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連載
284 ヘリオンの迷宮④
しおりを挟む「今日はここらで終わりにするか」
現在ワシらはヘリオンの迷宮地下四階まで降りていた。
割りといいペースで進んでいるし、今日はもう休んでもいいだろう。
皆、集中力が切れ気味だしな。特にミリィ。
ワシの言葉にヘロヘロだったミリィが目を輝かせる。
「うんっ! そーだねっ! 今日はもうやすもーっ!」
「あっはは、ミリィちゃんたら嬉しそー」
「だ、だってずっとお腹空いてたんだもん……」
ミリィが腹を押さえると、くるくると可愛らしい音が鳴る。
時計を見ると確かに夕飯時だ。ミリィの腹時計は正確である。
「ではテントを出しますね」
クロードが取り出したのは携帯テント。
ダンジョンに設置し、マナをエネルギーとしてそこに空間を生成するアイテムである。
守護結界と同じ能力もついているので、ボス格の魔物でもなければ見つかるような事もない。
通路の隅にテントを設置すると壁の奥に空間が生まれ、ミリィから順に中へと入っていく。
「ゼフ、少しいいか」
四人が中に入り、ワシと二人きりになるとセルベリエが話しかけてきた。
「どうした?」
「あのダリオとかいう男……気をつけた方がいい」
静かに、だが強い口調で言うセルベリエ。
「隷呪の首輪か?」
「知っているのか」
「昔ちょっと、な」
やはり隷呪の首輪の事だったか。
あまり表には出てこないアイテムだが、セルベリエくらいになると知っていてもおかしくない。
「ただの金持ちボンクラなら気にする事はないが、隷呪の首輪は裏世界に顔が利かないと手に入らないモノだ。恐らくあの女たちも騙されて隷呪の首輪を嵌められたに違いない」
ワシも同じ考えだ。
高レベルの冒険者ともなれば余程の理由がなければ奴隷などに身を落とすなんて事もないだろうからな。
「酷いことを……」
彼女たちに強いられたであろう酷い仕打ちを想像したのか、セルベリエが眉を顰め、唇を噛んだ。
(ふーむ、しかしあのセルベリエがそこまで他人の事を気遣えるようになっていたとはな)
昔であれば、騙された奴が悪いとバッサリだったろうに、ミリィたちの考えに感化されたのだろうか。
変われば変わるものである。
「ゼフ、何とかできないだろうか?」
「大丈夫、あんな奴に好きな様にはさせんさ。あの娘たちも含めてな」
それに今は逆らえなくされているが、隷呪の首輪を解除する方法もあるにはある。
同じ冒険者として、出来れば助けてやりたいところだ。
ともあれまずはこの勝負を勝つのが第一条件だな。
考え込んでいると、セルベリエがワシを見て呆れたように微笑んでいた。
「全く……頼りになる事だな」
「くっくっ、まぁそれ程でもあるがな」
「馬鹿、調子に乗るのはゼフの悪い癖だ」
そう言ってワシの手の甲をつねるセルベリエ。
おい、痛いではないか。
「ゼフーっ! セルベリエーっ! 何してるのー! もうゴハンできてるわよーっ」
「あぁ、すぐに行く」
ミリィに呼ばれ、ワシらはテントへ入るのだった。
夕食はクロードとミリィの手製料理である。どことなく母さんの作った料理に近づいている。
そういえば最近、クロードとよく料理を作っていたっけな。
「それにしても大分上手くなったのではないか? ミリィ」
「えへへ~それ程でもあるけどさ~」
……なんか同じようなセリフを今しがた言った気がする。
セルベリエも堪えきれないといった感じでワシに背を向け肩を震わせている。
おい、笑っているのがバレバレだぞ。
「あっはは、毎日クロちゃんにしごかれてた甲斐があったね~」
「ちょっ! れ、レディアったらもーっ!」
レディアにからかわれながら、ミリィは誤魔化すように料理を口いっぱいに頬張るのであった。
そして夜が明けて次の日、十分に休息したワシらは探索を再開していた。
「ブルーゲイルっ!」
安定の初手ブルーゲイル。あらわれた魔物を水竜巻が包み込む。
馬鹿の一つ覚えにしか見えるかもしれないが、これはこれで合理的なのだ。
高速念唱、高威力のブルーゲイルは速攻で相手の戦力を削る。
限界まで極めた大魔導はただ撃つだけでも強力である。
「ギイイイ!!」
水竜巻を突き抜け、魔物があらわれた。
銀色に輝く甲殻を持つムカデのような魔物、スティンガーである。
スティンガー
レベル71
魔力値 17631/21252
高い魔導耐性を持つ魔物で、動きも素早い強敵だ。
ガサガサと音を立てながら、凄まじい速度でこちらに近づいてくる。
「ひっ!?」
小さく悲鳴を上げ、セルベリエがワシの背中に隠れてしまった。
ワシの肩を掴んだまま、ガタガタと震えている。
……そういえばこの人、重度の虫嫌いだったな。
「ったく、仕方ないな」
地図を一旦仕舞ったワシはタイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはグリーンクラッシュとホワイトクラッシュを二回ずつ。
――――四重合性魔導、ビートクラッシュダブル。
ばぢん、と衝撃音がして頑丈そうな甲殻が内部から弾け飛ぶ。
飛散した甲殻と共に、スティンガーは消滅した。
ビートクラッシュは魔導耐性を無視する合成魔導、硬い相手には効果抜群である。
「……すまない、どうにもあぁいうのは苦手で……」
「気にすることありませんよ! 苦手なものは誰にでもありますからっ!」
苦手なものがある同士、仲間を見つけたクロードは嬉しそうだ。
「ん……先刻のスティンガー、この階層には沢山いるようですね……周りからニオイがしますし、ほらまた」
「そ、そうか……」
再度あらわれたスティンガーに、顔を青くするセルベリエ。
どうやらこの様子では、セルベリエは使い物にならんな。
かといってワシは地図を描く仕事があるし……仕方ない、ここはアインを呼ぶとするか。
合成召喚のバリエーションも色々試したいしな。
警戒しつつも近づいてくるスティンガーへ手をかざし、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはサモンサーバントとブルースフィア。
――――合成召喚、カラードサーバント。
地面から水が吹き上がりそこから出てきたのは、青い水着姿のアインである。
手のひらに浮かばせていた水球をぽーんと上へ投げ飛ばし、自分もそれを追いかけて跳ぶ。
「アインベルーっ……すぱーいくっ!」
全身をバネのようにしならせ、右手を水球に向け振り抜いた。
凄まじい速度で撃ち出された水球はスティンガーの甲殻に直撃し、その身体を大きく仰け反らせる。
べっこりと甲殻がへこみ、ひびが入っているようだ。何という威力。
「水を操る美少女精霊……ブルーアインといったところかしらね」
得意げに着地して、一人呟くアイン。
……まぁ遠距離攻撃が出来るのは便利かもしれないな。
「……何よおじい、人の事ジロジロ見て」
「別に、それよりまだ生きているぞ」
「もぉ~タフなゲジゲジ……」
「私たちも行くよっ!」
「わかりました!」
レディアたちも戦闘に加わり、皆で取り囲んでスティンガーをボコボコにし始めた。
その間にワシは地図の製作を進めていく。
ふむ、とりあえず現在の5階層まで、その7割程度は埋まったな。
ダリオたちはまだ三階層。
ワシらと違うルートを通り、地図の埋まってない部分を埋めてくれている。
それでも残った部分は、帰りにでも埋めてしまえばいいだろう。
「終わったよ~おじいごはん~」
「わかったわかった」
アインにジェムストーンの入った袋を渡すと、手掴みでジャラジャラと食べ始めた。
結構高いんだからせめて味わって食べろよ。
……まぁ買ってくれているレディアは気にしてなさそうだし、別にいいか。
美味しそうに食事するアインを、レディアは幸せそうな顔で眺めている。
あまり調子に乗っていると太るぞ。
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