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339 誰がために鐘は鳴る④
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「体内から爆破……ですか」
「あぁ、それならば被害は最小限に抑えられる。戦いながら出来るだけ街から離れ、十分に離れたところで口の中にこいつを突っ込み……ドカンだ」
ワシの言葉にクロードはごくりと息を飲んだ。
無論ではあるが、言うは易しである。
あれだけの巨体だ。
戦いながら引き付けるのも困難だろうし、置けば食べてくれるような事もなかろう。
だがクロードは、じっとワシを見つめて微笑む。
「でも、考えはあるんですよね」
「あぁ、そこらも含めてな」
「だったらボクは、ゼフ君を信じるだけですから」
全幅の信頼を寄せている、といった風に頷くクロード。
ならば信頼に答えねばなるまい。
そう思い、黒い竜の方を向き直ろうとしたワシの後ろから罵声が響く。
「っでぇぇぇえーい! なにをいちゃついてるのよっ!」
振り向くとベルが飛び蹴りを仕掛けてきたので反射的に受け止めた。
そのまま足を上げた姿勢のまま固まるベル。
「は、離しなさいよバカっ!」
「お前が攻撃してきたのだろうが……」
やれやれとため息を吐きながらベルの足を離してやると、スカートの裾を直し始めた。
何やら赤い顔でワシを睨みつけているが……自業自得だ。
「それで、何の用だ?」
「この一大事だってのに、あんたらがいちゃついてるからイライラしたのよっ!」
「べ、べつにいちゃついてなんか……」
クロードが真っ赤な顔で反論しているが、多分逆効果だぞ。
むしろベルは疑うような視線を向けて来ている。
「……ま、それはどうでもいいわ。さっきの話だけど、あの黒い竜を倒す手段があるなら、それでさっさと倒してきなさいよ」
「言われるまでもない……が、この辺りにも被害が及ぶかもしれんぞ」
「もう及んでるわよ!」
まぁそりゃそうか。
あれだけ暴れたんだものな。
「そーいうこと。これ以上ぐちゃぐちゃになっても文句は言わないし、言わせない。逃げ遅れた人たちは、みんなで何とかするわ。だからあんたたちは、あいつを倒しなさい!」
ワシを正面から見据え、ベルは言った。
力強く、よく響く声。クロードは思わず背筋を伸ばす。
女王であるアインベルの分体なんだものな。確かにそれなりのモノは持っているようである。
「……任せておけ」
「任せたわっ!」
腕組みをしたまま、ワシらを見送るベル。
やたら偉そうなのもその影響だろうか、苦笑しながらワシはクロードを連れ黒い竜へと向かっていく。
街と反対方向へと回り込み、奴の背後へ向けタイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはレッドボール、ブルーボール、グリーンボール、ブラックボール、ホワイトボール。
――――五重合成魔導、プラチナムスラッシュ。
黒い竜の首元を狙い、白銀に輝く一閃が走る。
ぎしり、と鈍い音がして刃が折れ曲がり、弾き飛ばされた。
白銀の刃が森に突き刺さり、土煙を上げながら消滅していく。
「グルルルルルル……」
ゆっくりとこちらを向き直る黒い竜がゆっくりと口を開ける。
そこから漏れ出る黒いモヤが、全身を濃い黒に彩っていく。
やはりあれのせいで、魔導の威力が弱まっているようだな。
こちらを向かせるついでにあわよくば、と思ったが大したダメージは与えられていないようである。
……ま、想定済みだがな。
「クロード、こっちだ」
「は、はい!」
ともあれ奴を街から引き離す。
ワシはクロードと共に、『例の場所』へと走るのだった。
一方その頃、アインベル率いる正規軍は黒い魔物のあらわれた貧民街へと向かおうとしていた。
しかし、逃げ惑う民衆に阻まれ、集結した軍は身動きが取れず固まっていたのである。
白馬に乗ったアインベルへ、先頭の部隊から伝令が届いた。
「だ、駄目です姫様! 民衆の流れが邪魔をして、とても進めませんっ!」
「何とかならないのですか? このままでは被害は広がる一方です」
「そう言われましても、我々の言う事など全く聞いてくれないのです……!」
先頭部隊の兵士たちは逃げ惑う民衆に声を荒げるが、民は全く気にすることなく兵たちの前を通り抜けていく。
それはそうだ。先刻まであの恐ろしい巨竜に教われていたのである。
命の危機に瀕した直後、兵士の言う事など聞くはずもない。
兵たちは好き勝手走り回る民衆に隊列を乱され、進行を阻まれていた。
(こんな事になるなんて……)
そう呟いて、アインベルは手綱を握りしめる。
街の人々の守れるよう、兵を街中に展開していた為、招集に時間がかかってしまった。
人々が自由に暮らしを営めるよう生活スペースを大きく取った為、集めた兵を思うように動かせなくなってしまった。
結界を十分に張れなかった場所は、出来るだけ人が住まぬようあえて環境を悪くしていたが、それでも多くの人が住み着いてしまっていた。
(民の為、正しき事をしてきたつもりでしたが……思い通りに行かぬものですね)
その悔しさに、唇を噛むアインベル。
自分は女王として、失格なのかもしれない。
だが落ち込んではいる暇はない。今、この瞬間にも人が死んでいるのだ。
アインベルは大きく深呼吸をして、きりとした顔で前を向き、叫んだ。
「それでも行くのです! 民を、国を守る為!」
「はっ、了解いたしました」
「出来るだけ民を傷つけぬよう、進むのですよ。私たちの第一の使命は民を守る事なのですから」
「……は」
それも進軍の遅くなっている理由の一つなのだが、と兵は思った。
アインベルは平時は良き女王であったが、戦の経験はないに等しい。
実際民の為、と街や軍を改造した事が今回の事態に繋がっているのである。
(せめてアインベルさまが連れてきた、二人の戦士に期待するしかないか)
逃げ惑う人を捕まえ聞いたが、どうやら前線では黒い竜と戦う二人の戦士がいるらしい。
アインベルさまの連れてきた二人だろう。
だが敵は強大。いつまで持つかはわからない。
一刻も早く駆けつけねば……そう決意した兵は、部隊へと戻っていく。
人の濁流に飲まれながらも、アインベル率いる正規軍はゆっくりと進んでいくのであった。
「あぁ、それならば被害は最小限に抑えられる。戦いながら出来るだけ街から離れ、十分に離れたところで口の中にこいつを突っ込み……ドカンだ」
ワシの言葉にクロードはごくりと息を飲んだ。
無論ではあるが、言うは易しである。
あれだけの巨体だ。
戦いながら引き付けるのも困難だろうし、置けば食べてくれるような事もなかろう。
だがクロードは、じっとワシを見つめて微笑む。
「でも、考えはあるんですよね」
「あぁ、そこらも含めてな」
「だったらボクは、ゼフ君を信じるだけですから」
全幅の信頼を寄せている、といった風に頷くクロード。
ならば信頼に答えねばなるまい。
そう思い、黒い竜の方を向き直ろうとしたワシの後ろから罵声が響く。
「っでぇぇぇえーい! なにをいちゃついてるのよっ!」
振り向くとベルが飛び蹴りを仕掛けてきたので反射的に受け止めた。
そのまま足を上げた姿勢のまま固まるベル。
「は、離しなさいよバカっ!」
「お前が攻撃してきたのだろうが……」
やれやれとため息を吐きながらベルの足を離してやると、スカートの裾を直し始めた。
何やら赤い顔でワシを睨みつけているが……自業自得だ。
「それで、何の用だ?」
「この一大事だってのに、あんたらがいちゃついてるからイライラしたのよっ!」
「べ、べつにいちゃついてなんか……」
クロードが真っ赤な顔で反論しているが、多分逆効果だぞ。
むしろベルは疑うような視線を向けて来ている。
「……ま、それはどうでもいいわ。さっきの話だけど、あの黒い竜を倒す手段があるなら、それでさっさと倒してきなさいよ」
「言われるまでもない……が、この辺りにも被害が及ぶかもしれんぞ」
「もう及んでるわよ!」
まぁそりゃそうか。
あれだけ暴れたんだものな。
「そーいうこと。これ以上ぐちゃぐちゃになっても文句は言わないし、言わせない。逃げ遅れた人たちは、みんなで何とかするわ。だからあんたたちは、あいつを倒しなさい!」
ワシを正面から見据え、ベルは言った。
力強く、よく響く声。クロードは思わず背筋を伸ばす。
女王であるアインベルの分体なんだものな。確かにそれなりのモノは持っているようである。
「……任せておけ」
「任せたわっ!」
腕組みをしたまま、ワシらを見送るベル。
やたら偉そうなのもその影響だろうか、苦笑しながらワシはクロードを連れ黒い竜へと向かっていく。
街と反対方向へと回り込み、奴の背後へ向けタイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはレッドボール、ブルーボール、グリーンボール、ブラックボール、ホワイトボール。
――――五重合成魔導、プラチナムスラッシュ。
黒い竜の首元を狙い、白銀に輝く一閃が走る。
ぎしり、と鈍い音がして刃が折れ曲がり、弾き飛ばされた。
白銀の刃が森に突き刺さり、土煙を上げながら消滅していく。
「グルルルルルル……」
ゆっくりとこちらを向き直る黒い竜がゆっくりと口を開ける。
そこから漏れ出る黒いモヤが、全身を濃い黒に彩っていく。
やはりあれのせいで、魔導の威力が弱まっているようだな。
こちらを向かせるついでにあわよくば、と思ったが大したダメージは与えられていないようである。
……ま、想定済みだがな。
「クロード、こっちだ」
「は、はい!」
ともあれ奴を街から引き離す。
ワシはクロードと共に、『例の場所』へと走るのだった。
一方その頃、アインベル率いる正規軍は黒い魔物のあらわれた貧民街へと向かおうとしていた。
しかし、逃げ惑う民衆に阻まれ、集結した軍は身動きが取れず固まっていたのである。
白馬に乗ったアインベルへ、先頭の部隊から伝令が届いた。
「だ、駄目です姫様! 民衆の流れが邪魔をして、とても進めませんっ!」
「何とかならないのですか? このままでは被害は広がる一方です」
「そう言われましても、我々の言う事など全く聞いてくれないのです……!」
先頭部隊の兵士たちは逃げ惑う民衆に声を荒げるが、民は全く気にすることなく兵たちの前を通り抜けていく。
それはそうだ。先刻まであの恐ろしい巨竜に教われていたのである。
命の危機に瀕した直後、兵士の言う事など聞くはずもない。
兵たちは好き勝手走り回る民衆に隊列を乱され、進行を阻まれていた。
(こんな事になるなんて……)
そう呟いて、アインベルは手綱を握りしめる。
街の人々の守れるよう、兵を街中に展開していた為、招集に時間がかかってしまった。
人々が自由に暮らしを営めるよう生活スペースを大きく取った為、集めた兵を思うように動かせなくなってしまった。
結界を十分に張れなかった場所は、出来るだけ人が住まぬようあえて環境を悪くしていたが、それでも多くの人が住み着いてしまっていた。
(民の為、正しき事をしてきたつもりでしたが……思い通りに行かぬものですね)
その悔しさに、唇を噛むアインベル。
自分は女王として、失格なのかもしれない。
だが落ち込んではいる暇はない。今、この瞬間にも人が死んでいるのだ。
アインベルは大きく深呼吸をして、きりとした顔で前を向き、叫んだ。
「それでも行くのです! 民を、国を守る為!」
「はっ、了解いたしました」
「出来るだけ民を傷つけぬよう、進むのですよ。私たちの第一の使命は民を守る事なのですから」
「……は」
それも進軍の遅くなっている理由の一つなのだが、と兵は思った。
アインベルは平時は良き女王であったが、戦の経験はないに等しい。
実際民の為、と街や軍を改造した事が今回の事態に繋がっているのである。
(せめてアインベルさまが連れてきた、二人の戦士に期待するしかないか)
逃げ惑う人を捕まえ聞いたが、どうやら前線では黒い竜と戦う二人の戦士がいるらしい。
アインベルさまの連れてきた二人だろう。
だが敵は強大。いつまで持つかはわからない。
一刻も早く駆けつけねば……そう決意した兵は、部隊へと戻っていく。
人の濁流に飲まれながらも、アインベル率いる正規軍はゆっくりと進んでいくのであった。
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