効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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340 誰がために鐘は鳴る⑤

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 ――――黒い竜から逃げることしばし、奴を街から十分引き離す事に成功していた。
 丁度風下だし、この辺りで一気に捲くか。

「クロード、マントを借りるぞ!」
「わかりましたっ!」

 クロードのマントを掴み、ぐるりと顔全体を包みタイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはレッドスフィアとブルースフィア。
 ――――二重合成魔導、バーストスフィア。

 前方に向け放ったバーストスフィアが、大爆発を引き起こす。
 森に立ち込める土煙が、風で一気にこちらへと流れてきた。
 轟々と吹きすさぶ砂嵐を、クロードのマントに二人で包まって耐える。
 土煙に混ざる小石が、足に当たって痛い。

「っ! いたたっ!」
「少し我慢していろ。確かこの辺りに……あった」

 袋から取り出したのは、ゴーグルである。
 こいつはレディアが普段しているもので、土煙や閃光で視界を塞がれても、ある程度先まで見ることが出来るのだ。
 あの時、ついでにとくれたのである。
 ゴーグルを装着すると、ぼんやりではあるが木々のなぎ倒された森の跡地が見える。

「飛ぶぞクロード、しっかり掴まっていろよ」
「は、はいっ!」

 そのままテレポートを念じて、奴と一気に距離を取る。
 連続してテレポートしたワシは、辺りを見渡せそうな高い木を見つけその頂上辺りに向け飛んだ。
 見下すと、黒い竜がワシらを探し回っているのが見える。

「グルルルルゥ……!」

 ふん、だが見つかってはいない様だ。
 黒い竜は明後日の方をグルグルと回っている。
 土煙で身を隠し、テレポートで離脱する作戦は成功のようだな。

(だが、ゴーグルが壊れてしまったな……)

 至近距離で石つぶてを食らいながらテレポートしたせいだ。
 すまんレディア。
 だが、役には立ったぞ。

「ともあれ、あとはこいつをぶち込むだけだな」
「ティアドロップ、ですか」

 袋に手を入れ、ティアドロップを撫でる。
 冷たい金属の感触が、汗ばんだ手を心地よく冷やしてくれた。

「はぁ……ふぅ……それでゼフ君、これからの作戦は?」
「そう急くなクロード。少し休んでいろ」
「ですが……いえ、わかりました」

 反論しかけたクロードだったが、すぐに納得しワシに身体を預ける。
 自身の疲労を自覚していたのだろう。いざという時、それでは足手まといになってしまうのも。

「ったく、ホコリまみれではないか」
「ん……」

 埃と土で乱れたクロードの髪を撫でるように梳いてやると、心地よさそうに目を閉じた。
 クロードはワシを庇うように、しんがりで戦ってくれていた。
 ワシを守る為、鎧や剣、盾を装備したまま走っていたのだ。疲れていて当然である。
 多少休ませねばなるまい。奴もワシらを見失っているようだしな。

「……それで作戦だが、あれを飲み込ませるのは至難の業だ。あれだけの巨体、その頭に辿り着くのも一苦労だし、上手く飲み込んでくれるとも限らん」
「自発的に食べて貰う……というのも難しそうですしね。あまり美味しくはなさそうですから」

 あははと冗談めかして笑うクロード。

「うむ、だが腹に入れるという着眼点は悪くない」
「といいますと?」
「黒い魔物は強い再生能力を持つ。奴の切り裂いてその中に突っ込めば、回復した奴の腹の中にはティアドロップが埋め込まれるという寸法だ」
「それはまた無茶な……」

 クロードの言う通りだ。
 相手は高い魔導耐性もある上に凄まじい巨体である。腹を裂くなど言っては見たが、簡単ではない。

「無茶は承知だ。そしてクロードにも無茶をして貰うつもりだぞ。くっくっ」
「うぅ、お手柔らかにお願いします……」

 冷や汗を流しながら、クロードは答える。
 今から行う作戦には、クロードの協力が必須だ。
 しっかり頑張って貰わねばな。

「――――というわけだ。いけるかクロード」
「行くしかないんですよね……やります」
「いい子だ」

 作戦の手筈を説明し終わったワシは、不安げに頷くクロードの頭にぽんと手を載せ、撫でた。
 困ったような顔で笑うクロードの表情からは、疲れも大分消えているようだ。
 それに遠くの方に見えるのは……うむ、あいつらも来る頃合いだな。

「そろそろ行くか。奴もしびれを切らしている頃だしな」

 ワシらを探すのを諦め、街の方へと戻ろうとしている黒い竜を狙いブラックスフィアを念じる。
 風の刃が奴の頭部を囲むように発生し、幾多もの刃が一気に振り下ろされた。

「グルゥゥゥ!……」

 だが、ギンギンと金属音を鳴らしただけで、ダメージは与えられないようだ。
 ちっ、やはり硬いな……しかしこちらに気付かせるのは成功したようだ。
 黒い竜はこちらを向き直り、大きな口を耳まで裂けるようにして開き、嗤う。
 大きく開けた口のその昏い喉奥から、一筋の光が漏れる。

「来るぞクロード」
「はいっ!」

 クロードがワシの前に立ち、盾を構えた瞬間である。
 炎が奴の口から吐き出され、周囲が高温に包まれた。
 チリチリと空気の焦げる音が聞こえる。だがスクリーンポイントを展開したクロードの後ろにいれば、大したダメージを受けることはない。

「はぁっ!」

 クロードが盾を振るうと、炎が霧散した。
 周囲の木々は焼け焦げ、隠れる場所はなくなっている。
 計画通り、見晴らしがよくなったな。

「手筈通り頼むぞクロード」
「わかり……ました……っ!」

 目を瞑り、クロードが精神を集中させていく。
 構えた剣から、魔導のオーラがうっすらと立ち昇っていくのが見える。

 ――――魔導剣、ヤツのどてっぱらを切り裂く為の秘策はこれだ。
 だが普通の魔導を込めてはあの固い皮膚を貫くのは不可能。よって込めるのはワシの合成魔導である。

 自身の魔導才能の低さを知っていたクロードは、魔導剣を編み出そうとした時からワシやミリィとの合成魔導剣を想定して練習していたのだ。
 しかしそれはまだ未完成。強力な魔導を剣に込める場合、受け皿としての機能を十分に果たすよう、自身の魔力を剣に込めるのに時間が必要があるのだ。
 その間は、無防備なクロードを守る必要がある。

「グガァァァァラァァァァア!!」

 咆哮を上げ、どすどすと土煙を上げながら向かってくる黒い竜。
 ワシは足元の地面へ手をかざし、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはグリーンウォールを四回。
 ――――四重合成魔導、グリーンウォールスクエア。

 黒い竜の足元に、もさもさと沸き上る緑の魔力蔦。
 一本一本が大木ほどもある蔦が黒竜の太い脚に絡まりその動きを封じていく。

「ガ……グルァァ……!?」

 躓き倒れる黒い竜。蔦は両腕、全身にも絡み付き始める。
 だが止まらない。ゆっくりとではあるが、這いずるようにしてこちらへと向かってくる。
 見れば全身を覆う黒い霧が、濃くなっている気がする。
 霧が蔦を蝕み、融かしているようだ。
 ぶちぶちと音を立て、千切れては消滅していく魔力蔦。

「ちっ、やはり長くは持たんか……」

 次々と手を打っていかねばなるまい。
 魔力回復薬を飲み干して、再度タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはレッドスフィア、グリーンスフィア、ブラックスフィア。
 ――――三重合成魔導、ヴォルカノンスフィア。

 奴の鼻先目がけて発動した溶岩の塊が直撃するが、皮膚が焦げ煙が上がった程度だ。
 構わず向かってくる黒い竜にもう一発、更にもう一発ヴォルカノンスフィアを放つ。

「ガッ!?」

 呻き声を上げ、がくんと足を折る黒い竜。
 今のヴォルカノンスフィアはダメージが目的ではない。
 地面に当たった溶岩の塊は、奴の足元を融かしていたのだ。
 動けば動くほど、溶岩と化した地面に飲まれるのである。
 既に奴の足は地面に埋まり始めていた。

(このまま溶岩が冷えて固まれば、そう簡単に動く事は……ッ!?)

 ワシがそう考えた瞬間である。
 黒い竜の背に生えた翼が、巨大化したのだ。
 そして高く持ち上げた翼を、一気に振り下ろした。

「ぬぅっ!?」

 同時に巻き起こる爆風。
 吹き飛ばされそうになりながらも、咄嗟にブルーウォールを念じる。
 ぎしぎしと揺れる氷の壁に守られながら黒い竜を見上げると、奴は翼をはためかせ、溶岩から脱出していた。
 だがあまり長時間は飛べないのか、すぐに翼は小さくなり、ずずんと土煙を上げて地面に着地する。

「ちっ……いい技を持っているではないか」
「グルルルルルル……ルァァアァアアアアアアアアア!!」

 黒い竜はワシを憎々しげに見おろすと、戦意十分といった咆哮を上げるのだった。
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