愛人契約~純情な貧乏娘に一目ぼれ!?あの手この手で口説きまくる

青の雀

文字の大きさ
2 / 19

2.

しおりを挟む
 アーノルドが変装をして平民服を着ても、そのオーラはすさまじく、あっという間に道行く女性から取り囲まれてしまう。

 内心「まただ」とうんざりするものの、今夜の夜伽相手を誰にしようかと、物色する。

 女性たちも、アーノルドの視線の行方が気になるのか、競うように懸命にセックスアピールをする。髪をかき上げ、腰を振り、バストを揺らすしぐさをして、次第にその色気はさらなる熱気を生む。

 周りにいた通行人の男たちを刺激し、鼻血を垂らすもの、パートナーがいる者は帰宅を急ぎ、恋人と連れ立っていたものは、おもむろに恋人とおっ始める。

 辺りかまわず、広場では、愛の囁きや喘ぎ声が漏れ始める。先ほどまでいた子供連れも、いつの間にか姿を消し、狂ったように腰を振る男女が目立つようになってくる。

 これでは、治安が悪くなるとばかりに、王太子殿下を諫めようと側近が、殿下に近づこうも、美女たちに気圧されて、なかなか殿下に近づけない。

 と、そこへ「ヒィヒィーン!」

 馬のいななく声がする!暴れ馬が一頭、広場の中心に向かって駆けてくる。後を追いかけているのは、その馬の御者だろうか?

 慌てふためいているのか、時折、前につんのめりながら、転がるように後を追いかけている姿が見える。

 殿下の護衛騎士は、殿下をお守りすべく、殿下の前に立ちはだかる班と馬を押しとどめようとする班に分かれる。

 その時、その馬の前に勇敢にも飛び出してきた少女がいた。少女は、「ドゥドゥ」と馬を宥め、落ち着かせ、自らその馬にまたがり、御者の元へと行く。

 その少女の侍女だろうか、その少女のことを「お嬢様!」と叫びながら、馬の後を追う女性。

 御者に無事、馬を渡し終えた少女は、侍女とともに、いずこかへ姿を消す。

 さっきまでのエロティックな余韻はどこへやら?その少女を称賛、喝采する声が上がる!

 でも、一番衝撃を受けた男は、アーノルド自身だったのだ。

「誰だ?あの少女の素性を洗え!」

 アーノルドは、不思議とあの少女を夜伽相手としては選べないと思ってしまう。なぜだかわからないが、今まで感じたことがないほど、胸に衝撃を受けた。

 そして、その日は収穫がないまま、城へ帰っていく。夜伽の相手を見つけられなかったことは、今まで一度と無いこと。

 あの少女のことを思い出すだけで、胸がいっぱいになり、この気持ちをどう表していいのかわからず困惑するばかりだ。

 何日も、あの広場で見た少女の横顔が忘れられずに、幾晩も眠れない夜を過ごす。誰か、他の女を抱く気も失せ、ひたすら、少女のことばかりを思ってしまう毎日。食事もロクにのどを通らず、再び、少女を探しに街へ行くも、消息は分からずじまいにいた。

 侍女と思しき女性を連れて歩いていたところから、貴族令嬢か、商会の令嬢だろうか?あの馬を大人しくさせる手綱さばきから考えても前者の可能性が高いことは明らか、だが、今もって少女の素性はおろか消息もわからない。

 その少女の横顔は、忘れもしない銀色の髪をしていて、色が白く長いまつげが印象的だ。

 ああ、もう一度、会いたい。アーノルドは一度しか目にしたことがない少女に恋焦がれているが、それが恋だとは気づかずにいる。哀れな男なのだ。

 今まで、一度も人を愛したことがない男、幼くして母を亡くし、いつも年上の女性は自分に傅いてくることが当然だと思い込んでいる。長じてからも、女は、皆、自分に夢中になるもので、自分から女を欲しいと思ったことなど一度もない。

 女は肉欲を満たすための道具でしかないと思っている。側近としてつけられた男たち……それは、同い年の重鎮の息子だが、彼らには皆、婚約者なるものがいて、決まった相手としか抱かない。

 だが、アーノルドには、なぜか決まった婚約者がいない。だから、決まった相手とできなくて、いうも愛人契約をした相手としかできないことに窮屈を感じている。

 本末転倒な言い分だが、これがアーノルドが女を愛せない持論なのだから仕方がない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ふしあわせに、殿下

古酒らずり
恋愛
帝国に祖国を滅ぼされた王女アウローラには、恋人以上で夫未満の不埒な相手がいる。 最強騎士にして魔性の美丈夫である、帝国皇子ヴァルフリード。 どう考えても女泣かせの男は、なぜかアウローラを強く正妻に迎えたがっている。だが、将来の皇太子妃なんて迷惑である。 そんな折、帝国から奇妙な挑戦状が届く。 ──推理ゲームに勝てば、滅ぼされた祖国が返還される。 ついでに、ヴァルフリード皇子を皇太子の座から引きずり下ろせるらしい。皇太子妃をやめるなら、まず皇太子からやめさせる、ということだろうか? ならば話は簡単。 くたばれ皇子。ゲームに勝利いたしましょう。 ※カクヨムにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...