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連載
282 ヘリオンの迷宮②
しおりを挟むがるると擬音が背後に浮かびそうなミリィをなだめるべく頭に手を載せて撫でてやるが、どうにも収まる様子はない。
ダリオの挑発はミリィに効果抜群だ。少しは煽り耐性を付けてほしいものだが。
「落ち着けミリィ。顔が真っ赤だぞ」
「だってあの人が……」
不満そうにぶーたれるミリィ。
煽られても流せばいいだけだろうに、子供だな全く。
「いいから引っ込んでいろ。ワシが話をつけてやる」
「……はぁい」
渋々引っ込むミリィに、ダリオが追撃を仕掛けてくる。
「ふふふ、あとはお兄さんに任せて逃げ出しますか? 情けないですねぇ」
「だ、誰が……っ!」
……こいつも調子に乗りすぎだ。
ワシはやれやれとため息を吐くと魔力を集中し、ダリオを睨みつける。
――――威圧の魔導。
テレポートによる退却を封じ、レベル差がある相手ならば強烈な威圧感を与え、怯ませることが出来る固有魔導。
ワシのは我流なので効果は薄いが、レベルの低いダリオを黙らす程度なら十分なようだ。威圧の魔導を正面から受けたダリオの表情が、一気に強張っていく。
「お、お前は……一体……?」
「なぁに、おこちゃまレベルのしがない冒険者だよ」
ワシの言葉にダリオは言葉を詰まらせ後ずさる。
それを見て、ワシの横であかんべーするミリィ。
ま、まぁこれでミリィの溜飲も下がったなら別にいいか……威圧の魔導を緩めると、ダリオはへなへなと崩れ落ちた。
「おいゼフ、とっとと行くぞ」
「そうだな。時間を無駄にしてしまった」
「えーと……ではボクたちはこれで……」
「ま、待てっ!」
ワシらが洞窟へ足を踏み入れようとすると、ダリオが呼び止めてきた。
まだ受けた威圧から回復していないのか、声と足が少し震えている。
「み、ミリィとやら! 私との勝負から逃げるつもりなのかい?」
「はぁ……?」
まだ絡んでくるのかよ。本当に面倒くさい奴だ。
いや、こいつは装備や連れている奴隷からして、そこそこの地位の者なのだろう。
ケンカを売っておいてビビッて引き下がるなど、そう簡単には出来ないのか。
しかも奴隷たちの前だからな。
やれやれ、どうしたものかなと考えていると、ふと良い考えを思いついた。
ワシはニヤリと笑うとダリオの方を向き直る。
「……わかったいいだろう、勝負を受けてやれ。ミリィ」
「え? い、いいけど……」
戸惑いつつも頷くミリィを見て、ダリオはニヤリと笑う。
「ふふ、そう来なくては……! 言っておくが、互いを傷つけたりする類の勝負は当然禁止だ。あくまで冒険者として、正々堂々だからな! 勝負方法はトレジャードロップを望む!」
――――トレジャードロップ。
冒険者同士でよく行われる勝負の一種で、ダンジョン内のドロップアイテムを、より多く集めた方が勝ちというものである。
数は問わず、とにかく種類を集めた方が勝利なのだ。
より広範囲、より多くの魔物と、より多く戦う必要がある為、パーティの総合力がモノを言う。
互いに傷つける事もないし、冒険者同士が行う勝負の中では割と平和的なものの一つだ。
(そして計画通り……!)
ダリオはワシにビビっていたし、奴自身の戦闘力は恐らく高くない。
直接戦闘を避けるならば、提案してくると予想される勝負はそう多くないからな。
きっとこれで勝負をかけて来ると思っていた。
「ふうん……いいわよ! その勝負受けようじゃない!」
「成立ですね」
バチバチと火花を散らすミリィとダリオ。
思い通りに事が運んでいるのにほくそえみつつ、ワシはごそごそと袋を漁る。
取り出したのは小さな紙とそれを止めるピン。
これは旅人の道しるべと言うアクセサリーで、自分の通ったルートが紙に自動でマーキングされていくのだ。
通称マーカー、地図なしでダンジョンに挑む場合はあると便利なのである。
「ダリオといったか。これを渡しておこう。お互いの進路が被ると、色々やりにくいだろう?」
「成程、互いの進路がわかれば道が被る事もないと……おい、お前つけておけ」
ピンを奴隷の女に渡すダリオ。
女がピンを鎧の内側に仕込むと、白紙にじわりと光が浮かぶ。
ワシも同様に襟首にピンを仕込むと、ダリオの持つ紙にじわりと光が浮かんだ。
これで互いの位置がわかるようになるというわけである。
「期間は……そうだな、5日後でどうだ?」
「いいでしょう。ふふ、まぁ3日で十分かもしれませんが……おい行くぞお前ら」
そう言って奴隷を引き連れたダリオは迷宮へと潜っていく。
ワシはそれを見送りながら、マーカーをもう一本取り出してクロードへと手渡した。
「それはワシら用のだ。クロードがつけておけ」
きょとんとしていたクロードだったが、すぐにワシの考えに気付いたのか口元に笑みを浮かべる。
「成程……ボクたちとダリオさんたち、二組で同時にダンジョンを探索して、より早く、より効率的に地図を完成させようと言う事ですね? ドロップアイテムの数ではなく種類で勝負しているので、より広範囲を探索する必要がある……と」
「察しが早いな」
クロードが胸元にマーカーをつけると、じわりと紙に光が浮かんだ。
ダリオの光は真っ直ぐ降りて行っているようだな。
「……ではワシらも行くとするか?」
「絶対負けないんだから……!」
ミリィが闘志を燃やしている。まぁ普通に考えて負けないだろう。
奴隷のレベルはそこそこ高いが、それでもワシらの平均レベルは80を超えているからな。
とはいえミリィも大概だ。
あんな挑発に毎度乗っているようでは、リーダーは務まらないからな。
少し灸を据えておくか。
「……ちなみに負けた時、あいつが何か要求してきた場合はミリィが何とかして責任を取るのだぞ」
「えっ!?」
「そりゃあ自分で買った喧嘩なのだからな。当然ではないか」
「うう……そ、そりゃあそうだけど……」
「実力差は十分あるとはいえ、トレジャードロップはレア運も絡んでくるからな。必勝とはいえんだろう。しかし戦闘用の女奴隷を使うような奴だ、負けた時はどうなるか想像もつかんなぁ……」
「あ、あうあう……」
涙目でワシを見上げるミリィ。
見捨てられるとでも思ったのだろうか。
どれもう少し……追撃を仕掛けようとしたところで、レディアがワシの後頭部をペチンと叩く。
「こぉ~ら、ゼフっち~あまりミリィちゃんをいじめないの!」
「む……悪い」
レディアはミリィを抱き寄せながら、ワシの額に人差し指を突き付けてくる。
やれやれ、調子が狂ってしまったな。
「えぇと……それでは改めて、潜りましょうか!」
「そうですね、ミリィさんの為にも勝たなければなりませんし」
クスクスと笑いながらクロードがシルシュと共に先頭を進むのであった。
クロードの緊張も少しほぐれたようである。
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