっていく。毒素が、巡っている。
「砒素くんは、やはり怖いね」
しかしコーラルは相変わらず温和に微笑み、焦燥も悲壮も感じさせない。
しかも彼の視線は砒素でもパウルでもなく、明後日の方向を向いていた。
――それは毒弾でこめかみを貫かれ、宙ぶらりんなまま動きを停止しているガーネットであった。
ガーネットは険しい表情を浮かべ、注がれた毒素を体外へ出そうともがいている。幸い、毒弾は体内に残っていない。毒自体もウミヘビの毒素のような凶悪さはなく、即死は免れている。
だから多少、《核》である脳の組織を幾らか失おうと、死ぬよりはマシだとくり抜いて、排出しようと、体内の『珊瑚』を忙しなく蠢かせ、こめかみの穴から赤黒い体液を漏らしている。
一見するとただ停止しているように見えるが、死を回避しようと最善を尽くしている事が、コーラルには手に取るようにわかった。
とは言え、それも徒労に終わるだろう。
何故ならば、地面に突き刺した真紅の翼を硫黄が伝い、よじ登り、ガーネットの元へ向かっているのだから。
あの無遠慮な頂上へ辿り着けば、動けないガーネットはあっさりと、頭を潰され死に至る。
(それは、勿体無いな)
あれだけたっぷり、養分を蓄えたのに。
そう思ったコーラルは、殻をヒビを修復しながら、コーラルはのそりと片腕を上げた。柔らかな肉をたゆたえさせ、まるで届く筈もない空間へ向け、緩やかに指を伸ばす。
しかしコーラルにとって物理的な距離は重要ではなかった。
その状態でパキンと、まるで木の枝を折るかのように指先を動かせば――
ゴキンッ!
ガーネット本人の首もまた、コーラルの手の動きに合わせ、胴から離れてくれるのだから。
「……え」
ガーネットが唖然とした顔で言葉をもらす。
胴体から、『珊瑚』の大部分から切り離されたそれはなす術なく墜落し、菌床の上でぐちゃりと潰れた。
熟れたトマトが落ちたような、湿った音が響く。
「うん。これで『瘤』は取れたね」
コーラルは満足気に目を細め、親指、人差し指、中指を一度くっ付け、離す。
まるで幼児が狼の口を真似た指遊び。
が、その直後、コーラルの動きなど見えていないというのに、何かを察した真紅の翼にしがみついていた硫黄がすかさず翼を蹴り、跳躍音だけを残し空を飛び、距離を取る。
――ガパッ
鯨の口。
そう表現するのが相応しいだろう、超大な菌糸の塊が2つ、真紅の翼が突き刺さった地面から隆起した。
「いただきます」
ぴとりと、コーラルが指先を再度くっ付ければ、鯨の口もそれに合わせ、閉じる。
バクンッ!
そして重厚な破裂音と共に、真紅の翼ごと、その足場だった地面の一部までもを、一口で飲み込んでしまった。
「よく熟していて美味しいよ、ガーネット。よく育ててくれたね」
コーラルは至福そうに笑う。
真紅の翼が取り込んでいた養分と『珊瑚』を丸ごと頂いた所で、コーラルは毒素に侵された身体の部位を瞬時に置換。そして手の平に赤い羽根を形成し、そこへ毒素を全て移す事により切除した。
羽根はみるみる赤黒く染まり、ひび割れ、崩れ落ち、やがて灰となって風に散っていった。
「でもちょっと物足りないか。おやつも頂こう」
するとコーラルはとんとんと、その場で足踏みをした。
それを合図に、地面に広がっていた真っ赤な菌床がオレンジがかった薄桃色へと変色し――ぶくぶくと膨らみ、うねり、泡を立て、魚の姿を模した傀儡が、何体も浮上した。
まるで海中を泳ぐかのように、それらは、菌床の上を、泳ぎ始める。
ステージ6は電気信号を操る。電気信号でコミュニケーションを取っているアイギスへの通信を、邪魔されてしまう。故にステージ6の前では宿主の側から離れさせないか、そもそも分離しない事が推奨される。
がしかし。邪魔をされるのが通信だけならば、やりようは幾らでもある。
置けばいい。
フリードリヒがかつてギリシャで、フルグライトというステージ6へ使った方法と同じだ。細かく指示をせず、アイギスを配置する。そこから動かないよう、停止を求める。それだけでいい。
特にフリードリヒが扱うハナガサクラゲ型アイギスの置き石は、最も効果的で相性がいい。菌床へへばり付き勝手に毒素を注ぎ、傘からも伸びる触手で菌糸を死滅させてくれるのだから。
とは言え、その特性を持たないアイギスでも応用は可能。
宿主の死角となる場所など、守りを固めたい場所に置いておけば、宿主からの指示がなくとも菌糸の攻撃を防いでくれる。幾ら電気信号が乱されようとも、防衛本能は働くのだから。
また一定の位置から動かない指示を一貫してくれるのならば、強風への対策も容易。アイギスの触手を適当な突起物に絡ませれば、いい。柱でも樹木でも――フラクタル図形を描く伸、三角形状の菌糸でも。
あらかじめ菌糸へ絡み付けさせていたお陰で、爆風を受けてもアイギスは吹き飛ぶ事なく定位置に留まっていてくれる。海流に流されないよう、海藻や珊瑚に捕まるのと同じだ。
後はただ、命じればいい。
「砒素」
青い血で白衣を汚しながらも、自分に付き従ってくれているウミヘビ、砒素へ。
「処分して」
網目状の菌糸の中に籠る、ロベルト……。否、コーラルの、処分を。
「了解じゃ、パウル先生」
直後、砒素は足場にしていた菌糸から飛び上がり、近場のアイギスの傘へ飛び移る。
そしてそこを踏み台とし、また別のアイギスへ向かい飛び渡る。
ドパパパパパッ!
その軽やかな跳躍と並行し、砒素は絶え間なくガトリングを撃ち続けた。
飛んで、撃ち、着地し、撃ち、また飛んで、撃ち、また着地をし――
ピンポン玉のように空を跳ね、自身を地に叩き付けようとしてくる菌糸の触手もまた撃ち落とし、死滅させ排除し、ただひたすらにコーラルの殻を破ろうと、四方八方から毒弾の嵐を浴びさせ続ける。
破壊の為だけに最適化された動き。彼の行動には一分の無駄も、迷いもない。
ガキィンッ!
硬質な金属音が空に響く。
毒弾を浴び薄まった殻に、砒素が銃撃の合間に投げたヒ首が突き刺さったのだ。
ヒュッ
間髪入れずに、もう一投。2本目のヒ首が投げられ、最初のヒ首の柄尻を正確に押し上げる。
その衝撃が支点となり、硬質な殻にヒビが走る。パキッと乾いた音を立て、ヒビの中心にヒ首が食い込み、ついに殻の内部へと侵入を果たした。
次の瞬間、
「……おや」
トス。
刃の切先が、コーラルの首元へ、突き刺さった。
直後、首が、顔が、胸元が、肩が、赤黒く染まっていく。毒素が、巡っている。
「砒素くんは、やはり怖いね」
しかしコーラルは相変わらず温和に微笑み、焦燥も悲壮も感じさせない。
しかも彼の視線は砒素でもパウルでもなく、明後日の方向を向いていた。
――それは毒弾でこめかみを貫かれ、宙ぶらりんなまま動きを停止しているガーネットであった。
ガーネットは険しい表情を浮かべ、注がれた毒素を体外へ出そうともがいている。幸い、毒弾は体内に残っていない。毒自体もウミヘビの毒素のような凶悪さはなく、即死は免れている。
だから多少、《核》である脳の組織を幾らか失おうと、死ぬよりはマシだとくり抜いて、排出しようと、体内の『珊瑚』を忙しなく蠢かせ、こめかみの穴から赤黒い体液を漏らしている。
一見するとただ停止しているように見えるが、死を回避しようと最善を尽くしている事が、コーラルには手に取るようにわかった。
とは言え、それも徒労に終わるだろう。
何故ならば、地面に突き刺した真紅の翼を硫黄が伝い、よじ登り、ガーネットの元へ向かっているのだから。
あの無遠慮な頂上へ辿り着けば、動けないガーネットはあっさりと、頭を潰され死に至る。
(それは、勿体無いな)
あれだけたっぷり、養分を蓄えたのに。
そう思ったコーラルは、殻をヒビを修復しながら、コーラルはのそりと片腕を上げた。柔らかな肉をたゆたえさせ、まるで届く筈もない空間へ向け、緩やかに指を伸ばす。
しかしコーラルにとって物理的な距離は重要ではなかった。
その状態でパキンと、まるで木の枝を折るかのように指先を動かせば――
ゴキンッ!
ガーネット本人の首もまた、コーラルの手の動きに合わせ、胴から離れてくれるのだから。
「……え」
ガーネットが唖然とした顔で言葉をもらす。
胴体から、『珊瑚』の大部分から切り離されたそれはなす術なく墜落し、菌床の上でぐちゃりと潰れた。
熟れたトマトが落ちたような、湿った音が響く。
「うん。これで『瘤』は取れたね」
コーラルは満足気に目を細め、親指、人差し指、中指を一度くっ付け、離す。
まるで幼児が狼の口を真似た指遊び。
が、その直後、コーラルの動きなど見えていないというのに、何かを察した真紅の翼にしがみついていた硫黄がすかさず翼を蹴り、跳躍音だけを残し空を飛び、距離を取る。
――ガパッ
鯨の口。
そう表現するのが相応しいだろう、超大な菌糸の塊が2つ、真紅の翼が突き刺さった地面から隆起した。
「いただきます」
ぴとりと、コーラルが指先を再度くっ付ければ、鯨の口もそれに合わせ、閉じる。
バクンッ!
そして重厚な破裂音と共に、真紅の翼ごと、その足場だった地面の一部までもを、一口で飲み込んでしまった。
「よく熟していて美味しいよ、ガーネット。よく育ててくれたね」
コーラルは至福そうに笑う。
真紅の翼が取り込んでいた養分と『珊瑚』を丸ごと頂いた所で、コーラルは毒素に侵された身体の部位を瞬時に置換。そして手の平に赤い羽根を形成し、そこへ毒素を全て移す事により切除した。
羽根はみるみる赤黒く染まり、ひび割れ、崩れ落ち、やがて灰となって風に散っていった。
「でもちょっと物足りないか。おやつも頂こう」
するとコーラルはとんとんと、その場で足踏みをした。
それを合図に、地面に広がっていた真っ赤な菌床がオレンジがかった薄桃色へと変色し――ぶくぶくと膨らみ、うねり、泡を立て、魚の姿を模した傀儡が、何体も浮上した。
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