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外伝3 強制査察部隊の失敗3
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「そっその声はガルロック殿。ガルロック殿なのか?」
『ああ、そうだ』
「はっははは。ガルロック殿も人が悪い最初から乗っていたのなら言ってくだされば良いものを…」
乾いた笑いと冷や汗をカニンガムの中で流しながら言った。
『いや、私はコットン殿の目の前に居るザムに乗ってはおらんよ。私は、今カルナートの執務室にいる。そこから貴殿に話しかけている。ザム同士には遠距離にあっても、まるで隣り合っているように話が出来る力があるのだ。今、貴殿と私が話しているのはその力の応用だ。まったく素晴らしい力だろう』
「すっ素晴らしいお力ですな!では、話が早い。ガルロック殿お約束どおり援軍を連れて来ましたぞ!我らも早速戦列に加えてくだされ!」
『断る。帰ってくれ』
にべも迷いも無い断りに、コットンは一瞬思考が停止した。
「はっ?我は約束を守って援軍をつれて来たと言うのにこの仕打ちは酷いではありませぬか!」
『…では聞くが、貴殿が援軍を呼びに行くと言って出国してから一体どれだけ時間が経ったと思っている?』
コットンが、援軍を呼びに行くと言って出て行ってからすでに一年以上は経過している。約束どおり連れて来たにしては、どう言い繕ったとしても遅すぎた。
「じっ時間が掛かったのは申し訳ないと思っておる!だが見てくだされ!これだけの援軍をそろえてきましたぞ!」
コットンが、背後の部隊を誇るように腕を広げる。が、ガルロックの雰囲気は冷たいままだ。
『こちらの連絡には一切答えず、人類同盟に問い合わせてもコットン殿は病気療養中。援軍は全く来ず。ハイレルゲンは落ち、陛下はその時の戦いの傷でお隠れなされた…。それが今更なんだ?約束どおり?どの面下げここに来た』
「…」
その声は静かではあったが、内にすさまじい怒りを滲ませ、迫力に思わずコットンは押し黙った。
コットンとてパンデモニウムと呼ばれる事すらある人類同盟の中でそれなりにのし上がってきた者だ。この手の怒りを向けられた事は無数にある。その経験をもってしても、ガルロックの怒りに腰が引けた。
『不要だ。現在我が国はデアフレムデ殿のお力により召還されたザムが大量配備されたお陰で建て直しが完了した。指揮系統が別の部隊が我が国に入るのは、混乱の元。邪魔以外の何者でもない。お帰りいただこう』
(大量配備…?これが?嘘だろ!?)
話を聞いていたルドリックの…いや、ほかの兵士達は絶望した。どう見てもザムは、フォルスとは比べ物にならない程の力を持っている。そのザムが勇者機より圧倒的に弱いという情報は知っていたが、それは今、何の慰めにもならなかった。たとえ熊が鹿より強かろうが、鹿に踏み潰されるアリには何の意味も無いのと同じだ。
そんな相手と彼らは戦うかもしれないのだ。絶望するなと言うほうが無理だ。
(クソ野郎コットン!俺はこいつと戦うのは嫌だぞ!ここはどうにか誤魔化してくれ!)
ルドリックの内心はここ居る兵士達全員の思いだ。先ほどの訓練を見て戦意を滾らせる様な人間は一人も居ない。もはや望むのは、悪巧みがばれる前に撤退する事だけ。しかし、コットン内情は兵士達の願いとは間逆のものだった。
(どうする?ここで何としてでもスベン公国を制圧せねば私の栄達が…。少なくとも、何か手柄をもしくは手土産を持って帰らねば、私の人生は終わる!何とか!何とかしなければ!)
自分の栄達に目の曇ったコットンは、必死に事態を打開する為の方法を考える。
最前線国家から逃げ出すと言うという失態を一度犯し、本来であれば再起など考えるべくも無かった中、突然転がり込んできたチャンスを逃すまいと必死なのだ。
(…そうだ。万が一にデアフレムデがスベン公国に残っていた時の為の装備がある!)
デアフレムデがスベン公国に残っていた時の為の装備とは、簡単に言えば強固なカギ爪付きのロープの事だ。これは召還当初にザムの性能を調査していたタッファ教が、もしもデアフレムデがザムで暴走した時を想定し、フォルスによってザムを制圧又は撃破する為に用意していた物だ。
もちろん勇者の力を使えば、文字通り赤子の手を捻るように簡単に取り押さえることが出来る。だが、そんな時間があるならアポリオンと戦うか休息をしていてほしい。勇者の仕事とはアポリオンと戦うことであり、それ以外の事は余計なことでしかない。なのでフォルスによるザムの制圧をフォルスで行う為の方法が準備されていた。取り押さえる側に相応の被害をこうむる事を前提にしてだが。
今回は人類同盟からタッファ教に多額の寄付金を払い、それらの装備を借り受けていた。
(相手はたった4機。しかも内三機は訓練兵。こちらは精鋭兵士の乗る最新型のカニンガムを含むフォルスが50機!あの連発式の銃も弾には限りがあるはず…。数を頼みにすれば何とか…何とか一機だけも鹵獲出来るのではないか?)
もしルドリックが…いや、この場にいた兵士達の誰しもがこのコットンの心の内を聞いたら、「出来るか馬鹿!」と大声で怒鳴る事だろう。
しかし、未来の栄光に囚われたコットンは、敵対を決定付ける言葉を発しようとした。
「わ…!」
その時、再びキィィィンと言う甲高いエンジン音が空から聞こえてきた。その場に居た強制査察部隊員全員が空を見上げる。そこには3機のトブタイが飛んでおり、まっすぐ彼らが居るほうへと向かってきている。そして彼らのいる場所の上空に来ると3機のザムが降下した。
ズズズン!
三機は強制査察部隊から少し離れた位置に着地した。
「なっ何だねあれは?」
『安心されよ。あれは国境警備隊のザムだ』
7機のザムを確認した瞬間、未来の栄光というコットンの甘美な夢は、一瞬にして砕かれた。
(あれが七機?あれ?これは…。危険ではないかね?いや、まてこれは危険だ。無理だ。あんな巨大な連発銃を持つ鉄巨人7機相手にフォルスが50機ばかりで勝てるか?いやそれが四機であっても勝てるわけ無いではないか!)
ある意味正気を取り戻した彼は、スベン公国から逃げ出した時と同じように今自分のいる場所が、危険地帯であり、その奥深くまで来てしまっていた事に気がついた。まるで妖精に誘われて歩いていたらいつの間にか底なし沼に嵌っていた気分だった。
着地した警備隊のザムは、そのまままっすぐ強制査察部隊のほうへと歩み寄る。部隊に最初に近づいてきたザムとは違い、こちらは武器を構えたままだ。スベン公国へと続く道を塞ぐように立った。
(さっきの着地、あの最初の連中が着地した時より振動が小さいし、着地からの体制の立て直しもスムーズだ。あいつらが訓練小隊って言うのは嘘じゃなさそうだ)
周りの兵士達が不安にさいなまれている中、新たに現れたザムの動きをルドリックは一人鼻息荒くガン見していた。
(さっき降りてきた奴らより着地が丁寧だ。あいつらが訓練兵ってのは本当だったんだ!やばいぞ!)
『スベン公国所属の第八国境警備小隊だ。知ってのとおり、現在我が国は、国境を封鎖している。ゆえに諸君らの入国は許可できない。引き返せ。さもなくば実力で排除する』
今まで訓練小隊の面々からは銃は向けられていなかったが、警備部隊は何の躊躇も無く銃口を強制査察部隊の面々へと向けていた。
「…しっ仕方が無い。しかし、人類同盟からの援軍を、拒んだという事は、上層部に報告させてもらいますぞ!」
言われっぱなしでは引き下がらない。それが唯一コットンに許されたプライドだった。
コットンそう言った瞬間、緊張の糸が張り詰めていた兵士達が一斉にほっとため息を付いた。これで帰れる。生きて帰れる。もはや頭の中には今回の任務の事など消し飛んでいた。
『どうぞご随意に…では仕事があるので失礼する』
するとぷつりと音が切れた。ガルロックが通信を切ったのだ。
やれやれさぁ帰るぞと命令も無いのに回れ右している兵士達。
『では、支援物資はこちらで運びますので、その場に置いていってくださって結構です』
そこへ、目の前のザムが言った。
ガルロックが通信を切ったので、声は訓練教官のカワードのものだ。
「はっ?」
その一言を聞いてコットンが固まった。強制査察部隊は、行軍の速度を上げるためスベン公国への支援物資など持ってきてはいない。持ってきているのは支援物資に見せかけた自分たちの為の物資だけだった。
『えっ?支援物資も持って来ずに来たのですか?援軍なのにも係わらず?』
「いや、我々の援軍を断ったではないか!」
『我が国は、援軍は断っても支援物資は断ってはいませんよ。まさか、最前線になっている国に支援物資も持たずに来る援軍もありますまい?』
カワードの疑問に国境警備小隊の隊長機がわざとらしく答えた。
援軍とは言えど、飲み、食い、寝る。それにフォルスがあれば補給に整備にといろいろと必要になる。補給物資を持たずに援軍だけ来るという事は、援軍が来られた側がそれらの物資や場所を用意しなければならないという事。とはいえ援軍を必要としているほどの場所にそれらがあると考える人間は普通はいない。特に援軍に行く国が小国であるならなお更だ。
つまり支援物資を持たずに来る援軍とは存在しない。もしそれらが現れたとしたら、それは援軍ではなく、弱りきった国に対し襲い掛かろうとしてくる賊だと思われても仕方が無い。
コットン達が置いていけるのは、自分達の分だけだ。しかしそれらを、"支援物資です"と言えるだけの量を置いていくと、帰り道は悲惨なことにしかならない。
(人類同盟からの命にも答えられず、物資だけを取られておめおめと帰還。そうなれば私の…いや、我がコットン家の未来は暗いものとなる。いいのか我は?それで?)
「ははは、ああ、もちろんだ!運ぶ手間が省けるというものだよ君。おい!」
コットンは自分の内に発生した疑問に躊躇無く答えを出した。命を大事にという。
「はっ!」
「最後に寄った街まで持つ水、食料を除いてすべて置いて行く。いそげ!」
「…よろしいので?」
近づいてきた副隊長に声をひそめて言うと彼は、思わず聞き返した。
「いいから言うとおりにしろ!貴様死にたいのか!」
「はっ!」
副官は、連れて来た輜重部隊のほうへとカニンガムを走らせた。
人類同盟強制査察部隊は、街にたどり付く為の最低限の食料以外をすべて残し、早足で帰っていった。
(俺もあれに乗りたい。どうやったら乗れるだろうか?帰ったらいろいろと調べてみよう)
その際、ちらりと振り返り、こちらを見ているザムを見てルドリックは思った。
帰り道、人類同盟強制査察部隊がかなりひもじい思いをしたのは言うまでもない。
『ああ、そうだ』
「はっははは。ガルロック殿も人が悪い最初から乗っていたのなら言ってくだされば良いものを…」
乾いた笑いと冷や汗をカニンガムの中で流しながら言った。
『いや、私はコットン殿の目の前に居るザムに乗ってはおらんよ。私は、今カルナートの執務室にいる。そこから貴殿に話しかけている。ザム同士には遠距離にあっても、まるで隣り合っているように話が出来る力があるのだ。今、貴殿と私が話しているのはその力の応用だ。まったく素晴らしい力だろう』
「すっ素晴らしいお力ですな!では、話が早い。ガルロック殿お約束どおり援軍を連れて来ましたぞ!我らも早速戦列に加えてくだされ!」
『断る。帰ってくれ』
にべも迷いも無い断りに、コットンは一瞬思考が停止した。
「はっ?我は約束を守って援軍をつれて来たと言うのにこの仕打ちは酷いではありませぬか!」
『…では聞くが、貴殿が援軍を呼びに行くと言って出国してから一体どれだけ時間が経ったと思っている?』
コットンが、援軍を呼びに行くと言って出て行ってからすでに一年以上は経過している。約束どおり連れて来たにしては、どう言い繕ったとしても遅すぎた。
「じっ時間が掛かったのは申し訳ないと思っておる!だが見てくだされ!これだけの援軍をそろえてきましたぞ!」
コットンが、背後の部隊を誇るように腕を広げる。が、ガルロックの雰囲気は冷たいままだ。
『こちらの連絡には一切答えず、人類同盟に問い合わせてもコットン殿は病気療養中。援軍は全く来ず。ハイレルゲンは落ち、陛下はその時の戦いの傷でお隠れなされた…。それが今更なんだ?約束どおり?どの面下げここに来た』
「…」
その声は静かではあったが、内にすさまじい怒りを滲ませ、迫力に思わずコットンは押し黙った。
コットンとてパンデモニウムと呼ばれる事すらある人類同盟の中でそれなりにのし上がってきた者だ。この手の怒りを向けられた事は無数にある。その経験をもってしても、ガルロックの怒りに腰が引けた。
『不要だ。現在我が国はデアフレムデ殿のお力により召還されたザムが大量配備されたお陰で建て直しが完了した。指揮系統が別の部隊が我が国に入るのは、混乱の元。邪魔以外の何者でもない。お帰りいただこう』
(大量配備…?これが?嘘だろ!?)
話を聞いていたルドリックの…いや、ほかの兵士達は絶望した。どう見てもザムは、フォルスとは比べ物にならない程の力を持っている。そのザムが勇者機より圧倒的に弱いという情報は知っていたが、それは今、何の慰めにもならなかった。たとえ熊が鹿より強かろうが、鹿に踏み潰されるアリには何の意味も無いのと同じだ。
そんな相手と彼らは戦うかもしれないのだ。絶望するなと言うほうが無理だ。
(クソ野郎コットン!俺はこいつと戦うのは嫌だぞ!ここはどうにか誤魔化してくれ!)
ルドリックの内心はここ居る兵士達全員の思いだ。先ほどの訓練を見て戦意を滾らせる様な人間は一人も居ない。もはや望むのは、悪巧みがばれる前に撤退する事だけ。しかし、コットン内情は兵士達の願いとは間逆のものだった。
(どうする?ここで何としてでもスベン公国を制圧せねば私の栄達が…。少なくとも、何か手柄をもしくは手土産を持って帰らねば、私の人生は終わる!何とか!何とかしなければ!)
自分の栄達に目の曇ったコットンは、必死に事態を打開する為の方法を考える。
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(…そうだ。万が一にデアフレムデがスベン公国に残っていた時の為の装備がある!)
デアフレムデがスベン公国に残っていた時の為の装備とは、簡単に言えば強固なカギ爪付きのロープの事だ。これは召還当初にザムの性能を調査していたタッファ教が、もしもデアフレムデがザムで暴走した時を想定し、フォルスによってザムを制圧又は撃破する為に用意していた物だ。
もちろん勇者の力を使えば、文字通り赤子の手を捻るように簡単に取り押さえることが出来る。だが、そんな時間があるならアポリオンと戦うか休息をしていてほしい。勇者の仕事とはアポリオンと戦うことであり、それ以外の事は余計なことでしかない。なのでフォルスによるザムの制圧をフォルスで行う為の方法が準備されていた。取り押さえる側に相応の被害をこうむる事を前提にしてだが。
今回は人類同盟からタッファ教に多額の寄付金を払い、それらの装備を借り受けていた。
(相手はたった4機。しかも内三機は訓練兵。こちらは精鋭兵士の乗る最新型のカニンガムを含むフォルスが50機!あの連発式の銃も弾には限りがあるはず…。数を頼みにすれば何とか…何とか一機だけも鹵獲出来るのではないか?)
もしルドリックが…いや、この場にいた兵士達の誰しもがこのコットンの心の内を聞いたら、「出来るか馬鹿!」と大声で怒鳴る事だろう。
しかし、未来の栄光に囚われたコットンは、敵対を決定付ける言葉を発しようとした。
「わ…!」
その時、再びキィィィンと言う甲高いエンジン音が空から聞こえてきた。その場に居た強制査察部隊員全員が空を見上げる。そこには3機のトブタイが飛んでおり、まっすぐ彼らが居るほうへと向かってきている。そして彼らのいる場所の上空に来ると3機のザムが降下した。
ズズズン!
三機は強制査察部隊から少し離れた位置に着地した。
「なっ何だねあれは?」
『安心されよ。あれは国境警備隊のザムだ』
7機のザムを確認した瞬間、未来の栄光というコットンの甘美な夢は、一瞬にして砕かれた。
(あれが七機?あれ?これは…。危険ではないかね?いや、まてこれは危険だ。無理だ。あんな巨大な連発銃を持つ鉄巨人7機相手にフォルスが50機ばかりで勝てるか?いやそれが四機であっても勝てるわけ無いではないか!)
ある意味正気を取り戻した彼は、スベン公国から逃げ出した時と同じように今自分のいる場所が、危険地帯であり、その奥深くまで来てしまっていた事に気がついた。まるで妖精に誘われて歩いていたらいつの間にか底なし沼に嵌っていた気分だった。
着地した警備隊のザムは、そのまままっすぐ強制査察部隊のほうへと歩み寄る。部隊に最初に近づいてきたザムとは違い、こちらは武器を構えたままだ。スベン公国へと続く道を塞ぐように立った。
(さっきの着地、あの最初の連中が着地した時より振動が小さいし、着地からの体制の立て直しもスムーズだ。あいつらが訓練小隊って言うのは嘘じゃなさそうだ)
周りの兵士達が不安にさいなまれている中、新たに現れたザムの動きをルドリックは一人鼻息荒くガン見していた。
(さっき降りてきた奴らより着地が丁寧だ。あいつらが訓練兵ってのは本当だったんだ!やばいぞ!)
『スベン公国所属の第八国境警備小隊だ。知ってのとおり、現在我が国は、国境を封鎖している。ゆえに諸君らの入国は許可できない。引き返せ。さもなくば実力で排除する』
今まで訓練小隊の面々からは銃は向けられていなかったが、警備部隊は何の躊躇も無く銃口を強制査察部隊の面々へと向けていた。
「…しっ仕方が無い。しかし、人類同盟からの援軍を、拒んだという事は、上層部に報告させてもらいますぞ!」
言われっぱなしでは引き下がらない。それが唯一コットンに許されたプライドだった。
コットンそう言った瞬間、緊張の糸が張り詰めていた兵士達が一斉にほっとため息を付いた。これで帰れる。生きて帰れる。もはや頭の中には今回の任務の事など消し飛んでいた。
『どうぞご随意に…では仕事があるので失礼する』
するとぷつりと音が切れた。ガルロックが通信を切ったのだ。
やれやれさぁ帰るぞと命令も無いのに回れ右している兵士達。
『では、支援物資はこちらで運びますので、その場に置いていってくださって結構です』
そこへ、目の前のザムが言った。
ガルロックが通信を切ったので、声は訓練教官のカワードのものだ。
「はっ?」
その一言を聞いてコットンが固まった。強制査察部隊は、行軍の速度を上げるためスベン公国への支援物資など持ってきてはいない。持ってきているのは支援物資に見せかけた自分たちの為の物資だけだった。
『えっ?支援物資も持って来ずに来たのですか?援軍なのにも係わらず?』
「いや、我々の援軍を断ったではないか!」
『我が国は、援軍は断っても支援物資は断ってはいませんよ。まさか、最前線になっている国に支援物資も持たずに来る援軍もありますまい?』
カワードの疑問に国境警備小隊の隊長機がわざとらしく答えた。
援軍とは言えど、飲み、食い、寝る。それにフォルスがあれば補給に整備にといろいろと必要になる。補給物資を持たずに援軍だけ来るという事は、援軍が来られた側がそれらの物資や場所を用意しなければならないという事。とはいえ援軍を必要としているほどの場所にそれらがあると考える人間は普通はいない。特に援軍に行く国が小国であるならなお更だ。
つまり支援物資を持たずに来る援軍とは存在しない。もしそれらが現れたとしたら、それは援軍ではなく、弱りきった国に対し襲い掛かろうとしてくる賊だと思われても仕方が無い。
コットン達が置いていけるのは、自分達の分だけだ。しかしそれらを、"支援物資です"と言えるだけの量を置いていくと、帰り道は悲惨なことにしかならない。
(人類同盟からの命にも答えられず、物資だけを取られておめおめと帰還。そうなれば私の…いや、我がコットン家の未来は暗いものとなる。いいのか我は?それで?)
「ははは、ああ、もちろんだ!運ぶ手間が省けるというものだよ君。おい!」
コットンは自分の内に発生した疑問に躊躇無く答えを出した。命を大事にという。
「はっ!」
「最後に寄った街まで持つ水、食料を除いてすべて置いて行く。いそげ!」
「…よろしいので?」
近づいてきた副隊長に声をひそめて言うと彼は、思わず聞き返した。
「いいから言うとおりにしろ!貴様死にたいのか!」
「はっ!」
副官は、連れて来た輜重部隊のほうへとカニンガムを走らせた。
人類同盟強制査察部隊は、街にたどり付く為の最低限の食料以外をすべて残し、早足で帰っていった。
(俺もあれに乗りたい。どうやったら乗れるだろうか?帰ったらいろいろと調べてみよう)
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