量産型英雄伝

止まり木

文字の大きさ
72 / 75

63話 勧誘

しおりを挟む
「うう…」
 威勢よく怒鳴っていたバロック爺さんがうめく。
 その姿は、借りてきた猫のようでバッザム隊長に向かって啖呵を切っていた人物とは思えない。
 視線をせわしなくキョロキョロさせて、落ち着きが無い。隣に座っているひょろ長のロレンス爺さんの方は相も変わらずぼけっとした表情で椅子に座っているが、現状を理解しているかも怪しい。
 それもそのはず、今バロック爺さん達が居るのは、マザムリンのキャビン内。それもハヌマ王国民であれば泣く子も黙る海中を進んでいるのだから。

 僕はその様子を、マザムリンのコクピットから見ていた。
 あの後僕は、バロック爺さん達にそんなに疑うんだったらあなた達が監視すればいいだろう?と提案した。メリナさん達は、得体の知れない者をマザムリンに乗せる事を反対したけど、ごり押しした。ごり押しが許されたのは、メリナさんであれば老人二人を制圧出来るからというのもあるだろう。
 当然バロック爺さん達は…というかバロック爺さんは、一も二も無く話しに乗った。

 その結果がこれである。

 現在キャビンに居るのはメリナさんとうちの兵士が一人にバッザム隊長にバロック爺さん達だ。
 他のうちの兵士とバッザム隊長の部下はカッパールスの方に居る。バッザム隊長がマザムリンに乗っているのは、バロック爺さん達を監視する為。
「ふん。どうした爺さん。死ぬのは怖くないんじゃないのか?」
 顔を青くしているバッザム隊長があおる。

 バッザム隊長無理してるなぁ。

「馬鹿言うなぃ俺様がこの…この程度屁でもないわい!」
 しかし、言い返しているバロック爺さんにしても、陸上にいた時と比べて声に覇気がない。
 元海軍という事であれば、バッザム隊長達と同じように海中に対する恐怖は、並々ならぬものがあるだろう。だけど、漁村から出発して、ここまで結構な距離海中を進んでいるが、一度も降ろしてくれとは言っていない。やせ我慢もここまでくれば大したものじゃないだろうか?

「所で、この爺さん大丈夫なのか?大分ボケてるようだが?」
 うちの兵士の一人が聞いた。ロレンス爺さんのことだ。
「大丈夫に決まっているわい!…ただこいつは、あの津波に家も家族も皆流されちまってな。ショックでああなっちまった。幼馴染のよしみで俺が面倒見てる。なぁにこいつもハヌマ海軍の男だ。しばらくすれば元に戻るだろうよ!なっ!」
 そう言うとボケッとしているロレンス爺さんと肩を組んで揺する。ロレンス爺さんは揺すられるがままだ。
「ん?バロック。飯か?」
 キャビン壁面にあるモニターを見ていたロレンス爺さんは、バロック爺さんを見た。
「まだはえーよ」
 青ざめた顔でバロック爺さんは、がははと笑う。

 すっとロレンス爺さんは、モニターに視線を戻した。モニターには海中である事を教える為に海中の様子を映している。ロレンス爺さんは、海中の様子を映してからずっとモニターに釘付けだ。
「…」
 ロレンス爺さんが外の様子を見て何かをつぶやいた。だが、僕には何を言っているか聞こえなかった。


 今日も僕らは遭難者の救出をする。
 もはや僕はタクシーの運転手のようなものだ。GPSの指示に従って遭難者が居る付近までカッパールスをけん引。
 遭難者を発見すると、近くに停船し、カッパールスは船の脇に牽引していたカッターにカッパールスの船員が乗り移る。
 元遭難者であるカッパールスの船員達が救助に協力してくれているのだ。

 昨日の遭難活動の経験から、船の側面にはネットの様な縄梯子が固定され、その下にカッターをくくりつけている。この縄梯子は津波に流された帆と船体を繋いでいた物を再利用した。
 これで、毎回態々カッターを引き上げる手間を省き、縄梯子で効率的に乗り降りできる。

 その様子を、マザムリンのドローンでキャビンに生中継する。

 バロック爺さんは「もっとテキパキやれよ!ほらそこ!ロープ片せ!あぶねぇだろうが!」とか、「っかー!何やってんだよ!馬鹿野郎!」と向こうに聞こえもしないのに(事前に説明はしていた)声を出している。まるでテレビで野球観戦しているオヤジだ。
 バッザム隊長はそれをうんざりした表情で見ていた。


 遭難者の救出活動の傍ら僕は、キャビンにいるバロック爺さんの誤解を解こうと活動を説明する。

 バロック爺さんは、僕に対して坊主とか、馬鹿かおめぇは!とか遠慮のない歯に衣着せぬ物言いで話した。
 だけど、この対応に対して僕は予想外にうれしいと感じた

 この世界に来て初めてになる対応だろう。そりゃ教会の人たちには冷遇されたが、それでも勇者の先輩たちのこともあり、せいぜい慇懃無礼な態度までだ。
 分不相応に慇懃に対応されるのは、自分でも気づかなかったけど結構なストレスだったらしい。何の遠慮もなく僕を坊主呼びされて驚くと同時にうれしくなった。
 この世界に来て気安い態度で接してくれる人間は、先輩たち以外いないと言っていい。スベン公国軍の将軍になってしまったから仕方がないとはいえ、元々一般人なので少々来るものがある。爺さんたちの気安い態度は、正直ホッと出来た。爺さんの気質が僕の実の祖父に似ていたのもあるのだろう。
 昼休憩の前あたりになると、気を紛らわせる意味もあるのだろうが爺さんの武勇伝などを聞かせてくれた。本物の帆船に乗っていた元船乗りの冒険譚は脚色や大げさに話している事もあるだろうが面白かった。

 昼の休憩時間になるとコクピットシートをキャビンに下す。
 バッザム隊長は昼休憩のちょっと前にカッパールスの方へと移動し、そちらで救出した人たちの様子を見て、その後昼食をとるそうだ。
 海中我慢大会はバロック爺さんの方に軍配が上がったようだ。

 キャビンに下りるとふわりといい匂いがした。
 メリナさんが今日の昼食用に持ってきたスープを温めているのだろう。

 匂いを感じつつ、キャビンにいるバロック爺さんに話しかけた。
「バロック爺さん。大分顔色がよくなりましたね」
 バロック爺さん顔色は、出港した直後と比べるとだいぶ良くなっている。
「よう坊主。まぁ…な。ロレンスが平然としているのに俺だけ怯えてるってのが馬鹿らしくなっちまってな」
 バロック爺さんは、ロレンス爺さんを見た。
 ロレンス爺さんは、海中の様子を写したモニターを見続けている。それは、怖くて目が離せないというよりは、海中の様子に心奪われたように僕には見えた。
 今も、水面から入った光が、波によってユラユラと揺れている様子を一心に見つめていた
「にしてもこの船はすげぇな。狭いが、息苦しくないし暑苦しくもない。調理場もついてるし、それに不思議なトイレがある。至れり尽くせりだ」

 正確に言うならGM(ギアマリン)なのだけど、バロック爺さん曰く、海に浮かぶ事ができる乗り物はすべて船なのだそうな。

 しかし慣れてくれたのはありがたい。元々船乗りである彼らは、水中であるという恐怖さえ克服できれば、優秀な元船乗りだ。
 半袖の服からの覗くバロック爺さんの腕には筋肉がついており、とても老人の腕とは思えない。
 ロレンス爺さんもひょろりとしているが、しっかりと筋肉がついている。僕が爺さんらと腕相撲したら勝つことは出来ないだろう。
 
「バロックさん。先ほども言いましたが、アマタ様を坊主呼びとはいかがなものでしょうか?」
 気安い態度が目についたのかギャレーから昼食の乗ったトレーを持って来たメリナさんが静かに怒る。
「はっ俺はもう何もないただの爺だ。軍の階級なんて知るもんかい」
 バロック爺さんは、どこ吹く風と聞き流している。
「構いませんよ。別にうちの軍の関係者じゃないんですから。ですが、人目がある場所では遠慮してくれると助かります。さすがに、下手に人前で同様の態度を取られると僕自身が軽んじられるだけじゃなく、スベン公国軍自体が軽んじられてしまいますから。それは看過できないんですよ」
「ふん…わかったよ。人前じゃ気を付けてやるよ」
 その返事に一応は満足したメリナさんがトレーを僕の座るコクピットシートの前まで持って来た。
「アマタ様、こちらが今日の昼食になります」
 僕は、コクピットシートに格納されていたテーブルを展開して、トレーを置くスペースを作る。メリナさんがそこにトレーを載せた。
 トレーの上には、ポトフのような具沢山のスープと、軽く焼かれた黒パン。それにお茶が添えられている。
「おっ?うまそうだな?ねぇちゃん俺とロレンスの分は?まさか俺たちは携帯食とかいわねぇだろうな?」
 テーブルの上にある昼食を覗き込んだバロック爺さんが聞いた。
「…ちゃんとご用意しています」
 メリナさんは、仏頂面で答える。
「そう来なくっちゃいけねぇ。老人はいたわらないとな!」
 バロック爺さんは、そんな態度を気にした風もなく笑った。
 全員に食事が用意されると、僕らは昼食を食べ始める。
 バロック爺さんとロレンス爺さんは驚くほどの健啖を見せ、瞬く間に昼食を食べつくした。船に乗っていたころの習慣だそうな。

 世間話をしつつ食事を食べ終える。
 メリナさんがトレーを下げ終えた時、僕は意を決してバロック爺さんにある提案をした。

「…バロック爺さんに一つ提案があります」
「なんだ?」
「スベン公国の義勇軍に参加しませんか?」
 僕は元船乗りであるバロック爺さんを義勇軍にスカウトしようと思ったのだ。
「義勇軍?なんでそんなもんに俺が参加しなきゃならないんだ?」
 突然の勧誘にバロック爺さんは、きょとんとしている。
「ご存じの通り、現在マザムリンが一機パイロット不足で動かせません。しかし、パイロットを補充しようにも、スベン公国軍のパイロットは海に慣れていません。なのであなたに一機を任せ、救助活動をしてもらおうかと考えています」
 確かにバロック爺さんは国も失っていない他国の人間ではあるが、彼には豊富な船乗りの経験がある。それはこれからのスベン公国の戦略において非常に重要な経験を有している人材で、ぜひとも確保しておきたいと思ったのだ。
 マザムリンに乗せたのは、バロック爺さんが乗れるかどうかを確認するため。

「ほう!こいつを任せてくれるのか?ははっ平民出身の俺が船長になれるってわけだ!」
「ただし、バロック爺さんが義勇軍に入った場合。ここでの救助作業を終えたら、僕らの国に来てもらいます。そして、二度とこの国には戻ってくる事は出来ないでしょう」
「何?」
 喜んでいたバロック爺さんが、冷や水を浴びせられたように固まる。
「マザムリンは、我が国の最重要機密兵器です。それぐらいは覚悟していただかなければ困ります」
 メリナさんが突き放すように言う。

 そんな中ロレンス爺さんは、相変わらずボケっとしている。話を聞いているのか聞いていないのかはわからない。マイペースに席を立つとトイレへと向かった。
「なるべく早く返事を下さい。そうすればそれだけ早く、人々を助けることができますよ」
 バロック爺さんは難しい顔をして考え始めた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...