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連載
283 ヘリオンの迷宮③
しおりを挟む「ブルーゲイルっ!」
水竜巻がコウモリの魔物、シャドウバットを巻き上げその魔力値を削り取る。
消滅したシャドウバットがドロップしたのは闇の牙。
大した価値はない。いわゆる収集品である。
「これで手に入れたドロップアイテムは七種類だね~」
レディアが袋にしまうその横で、シルシュがクンクンと鼻を鳴らしている。
「右に曲がったところから、まだ戦っていない魔物のニオイがします」
「あぁ待て、そっちはダリオたちの進路と被る。出来れば他のを探してくれ」
「ん……では真っ直ぐで。そちらにも同じのがいます」
シルシュの嗅覚のお陰でドロップアイテムの収集は順調だ。
ちなみに戦いは皆に任せ、ワシは地図の作成に専念している。
まだ上層なので大した魔物はいないし、ワシが戦闘に参加しなくても問題はない。
それよりダリオたちが別ルートを埋めているし、敵が弱いのでワシらの進む速度も速い為、地図を書く方が忙しいのだ。
敵が弱く皆の進行速度も速い為、置いていかれないようにするのが精一杯である。
「思ったより早く任務が終わるかもしれないな」
「あっはは、ミリィちゃんが絡まれたおかげだね~」
「うぅ……なんか全然嬉しくない……」
何やかんやと言いながら進んで行くと、下へ降りる階段を発見した。
「階段だな」
「階段だね~」
「まだこの階は調べ尽くしていませんよね、降りずに探索を続けますか?」
「ふむ、確かにそれも手だがダリオはまだこの階で探索中だし、帰る時にでも埋まっていないルートを通る方が効率的だろう」
「わかりました。進みましょう」
と、先頭のクロードが階段を降りようとすると、シルシュが前に立ちはだかる。
「クロードさん敵です、止まってください」
直後、階段の陰から赤い火の玉のようなものがあらわれる。
揺らめく炎の身体、その周囲には小さな鬼火を幾つか従えている。
――――ウィルオウイプスか。
霊体系の魔物だ。不気味なその姿に、クロードの身体が強張る。
ウィルオウイプス
レベル61
魔力値14524
「ブルーゲイルっ!」
即座にブルーゲイルを放つミリィ。
水竜巻がウィルオウイプスを包み、その身体を削っていくが、炎を揺らめかせながらもウィルオウイプスは怯まない。
強引に抜けると、纏った鬼火をこちらに飛ばしてきた。
「危ない、ミリィさんっ!」
とっさに前に出て、クロードがそれを盾で防ぐ。
その隙間から、セルベリエが魔導を放った。
「――――ブラックゼロ」
既に詠唱を終えていたセルベリエが黒き風の槍を放つと、それは水竜巻を突き破り、ウィルオウイプスを貫いた。
大きな穴の空いたウィルオウイプスは、霧散するように消滅していく。
「あっはは、もーせっちんとミリィちゃんが強すぎて、私たち出る幕ないねぇ」
パチパチと手を鳴らしながら、自嘲気味に笑うレディア。
まだ上階層という事もあり、今まで出てきた魔物は殆どミリィのブルーゲイルで一撃。
たまに撃ち漏らしたのも、セルベリエが確実に仕留めている。
他の皆は殆ど戦ってすらいない。
……だが前衛がいるからこそ、魔導師は魔導に専念できるのだぞ。
ワシがそう言おうとすると、セルベリエがもごもごと口を動かす。
「そ、そんな事はない! 皆のおかげでその……上手く戦えている……と、思う……」
真っ赤になりながらも皆のフォローをするセルベリエに、思わず皆が噴き出した。
「な、何が可笑しいっ!」
「くっくっ、いや別に……」
「あっはは、せっちんはカワイイねぇ~」
「だ、抱きつくなっ!」
レディアがセルベリエに後ろから抱きつき、赤く染まった頬をプニプニとつついている。
昔のセルベリエは私一人で十分だ、とでも言わんばかりの戦い方だったが、少しは皆に合わせる事が出来るようになったのだな。中々持って感心だ。
「ね、あれ見てよ」
ミリィの指差す先、ウィルオウィプスが消滅した場所に何かが落ちている。
ウィルオウィプスのドロップアイテム、小さなランタンだ。
「これでこの階層の魔物の収集品は全部手に入れたんじゃない?」
「そうだな」
後回しにしようと思っていたが、結果オーライである。
ダリオたちはまだ入口の方をうろついているようだし、思ったよりこの勝負、楽勝かもしれないな。
ともあれ先に進むとしよう。
「おいっ! もっと早く進まないかっ!」
ダリオの怒声が迷宮に響く。
先頭に三人の女奴隷が前衛、そしてダリオは後衛だ。
とはいえダリオが倒し終わるまで前衛は一切攻撃せず、魔物の攻撃を全て受け続ける、という歪んだパーティであるが。
「レッドスフィア!」
ダリオの発動させた轟炎が、魔物を捉える。
あわや味方に直撃させるところであったが、ダリオは悪びれる様子もない。
ミリィのような子供だらけの冒険者パーティに見くびられたのだ。彼はイラついていた。
(だが私が勝てば……ふふ、あの世間知らずのガキにコイツを嵌めてやるぞ……!)
じゃらり、と手に持った首輪を鳴らす。
――――隷呪の首輪。
これは敗北を認めた相手に嵌め、隷属の呪詛を唱える事で強制的に主従関係を強いる呪われた装備である。
魔導師協会によって使用する事自体が禁じられているが、ダリオは金に物を言わせ、闇オークションでこれを手に入れたのだ。
今、自分の壁役として戦っている女奴隷もそうして手に入れたモノである。
力では敵わぬダリオだが上手く彼女たちを罠に嵌め、奴隷としたのだ。
隷属の首輪は一般にはほとんど知られていないアイテムなので、何か簡単なゲームで勝利し罰ゲームとして首輪を嵌めさせるだけで効果は発動する。
「あの見るからにアホそうな娘……確かミリィだったかな。……丁度魔導師の奴隷も欲しかったんだよねぇ……ふふふ」
ほくそ笑むダリオの足元で、影が蠢く。
それに気づいた女奴隷が剣を突き刺した。
影は醜い呻き声を出し、びくびくと痙攣している。
「うわっ!? な、何だっ!?」
ダリオの足元にいたのは小さいが強力な毒を持つ魔物、デスフロッグである。
長い舌に毒を持ち、それを伸ばして攻撃して来るのだ。
デスフロッグは短い断末魔を上げ、ピクピクと手足を動かした後、消滅してしまった。
「お怪我はありませんか?」
奴隷はダリオの身を案じるが、彼は奴隷を睨みつける。
「……いつ君が倒していいといった」
「は?」
「デスフロッグは柔らかく、得られるマナも多い。こういう魔物こそ私が倒さべきではないのかね?」
「し、しかし咄嗟の事だったので……」
「言い訳はいらんっ! その身で私を庇えばいいだけの事だろう!」
ダリオが奴隷の背にムチを打ちつける。
彼女の背には、いくつもの痛々しい痣が走っていた。
「あぐっ!?」
くぐもった声を上げる奴隷に構わず、何度もムチを打ちつけるダリオ。
しばらくすると、流石に疲れたのか息を切らせながらダリオは吐き捨てた。
「ふん、愚図が……早く進むぞ。ノロノロしている暇はないぞ」
「……はい」
奴隷たちを前に立たせ、ダリオたちはダンジョンの奥へと進むのであった。
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