量産型英雄伝

止まり木

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外伝4 女王の執着

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 人類同盟軍の撤退を聞いたガルロックは、すぐさまラガツにいるフォニアへと報告する為に通信を繋いだ。

 フォニアはトブタイのキャビンを改造した執務室でその報告を受けた。
 フォニアの正面には、板が浮いており、鏡のように人物を映していた。ただしそれは正面にいるフォニアではなくこの場からは遠いスベン公国にいるはずのガルロックが映っていた。しかし、その板を見ることが出来るのは仮面ヘッドセットをつけているフォニアだけだ。
『…と言うわけで、人類同盟軍の部隊を追い返しました。報告は以上です』
「そう…。戦闘にならずに済んだのは良かったですね。物資に関しては良くやりました。物資を得た兵士には褒美を与えましょう。現在我が国にはあらゆるものが不足しがちですからね」
『ですが、私が言うのもなんですが、後で人類同盟が文句を言ってきそうですな』
「我が国が払った分担金の分を返してもらっているだけです。問題ありません。また随分と足りませんが…」
『それもそうですな…。陛下。明日の、審問会十分にお気をつけください。今回の策が失敗したと知れば奴らが強硬手段に出る可能性は非常に高いと思われます』
 人類同盟本部に呼ばれたのはすべて、スベン公国からトブタイを無数に召還できる能力者であるアマタを奪い取る為の謀略。ガルロックの心配ももっともだ。
「分かっています。その為の防衛策も話し合ったではないですか。ガルロックは心配性ですね」
『それでもです。そこは敵地、大事な御身。警戒のし過ぎという事もありますまい。陛下とアマタ殿のご帰還を心よりお待ちしております。では、失礼いたします』
 そう言うとガルロックが映っていた板が一瞬にして消える。
(本当にこれは便利ですね。ですがそのおかげで私は今も大忙しです)
 フォニアは、高級そうな椅子の背もたれに体重を預けるとため息を付いた。
 スベン公国と遠く離れているにもかかわらず、通信が出来るのは、ラガツとスベン公国との間の上空に複数のザムイーワックを飛ばし、中継器としているからだ。そのおかげでフォニアは、政務を本国にいるのと殆ど変わらずにこなす事が出来る。
「はぁ」
 ため息を付いたフォニアは、これをもたらした異国の少年の事を思った。

 元々は三人の勇者を召還する儀式で、何の間違いが一緒に召還されてしまった四人目。
 火の神の化身たる神霊機フレイムソスを召還する火の勇者熱田健二。
 水の神の化身たる神霊機アクアヴィーネを召還する水の勇者水上紗枝。
 木の神の化身たる神霊機ククノチを召還する木の勇者木下はじめ。
 最後に、何の神の化身か分からぬ…異質な鉄巨人を召還せし天田英行。

 最初アマタを見た時のフォニアの第一印象は、奇妙な服を着た場違いな貴族のボンボンと言った印象だった。
 多くの人々が四人目のという事でアマタに注目していたが、アマタの力が明らかになるにつれ、多くの人はその興味をなくした。アマタは神霊機では無い異質な鉄巨人を召還することが出来たが、それは神霊機と比べると明らかに弱かったからだ。
 ただ、神霊機が腕部などを損傷した場合何日も送還しておかなければ修理できないのに対し、異質な鉄巨人…ザムはどんなに破壊されたとしても翌日には新品同様になるという事が判明したが、最強無敵を体現した神霊機の力には遠く及ばない。
 ゆえに、なんだかよく分からないおまけと言うのが天田英行が、この世界の者達に当初与えられた評価だった。

 このイレギュラーな存在に一同は取り扱いに困った。勇者の同郷の者という事で無下に扱うことも出来ず、かといってあまり戦力として期待出来そうに無い。しかし、一個人が持つ武力としては大きく無視できない。勇者のおまけとして付ける案も出たが、それには勇者を迎える予定の三カ国は難色を示した。
 各国はそれぞれの勇者を自国に取り込むつもりなので余計な物である四人目は邪魔だったのだ。

 そこで手を上げたのがフォニア…スベン公国だ。

 アポリオンの再来までスベン公国は、辺境の地にあるとは言え、貧しくも無くそれなりに発展していた国だった。
 周辺国家の状況は、レグオン帝国は、ハヌマ王国との戦争の準備に忙しく、ケルー王国とサリア共和国と戦争中と不穏な物ではあったが、双方共に目標の正反対の位置に存在する小国と態々敵対するようなことは無かった。これには宗主国が、暗闘無双と呼ばれたセイラン王国であることも一因だった。
 フォニア自身も一国の姫として生まれた。幼い頃に母親を亡くしたが、乳母や、城で働く人々そして父である国王ダリルの下ハイレルゲンですくすくと育った。

 フォニアは、国の姫として教育を受けながら、自身もいずれは王族として他国の貴族や王族に嫁ぎ、生きていく事になるだろうと漠然と思い暮らしていた。
 しかし、そんな王族としての当たり前の未来はアポリオンの再来であっけなく崩れる。

 宗主国の崩壊。
 宗主国から逃れてくる難民。
 迫り来るアポリオンの群れ。
 家臣の裏切り。
 枯渇する国庫。
 傷つき倒れる自国民。
 蹂躙される自国。
 逃げまどいハイレルゲンへと集まる避難民。
 フォニアはそれを日々疲弊していく父の隣で見聞きしていた。
 フォニア自身も、自国防衛のために動けない王に代わり、諸外国を飛び回り援助の要請に奔走する。
 まるでゆっくりと真綿で首を絞められているような日々に、彼女は日に日にやつれていった。それでも母国のために動き続けた。

 アマタはそんなフォニアにとって溺れていた時に近くに浮いていた一本の藁だった。
 最前線国家4カ国の中でもっとも小国であり、セイラン王国と言う後ろ盾も失ったスベン公国は、勇者を諦める代わりに援助を確約してもらうのがやっと。だからこそ、一つでも多くの戦力を欲していた。
 そしてフォニアが伸ばした腕は、藁を掴んだ。

 掴んだ藁が、ただの藁などではなく、巨大な船につながる浮き輪だったのに気付いたのは、少し後の事。勇者を諦めた代償である支援物資を運ぶ輸送部隊と一緒にスベン公国のカルナートに向かっている時だ。

 フォニア達はその旅の途中でアポリオンの群れに襲わたがザムの圧倒的力によってアポリオンの群れを退けることが出来た。しかし、アバドンの最後の抵抗により、輸送部隊の隊長であった義勇軍のセリアの乗るダロスが崖へと向かって吹き飛ばされた。ザムに乗るアマタはそれを助けようとしたが、ザムの自重と戦闘の振動により地面が崩れ二人は、谷底へと落ちていった。
 崖に落ちたアマタ達を心配しつつもフォニア達は先を急いだ。その場にいればさらにアポリオンの群れが襲ってくるかもしれなかったからだ。
 やっとの事でフォニアがスベン公国の首都に帰り着いた時に見たのはアポリオンによって破壊されたハイレルゲンだった。
 フォニア達は、ハイレルゲンにいた人々が逃げていることを願い東端の都市カルナートへ進路を向けた。
 そんなフォニアを追い討ちをするようにハイレルゲンを襲ったアポリオンの一部が、フォニアがいる輸送部隊を襲う。
 必死に逃げる輸送部隊。しかし、アポリオンたちの足は速く、今にも輸送部隊へ追いつき、手にかけようとしていた。
 危機的状況だというのにフォニアの心はそれを他人事のように感じていた。自身が守ろうとしていた街が墜ち、父王の安否すら分からないのだから無理も無い。
 そこへ、ザムが現れた。

 アマタ達を竜車の窓から見た時、アマタ達が生きていたと言う喜びより、困惑が先に立った。何故なら、一機しか存在しないはずのザムが二機あったからだ。召還する機体は、一機しか呼べないと言うのがこの常識だった。
 殿を務めていたフォルスの活躍により、輸送部隊より引き離されたアポリオンの群れは瞬く間にその二機のザムに殲滅された。
 アマタの協力を得られれば国を守れる!フォニアの胸にはわずかな希望が火が灯る。
 が、カルナートに到着したフォニアに待っていたのは、父がハイレルゲンから撤退した時におった傷により死の淵にあると言う報告だった。
 カルナートの城に用意された貴賓室に向かうとそこには、血にまみれた包帯に包まれた父王がベットに横たわっていた。
 瀕死の父からフォニアは、国を任された。
 フォニアは死した父王を前に考え、女王となることを決意する。
 
 女王となったフォニアの前には二つの道があった。勇者を要する国に併合されされる道。勇者を要する国の庇護下に入れば国民の命は保障されるからだ。だが、庇護した国は元スベン公国の民を下級民として扱い、酷使される苦難の日々となるのは、周辺諸国を回ったフォニアには容易に想像できた。

 もう一つは、アマタの力を使い国を立て直す道。ザムを量産し軍を建て直し、自分達の手で領土をアポリオンから奪還する。これもまた苦難の道だ。アマタの力にはまだ不透明な部分が多く、本当に量産できるか、出来たとしてもアポリオンが本格的にカルナートに攻め込む前に間に合うのかと不確定な要素が多く、何より兵と民を命の危険へとさらす苦難の道。

 どっちの選んでも苦難の道。
 フォニアは国を立て直す道を選んだ
 フォニアの胸に宿った希望の火が併合されると言う道を選ばせなかった。
こう
 道を選んだフォニアが最初にしたのが、身を挺してのアマタの取り込み。
 (彼を絶対に逃がしてはならない!この身を差し出そうとも!)
 そして彼女は文字通り何をされてもかまわないと身を差し出し、アマタの協力を取り付けた。
 もっともアマタがヘタレだった為に手を出されることは無かったが…。

 それからフォニアはアマタと協力して自国の復興に努めると同時に彼女は彼をずっと見続けた。
 アマタを逃がさない為に。
 分かったのは、彼は用心深いようで抜けていて、臆病なのに変なところで意地を張って、しっかりしているようで抜けていて、人を疑っているのにすぐ信用してしまう。大人のようで子供で、子供のようで大人。あまりにもこの世界の人間と違う価値観に逆にフォニアが戸惑うばかり。
(本当におかしな…いえ、不思議な人よね。アマタ様って)
 そう思っているがフォニアの顔は微笑んでいる。

 だが、そんな少年だったが、アマタは不思議とスベン公国の人々となじんだ。
 それは何故か、その理由は彼の頼りなさだった。

 アマタの力はザムを召還すると言う能力は強力だ。しかし、一人では出来ることが大幅に制限される。それにザムは神霊機と月とスッポンレベルで弱い。
 アマタには、ザムを運用する為の知識や、新しい軍組織(元の世界の軍組織)があった。が、その知識には欠落(表面上しか分かってない物。つまりにわか知識)が多く、こちらの世界の軍人の知識をだして何とか使い物になるレベルだ。

 そしてフォニアによって騙されて(正確に言うなら危険であることを知らせずに)連れて来られ、騙されたと知ったのに何故かスベン公国に協力するという優しさ。

 アマタの持つ中途半端な力と中途半端な知識がそして、甘いとすら言えるやさしさ、さらに付け足すとしたら融合アポリオンと戦った時の無鉄砲さが、彼と接した人々に"この人だけじゃ駄目だ。自分達がフォローしないと!"と思わせたのだ。

 いつの間にか、アマタは能力だけにあらずスベン公国の中ではなくてはならない(というか心配で仕方が無い)存在となった。
 そしてそれはフォニアも例外ではなかった。危なっかしいアマタから目が離せず、今のように政務中にもかかわらずふとアマタの事を思い浮かべるようになった。
 恋なのか愛なのか、それとも庇護欲求なのかすら分からないその感情は、いつしか王としての義務入り混じり当然の結論へといたる。
(彼は我が国の物。絶対に他国になど渡しはしないわ!ふふ!何があっても)

 その時、机の上に散らばる一枚の簡易的な報告書が目に入った。
 報告書には、敷地に侵入した工作員を尋問したが、まだ情報を聞き出す事が出来ていないという事が書かれている。
 あわよくばアマタを誘拐しようとした
 捕らえた賊は現在は人型牢獄に収監されている。
 人型牢獄とは、文字通り、人一人が入るスペースしかない牢獄だ。格子で出来た棺と言ったほうが分かりやすいだろうか?何故かハイレルゲンの城の地下にあったものを持ってきていた。

(尋問して雇い主を聞き出したいのだけれど、連れて来た兵達に尋問を得意とする者はいないし…どうしようかしら)
 フォニアは少し悩むといいことを思いついた。
(そうだわ。ここにはセイラン王国の避難民が多い。もしかしたらその中に尋問が得意な人がいるかもしれない!)
 フォニアは早速今ザムで警備に経っているセリアに通信を繋いだ。
『セリアよ。何?どうかしたの?』
「唐突で悪いのですが、この地にいる拷問官を紹介してもらえないでしょうか?賊が話してくれないそうで…」
『…尋問官にしときなさい』
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