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63話 勧誘
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「うう…」
威勢よく怒鳴っていたバロック爺さんがうめく。
その姿は、借りてきた猫のようでバッザム隊長に向かって啖呵を切っていた人物とは思えない。
視線をせわしなくキョロキョロさせて、落ち着きが無い。隣に座っているひょろ長のロレンス爺さんの方は相も変わらずぼけっとした表情で椅子に座っているが、現状を理解しているかも怪しい。
それもそのはず、今バロック爺さん達が居るのは、マザムリンのキャビン内。それもハヌマ王国民であれば泣く子も黙る海中を進んでいるのだから。
僕はその様子を、マザムリンのコクピットから見ていた。
あの後僕は、バロック爺さん達にそんなに疑うんだったらあなた達が監視すればいいだろう?と提案した。メリナさん達は、得体の知れない者をマザムリンに乗せる事を反対したけど、ごり押しした。ごり押しが許されたのは、メリナさんであれば老人二人を制圧出来るからというのもあるだろう。
当然バロック爺さん達は…というかバロック爺さんは、一も二も無く話しに乗った。
その結果がこれである。
現在キャビンに居るのはメリナさんとうちの兵士が一人にバッザム隊長にバロック爺さん達だ。
他のうちの兵士とバッザム隊長の部下はカッパールスの方に居る。バッザム隊長がマザムリンに乗っているのは、バロック爺さん達を監視する為。
「ふん。どうした爺さん。死ぬのは怖くないんじゃないのか?」
顔を青くしているバッザム隊長があおる。
バッザム隊長無理してるなぁ。
「馬鹿言うなぃ俺様がこの…この程度屁でもないわい!」
しかし、言い返しているバロック爺さんにしても、陸上にいた時と比べて声に覇気がない。
元海軍という事であれば、バッザム隊長達と同じように海中に対する恐怖は、並々ならぬものがあるだろう。だけど、漁村から出発して、ここまで結構な距離海中を進んでいるが、一度も降ろしてくれとは言っていない。やせ我慢もここまでくれば大したものじゃないだろうか?
「所で、この爺さん大丈夫なのか?大分ボケてるようだが?」
うちの兵士の一人が聞いた。ロレンス爺さんのことだ。
「大丈夫に決まっているわい!…ただこいつは、あの津波に家も家族も皆流されちまってな。ショックでああなっちまった。幼馴染のよしみで俺が面倒見てる。なぁにこいつもハヌマ海軍の男だ。しばらくすれば元に戻るだろうよ!なっ!」
そう言うとボケッとしているロレンス爺さんと肩を組んで揺する。ロレンス爺さんは揺すられるがままだ。
「ん?バロック。飯か?」
キャビン壁面にあるモニターを見ていたロレンス爺さんは、バロック爺さんを見た。
「まだはえーよ」
青ざめた顔でバロック爺さんは、がははと笑う。
すっとロレンス爺さんは、モニターに視線を戻した。モニターには海中である事を教える為に海中の様子を映している。ロレンス爺さんは、海中の様子を映してからずっとモニターに釘付けだ。
「…」
ロレンス爺さんが外の様子を見て何かをつぶやいた。だが、僕には何を言っているか聞こえなかった。
今日も僕らは遭難者の救出をする。
もはや僕はタクシーの運転手のようなものだ。GPSの指示に従って遭難者が居る付近までカッパールスをけん引。
遭難者を発見すると、近くに停船し、カッパールスは船の脇に牽引していたカッターにカッパールスの船員が乗り移る。
元遭難者であるカッパールスの船員達が救助に協力してくれているのだ。
昨日の遭難活動の経験から、船の側面にはネットの様な縄梯子が固定され、その下にカッターをくくりつけている。この縄梯子は津波に流された帆と船体を繋いでいた物を再利用した。
これで、毎回態々カッターを引き上げる手間を省き、縄梯子で効率的に乗り降りできる。
その様子を、マザムリンのドローンでキャビンに生中継する。
バロック爺さんは「もっとテキパキやれよ!ほらそこ!ロープ片せ!あぶねぇだろうが!」とか、「っかー!何やってんだよ!馬鹿野郎!」と向こうに聞こえもしないのに(事前に説明はしていた)声を出している。まるでテレビで野球観戦しているオヤジだ。
バッザム隊長はそれをうんざりした表情で見ていた。
遭難者の救出活動の傍ら僕は、キャビンにいるバロック爺さんの誤解を解こうと活動を説明する。
バロック爺さんは、僕に対して坊主とか、馬鹿かおめぇは!とか遠慮のない歯に衣着せぬ物言いで話した。
だけど、この対応に対して僕は予想外にうれしいと感じた
この世界に来て初めてになる対応だろう。そりゃ教会の人たちには冷遇されたが、それでも勇者の先輩たちのこともあり、せいぜい慇懃無礼な態度までだ。
分不相応に慇懃に対応されるのは、自分でも気づかなかったけど結構なストレスだったらしい。何の遠慮もなく僕を坊主呼びされて驚くと同時にうれしくなった。
この世界に来て気安い態度で接してくれる人間は、先輩たち以外いないと言っていい。スベン公国軍の将軍になってしまったから仕方がないとはいえ、元々一般人なので少々来るものがある。爺さんたちの気安い態度は、正直ホッと出来た。爺さんの気質が僕の実の祖父に似ていたのもあるのだろう。
昼休憩の前あたりになると、気を紛らわせる意味もあるのだろうが爺さんの武勇伝などを聞かせてくれた。本物の帆船に乗っていた元船乗りの冒険譚は脚色や大げさに話している事もあるだろうが面白かった。
昼の休憩時間になるとコクピットシートをキャビンに下す。
バッザム隊長は昼休憩のちょっと前にカッパールスの方へと移動し、そちらで救出した人たちの様子を見て、その後昼食をとるそうだ。
海中我慢大会はバロック爺さんの方に軍配が上がったようだ。
キャビンに下りるとふわりといい匂いがした。
メリナさんが今日の昼食用に持ってきたスープを温めているのだろう。
匂いを感じつつ、キャビンにいるバロック爺さんに話しかけた。
「バロック爺さん。大分顔色がよくなりましたね」
バロック爺さん顔色は、出港した直後と比べるとだいぶ良くなっている。
「よう坊主。まぁ…な。ロレンスが平然としているのに俺だけ怯えてるってのが馬鹿らしくなっちまってな」
バロック爺さんは、ロレンス爺さんを見た。
ロレンス爺さんは、海中の様子を写したモニターを見続けている。それは、怖くて目が離せないというよりは、海中の様子に心奪われたように僕には見えた。
今も、水面から入った光が、波によってユラユラと揺れている様子を一心に見つめていた
「にしてもこの船はすげぇな。狭いが、息苦しくないし暑苦しくもない。調理場もついてるし、それに不思議なトイレがある。至れり尽くせりだ」
正確に言うならGM(ギアマリン)なのだけど、バロック爺さん曰く、海に浮かぶ事ができる乗り物はすべて船なのだそうな。
しかし慣れてくれたのはありがたい。元々船乗りである彼らは、水中であるという恐怖さえ克服できれば、優秀な元船乗りだ。
半袖の服からの覗くバロック爺さんの腕には筋肉がついており、とても老人の腕とは思えない。
ロレンス爺さんもひょろりとしているが、しっかりと筋肉がついている。僕が爺さんらと腕相撲したら勝つことは出来ないだろう。
「バロックさん。先ほども言いましたが、アマタ様を坊主呼びとはいかがなものでしょうか?」
気安い態度が目についたのかギャレーから昼食の乗ったトレーを持って来たメリナさんが静かに怒る。
「はっ俺はもう何もないただの爺だ。軍の階級なんて知るもんかい」
バロック爺さんは、どこ吹く風と聞き流している。
「構いませんよ。別にうちの軍の関係者じゃないんですから。ですが、人目がある場所では遠慮してくれると助かります。さすがに、下手に人前で同様の態度を取られると僕自身が軽んじられるだけじゃなく、スベン公国軍自体が軽んじられてしまいますから。それは看過できないんですよ」
「ふん…わかったよ。人前じゃ気を付けてやるよ」
その返事に一応は満足したメリナさんがトレーを僕の座るコクピットシートの前まで持って来た。
「アマタ様、こちらが今日の昼食になります」
僕は、コクピットシートに格納されていたテーブルを展開して、トレーを置くスペースを作る。メリナさんがそこにトレーを載せた。
トレーの上には、ポトフのような具沢山のスープと、軽く焼かれた黒パン。それにお茶が添えられている。
「おっ?うまそうだな?ねぇちゃん俺とロレンスの分は?まさか俺たちは携帯食とかいわねぇだろうな?」
テーブルの上にある昼食を覗き込んだバロック爺さんが聞いた。
「…ちゃんとご用意しています」
メリナさんは、仏頂面で答える。
「そう来なくっちゃいけねぇ。老人はいたわらないとな!」
バロック爺さんは、そんな態度を気にした風もなく笑った。
全員に食事が用意されると、僕らは昼食を食べ始める。
バロック爺さんとロレンス爺さんは驚くほどの健啖を見せ、瞬く間に昼食を食べつくした。船に乗っていたころの習慣だそうな。
世間話をしつつ食事を食べ終える。
メリナさんがトレーを下げ終えた時、僕は意を決してバロック爺さんにある提案をした。
「…バロック爺さんに一つ提案があります」
「なんだ?」
「スベン公国の義勇軍に参加しませんか?」
僕は元船乗りであるバロック爺さんを義勇軍にスカウトしようと思ったのだ。
「義勇軍?なんでそんなもんに俺が参加しなきゃならないんだ?」
突然の勧誘にバロック爺さんは、きょとんとしている。
「ご存じの通り、現在マザムリンが一機パイロット不足で動かせません。しかし、パイロットを補充しようにも、スベン公国軍のパイロットは海に慣れていません。なのであなたに一機を任せ、救助活動をしてもらおうかと考えています」
確かにバロック爺さんは国も失っていない他国の人間ではあるが、彼には豊富な船乗りの経験がある。それはこれからのスベン公国の戦略において非常に重要な経験を有している人材で、ぜひとも確保しておきたいと思ったのだ。
マザムリンに乗せたのは、バロック爺さんが乗れるかどうかを確認するため。
「ほう!こいつを任せてくれるのか?ははっ平民出身の俺が船長になれるってわけだ!」
「ただし、バロック爺さんが義勇軍に入った場合。ここでの救助作業を終えたら、僕らの国に来てもらいます。そして、二度とこの国には戻ってくる事は出来ないでしょう」
「何?」
喜んでいたバロック爺さんが、冷や水を浴びせられたように固まる。
「マザムリンは、我が国の最重要機密兵器です。それぐらいは覚悟していただかなければ困ります」
メリナさんが突き放すように言う。
そんな中ロレンス爺さんは、相変わらずボケっとしている。話を聞いているのか聞いていないのかはわからない。マイペースに席を立つとトイレへと向かった。
「なるべく早く返事を下さい。そうすればそれだけ早く、人々を助けることができますよ」
バロック爺さんは難しい顔をして考え始めた。
威勢よく怒鳴っていたバロック爺さんがうめく。
その姿は、借りてきた猫のようでバッザム隊長に向かって啖呵を切っていた人物とは思えない。
視線をせわしなくキョロキョロさせて、落ち着きが無い。隣に座っているひょろ長のロレンス爺さんの方は相も変わらずぼけっとした表情で椅子に座っているが、現状を理解しているかも怪しい。
それもそのはず、今バロック爺さん達が居るのは、マザムリンのキャビン内。それもハヌマ王国民であれば泣く子も黙る海中を進んでいるのだから。
僕はその様子を、マザムリンのコクピットから見ていた。
あの後僕は、バロック爺さん達にそんなに疑うんだったらあなた達が監視すればいいだろう?と提案した。メリナさん達は、得体の知れない者をマザムリンに乗せる事を反対したけど、ごり押しした。ごり押しが許されたのは、メリナさんであれば老人二人を制圧出来るからというのもあるだろう。
当然バロック爺さん達は…というかバロック爺さんは、一も二も無く話しに乗った。
その結果がこれである。
現在キャビンに居るのはメリナさんとうちの兵士が一人にバッザム隊長にバロック爺さん達だ。
他のうちの兵士とバッザム隊長の部下はカッパールスの方に居る。バッザム隊長がマザムリンに乗っているのは、バロック爺さん達を監視する為。
「ふん。どうした爺さん。死ぬのは怖くないんじゃないのか?」
顔を青くしているバッザム隊長があおる。
バッザム隊長無理してるなぁ。
「馬鹿言うなぃ俺様がこの…この程度屁でもないわい!」
しかし、言い返しているバロック爺さんにしても、陸上にいた時と比べて声に覇気がない。
元海軍という事であれば、バッザム隊長達と同じように海中に対する恐怖は、並々ならぬものがあるだろう。だけど、漁村から出発して、ここまで結構な距離海中を進んでいるが、一度も降ろしてくれとは言っていない。やせ我慢もここまでくれば大したものじゃないだろうか?
「所で、この爺さん大丈夫なのか?大分ボケてるようだが?」
うちの兵士の一人が聞いた。ロレンス爺さんのことだ。
「大丈夫に決まっているわい!…ただこいつは、あの津波に家も家族も皆流されちまってな。ショックでああなっちまった。幼馴染のよしみで俺が面倒見てる。なぁにこいつもハヌマ海軍の男だ。しばらくすれば元に戻るだろうよ!なっ!」
そう言うとボケッとしているロレンス爺さんと肩を組んで揺する。ロレンス爺さんは揺すられるがままだ。
「ん?バロック。飯か?」
キャビン壁面にあるモニターを見ていたロレンス爺さんは、バロック爺さんを見た。
「まだはえーよ」
青ざめた顔でバロック爺さんは、がははと笑う。
すっとロレンス爺さんは、モニターに視線を戻した。モニターには海中である事を教える為に海中の様子を映している。ロレンス爺さんは、海中の様子を映してからずっとモニターに釘付けだ。
「…」
ロレンス爺さんが外の様子を見て何かをつぶやいた。だが、僕には何を言っているか聞こえなかった。
今日も僕らは遭難者の救出をする。
もはや僕はタクシーの運転手のようなものだ。GPSの指示に従って遭難者が居る付近までカッパールスをけん引。
遭難者を発見すると、近くに停船し、カッパールスは船の脇に牽引していたカッターにカッパールスの船員が乗り移る。
元遭難者であるカッパールスの船員達が救助に協力してくれているのだ。
昨日の遭難活動の経験から、船の側面にはネットの様な縄梯子が固定され、その下にカッターをくくりつけている。この縄梯子は津波に流された帆と船体を繋いでいた物を再利用した。
これで、毎回態々カッターを引き上げる手間を省き、縄梯子で効率的に乗り降りできる。
その様子を、マザムリンのドローンでキャビンに生中継する。
バロック爺さんは「もっとテキパキやれよ!ほらそこ!ロープ片せ!あぶねぇだろうが!」とか、「っかー!何やってんだよ!馬鹿野郎!」と向こうに聞こえもしないのに(事前に説明はしていた)声を出している。まるでテレビで野球観戦しているオヤジだ。
バッザム隊長はそれをうんざりした表情で見ていた。
遭難者の救出活動の傍ら僕は、キャビンにいるバロック爺さんの誤解を解こうと活動を説明する。
バロック爺さんは、僕に対して坊主とか、馬鹿かおめぇは!とか遠慮のない歯に衣着せぬ物言いで話した。
だけど、この対応に対して僕は予想外にうれしいと感じた
この世界に来て初めてになる対応だろう。そりゃ教会の人たちには冷遇されたが、それでも勇者の先輩たちのこともあり、せいぜい慇懃無礼な態度までだ。
分不相応に慇懃に対応されるのは、自分でも気づかなかったけど結構なストレスだったらしい。何の遠慮もなく僕を坊主呼びされて驚くと同時にうれしくなった。
この世界に来て気安い態度で接してくれる人間は、先輩たち以外いないと言っていい。スベン公国軍の将軍になってしまったから仕方がないとはいえ、元々一般人なので少々来るものがある。爺さんたちの気安い態度は、正直ホッと出来た。爺さんの気質が僕の実の祖父に似ていたのもあるのだろう。
昼休憩の前あたりになると、気を紛らわせる意味もあるのだろうが爺さんの武勇伝などを聞かせてくれた。本物の帆船に乗っていた元船乗りの冒険譚は脚色や大げさに話している事もあるだろうが面白かった。
昼の休憩時間になるとコクピットシートをキャビンに下す。
バッザム隊長は昼休憩のちょっと前にカッパールスの方へと移動し、そちらで救出した人たちの様子を見て、その後昼食をとるそうだ。
海中我慢大会はバロック爺さんの方に軍配が上がったようだ。
キャビンに下りるとふわりといい匂いがした。
メリナさんが今日の昼食用に持ってきたスープを温めているのだろう。
匂いを感じつつ、キャビンにいるバロック爺さんに話しかけた。
「バロック爺さん。大分顔色がよくなりましたね」
バロック爺さん顔色は、出港した直後と比べるとだいぶ良くなっている。
「よう坊主。まぁ…な。ロレンスが平然としているのに俺だけ怯えてるってのが馬鹿らしくなっちまってな」
バロック爺さんは、ロレンス爺さんを見た。
ロレンス爺さんは、海中の様子を写したモニターを見続けている。それは、怖くて目が離せないというよりは、海中の様子に心奪われたように僕には見えた。
今も、水面から入った光が、波によってユラユラと揺れている様子を一心に見つめていた
「にしてもこの船はすげぇな。狭いが、息苦しくないし暑苦しくもない。調理場もついてるし、それに不思議なトイレがある。至れり尽くせりだ」
正確に言うならGM(ギアマリン)なのだけど、バロック爺さん曰く、海に浮かぶ事ができる乗り物はすべて船なのだそうな。
しかし慣れてくれたのはありがたい。元々船乗りである彼らは、水中であるという恐怖さえ克服できれば、優秀な元船乗りだ。
半袖の服からの覗くバロック爺さんの腕には筋肉がついており、とても老人の腕とは思えない。
ロレンス爺さんもひょろりとしているが、しっかりと筋肉がついている。僕が爺さんらと腕相撲したら勝つことは出来ないだろう。
「バロックさん。先ほども言いましたが、アマタ様を坊主呼びとはいかがなものでしょうか?」
気安い態度が目についたのかギャレーから昼食の乗ったトレーを持って来たメリナさんが静かに怒る。
「はっ俺はもう何もないただの爺だ。軍の階級なんて知るもんかい」
バロック爺さんは、どこ吹く風と聞き流している。
「構いませんよ。別にうちの軍の関係者じゃないんですから。ですが、人目がある場所では遠慮してくれると助かります。さすがに、下手に人前で同様の態度を取られると僕自身が軽んじられるだけじゃなく、スベン公国軍自体が軽んじられてしまいますから。それは看過できないんですよ」
「ふん…わかったよ。人前じゃ気を付けてやるよ」
その返事に一応は満足したメリナさんがトレーを僕の座るコクピットシートの前まで持って来た。
「アマタ様、こちらが今日の昼食になります」
僕は、コクピットシートに格納されていたテーブルを展開して、トレーを置くスペースを作る。メリナさんがそこにトレーを載せた。
トレーの上には、ポトフのような具沢山のスープと、軽く焼かれた黒パン。それにお茶が添えられている。
「おっ?うまそうだな?ねぇちゃん俺とロレンスの分は?まさか俺たちは携帯食とかいわねぇだろうな?」
テーブルの上にある昼食を覗き込んだバロック爺さんが聞いた。
「…ちゃんとご用意しています」
メリナさんは、仏頂面で答える。
「そう来なくっちゃいけねぇ。老人はいたわらないとな!」
バロック爺さんは、そんな態度を気にした風もなく笑った。
全員に食事が用意されると、僕らは昼食を食べ始める。
バロック爺さんとロレンス爺さんは驚くほどの健啖を見せ、瞬く間に昼食を食べつくした。船に乗っていたころの習慣だそうな。
世間話をしつつ食事を食べ終える。
メリナさんがトレーを下げ終えた時、僕は意を決してバロック爺さんにある提案をした。
「…バロック爺さんに一つ提案があります」
「なんだ?」
「スベン公国の義勇軍に参加しませんか?」
僕は元船乗りであるバロック爺さんを義勇軍にスカウトしようと思ったのだ。
「義勇軍?なんでそんなもんに俺が参加しなきゃならないんだ?」
突然の勧誘にバロック爺さんは、きょとんとしている。
「ご存じの通り、現在マザムリンが一機パイロット不足で動かせません。しかし、パイロットを補充しようにも、スベン公国軍のパイロットは海に慣れていません。なのであなたに一機を任せ、救助活動をしてもらおうかと考えています」
確かにバロック爺さんは国も失っていない他国の人間ではあるが、彼には豊富な船乗りの経験がある。それはこれからのスベン公国の戦略において非常に重要な経験を有している人材で、ぜひとも確保しておきたいと思ったのだ。
マザムリンに乗せたのは、バロック爺さんが乗れるかどうかを確認するため。
「ほう!こいつを任せてくれるのか?ははっ平民出身の俺が船長になれるってわけだ!」
「ただし、バロック爺さんが義勇軍に入った場合。ここでの救助作業を終えたら、僕らの国に来てもらいます。そして、二度とこの国には戻ってくる事は出来ないでしょう」
「何?」
喜んでいたバロック爺さんが、冷や水を浴びせられたように固まる。
「マザムリンは、我が国の最重要機密兵器です。それぐらいは覚悟していただかなければ困ります」
メリナさんが突き放すように言う。
そんな中ロレンス爺さんは、相変わらずボケっとしている。話を聞いているのか聞いていないのかはわからない。マイペースに席を立つとトイレへと向かった。
「なるべく早く返事を下さい。そうすればそれだけ早く、人々を助けることができますよ」
バロック爺さんは難しい顔をして考え始めた。
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