公爵様は嫁から逃げたい

第1話 公爵は逃げ出したい

　俺はルーク・オルグレン、28歳の公爵だ。帝国の名門オルグレン家を継ぎ、戦場で武功を立て、政治で手腕を発揮し、端正な容姿で貴族たちから羨望を集めている。

　そんな俺の人生は、外から見れば完璧だろう。しかし実際は違う。7人の妻と50人を超える子供たちに囲まれ、息苦しい毎日を送っているんだ。

　妻たちは皆、美しくて賢い。そしてヤンデレだ。彼女たちは俺を愛しすぎるあまり、俺の全てを独占しようとする。朝から晩まで、俺の行動は監視され、自由なんてほとんどない。

　子供たちは可愛いよ。俺の血を引いて優秀で、笑顔を見るたび心が温かくなる。でも数が多いせいで、邸宅はいつも騒がしくて、静かな時間なんて夢のまた夢だ。

　俺は妻たちを愛している。心から。第一夫人のエレナは幼馴染で、情熱的で、いつでも俺を全力で支えてくれる。

　第二夫人のリリアは外交官の娘で、知的な会話が楽しくて、俺の知らない面白い話なんかをよく話してくれる。

　第三夫人のソフィアは冒険者出身なこともあり、ワイルドで刺激的なことが大好きな活動的な女性。

　第四夫人のミリアは優しくて、森の精霊のように癒してくれる。

　第五夫人のアリアは最上位の魔法使いで、日々色々な魔法を研究している。

第六夫人のベラは戦士で、強く頼もしい。個人的にはバキバキに割れた腹筋が好みだ。

第七夫人のクララは策略家で、賢明に俺を助けてくれる。

　彼女たちとの出会いは、それぞれ運命的だった。子供たちも、そんな愛の結晶だ。俺は家族を誇りに思っている。

　しかし愛があまりにも重い。彼女たちの愛情が重すぎるあまり、息苦しさを感じてしまう。

　エレナは俺が他の女性と話すだけで嫉妬の炎を燃やし、リリアは俺のスケジュールを細かく管理する。ソフィアはナイフを弄びながら「他の誰にも渡さないわ」と微笑むし、ミリアは俺の香りを嗅ぎ分け、アリアは魔法で居場所を追跡する。ベラは力ずくで守ろうとし、クララは全てを予測して罠を張る。

　俺のことを愛しているからこそ、彼女たちは俺を離してくれない。でも、俺は疲れた。公爵としての重責に加え、この重い愛が、心を蝕むんだ。

「もう、限界だ……少しだけ、一人になりたい」

ある夜、俺は決意した。一時的に辺境の小さな村へ逃げ出す。森に囲まれた静かな集落だ。誰も俺の正体を知らないはず。

　古い小屋を借り、農夫を装って一人暮らしを始める。これは永遠の別れじゃない。一時的な息抜きだ。彼女たちも、きっと理解してくれる……そう信じて。

　村に着いた初日、俺は深く息を吸った。新鮮な空気、鳥のさえずり、木々のざわめき。全てが心地いい。

　畑を耕し、薪を割り、川で魚を釣って食事を作る。妻たちの監視がない自由は、疲れ切った心に染み渡る。
　
　夕陽を眺めながら、長らく感じていなかった心の安らぎを感じた。

　しかし、そんな平穏は三日しか続かなかった。

　翌朝、小屋のドアを開けると、そこにエレナが立っていた。黒いドレスを纏い、優しい笑みを浮かべているけど、目は狂気の光を宿している。後ろにはリリア、ソフィア、ミリア、アリア、ベラ、クララ――7人全員が揃っている。

「ルーク様……どうして、私たちを置いて逃げたのですか？ 愛しているなら、こんなことしないはずですよね？」

　俺の顔が青ざめた。エレナは俺の居場所を嗅ぎつけるのが上手い。馬の蹄の跡や服の繊維から追ってきたんだろう。

「エレナ……みんな、どうやって？ 俺はただ、休みたかっただけだ。愛してるよ、君たちを。でも、愛が重すぎて……」

　エレナがくすくす笑った。「重い？ それは愛が深い証拠ですよ。あなたの香りから、馬の跡から、風の匂いから……私たちはいつも、あなたを追えるんです。絶対に離れられたせんよ？」

　リリアが前に出た。「ルーク様、一人なんて許しません。私たちの愛が足りないんですか？ だったら、もっと与えましょう。子供たちも、パパを待ってるんですよ？」

　ソフィアがナイフを弄び、微笑んだ。「逃げた罰として、お仕置きが必要かも。でも、愛だから、優しくするわよ。」

　俺は背中を滝のように流れる冷や汗を鮮明に感じた。