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14.色気
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「高村さん、ちょっといいかな?」
部長から呼ばれると、メモ帳とボールペンを持ち、立ち上がる。
部長室に入るとなぜかブラインドを下ろされ、いきなりキス。
「今日は、小夜香の色っぽさにみんなノックダウン寸前だよ。だから、こうして来てもらったんだ。」
「それで、ご用件は?」
「来週から、俺の秘書をしてくれないか?」
「は?営業事務のお仕事はどうなりますか?」
「できれば、続けてもらいたい。忙しくなると思うけど、よろしく頼むよ。」
「はい。かしこまりました。」
一礼して、部長室を出ると、またもや男子社員から注目の的になってしまう。
「新藤部長なんて?」
「あ、来週から部長の秘書も兼務することになりました。」
「ええっ!あの部長、どこまで、人遣いが荒いんだ!もう、鬼だね。あれは。」
「サヨちゃん、二つも仕事なんて、完ぺきにやる必要はないよ。どちらも適当にやればいいのだからね。」
「ありがとう。皆さん。」
「それより、今夜デートしない?」
小夜香はかぶりを振って、意思表示しながら自分の席に戻る。
「なんか、急にサヨちゃんが色っぽくなって、悩ましい腰つきがたまらないぜ。」
「あんな女を自由にできる男がうらやましいぜ。」
「え?サヨちゃんに彼氏ができたの?」
「いや、知らないけど、いるんじゃないの?あんないい女、ほっとく男がいるとは思わない。」
その日は、定時に上がった。もうなんだか疲れ切ってしまって、
「お先に失礼します。」
鈴江がいないことを確認してから、廊下に出る。今日もまた、会ったら立ち直れない。
そそくさと改札を出て、まっすぐ駅に向かう。よかった。今日は誰にも会わずに帰れそうだ。
コンシェルジュでカギを受け取って、部屋の中に入るなり、ベッドに突っ伏してしまった。それほど疲れている。
ひと眠りしてから、ご飯の支度にとりかかる。昨日、夕飯を作っていなかったので、おかずになる食材がそのままある。
とりあえず、お米を研いでから、今日のおかずを考える。
そこへ健一郎が帰ってくる。
「小夜香姉さん、ちょっと相談したいことがあるけど、いい?」
「いいわよ。今日のご飯、ハンバーグとすき焼き、どっちがいい?」
「オムレツが良いな。」
「わかったわ。で、話って何よ?」
「俺、議員宿舎に戻ろうかと思っているんだ。」
「え?なんで?新藤さんのマンションは、不便?」
「いや、そういうわけではないのだけど、ほら、昨夜帰りが遅くなっただろう?あれ、親父の第1秘書の須藤さんと会っていたんだ。なんか、俺に縁談が来ているみたいで。」
「えー!健一郎まだ3年生になったばかりじゃないの?もう、縁談なんて、早すぎるよ。」
「相手は、やっぱり国会議員のお嬢さんらしいんだ。それで、もし話が進んだ時のために、今、いる下宿先より、議員会館の方が、世間体がいいのではないかって、話になってね。」
「うーん。で、どうなのよ?そのお嬢さんに会ったのでしょ?感じは良かった?」
「いや、まだ会っていないよ。写真ももらっていない。ただ、俺はこんな青田刈りのようなこと、就職だけで十分だと思うのだけどさ。親父が……要するに、俺も絶倫の血を引いているだろうから、早めに嫁さん貰って、そっちのケアをしといたほうがいいのでは。という余計なお世話をしているんだよ。」
「ふーん。健一郎は、好きな娘いないの?」
「いるけど、まだ片思いなんだ。どうしても、親父とアノ女のことが頭から離れなくて、なかなか積極的に動けない。」
「あー。わかるわ。アノ女、強烈だったものね。だから、もし浮気でもされたら、と不安になるわね。」
「そういう姉さんは、お義兄さんとどうなのよ?」
「え?何も……ないわよ。」
「げ!姉さんも、鈍感だからな。あれだけアプローチされているのに、なんにも感じていないの?お義兄さんも前途多難だね。とにかく大学の娘、一回告ってみるよ。それでダメだったら、お見合いをして、議員宿舎に戻る。」
「私も一緒に議員宿舎に戻ろうか?」
「いや、姉さんは、ダメだ。ちゃんとお義兄さんの愛をここで受け止めるようにしなきゃダメだ。」
「どうやって、受け止めるの?」
「はぁー。ダメだ。アノ淫乱売女の継娘がよくそんなこと言えるな。お義兄さんにすべて、身を任せるのだよ。何もかも楽にして、任せれば、お義兄さんがちゃんと姉さんの行く末を考えてくれる。その前にお義兄さんのことを、もっと信じろよ。」
「はい。」
信じるか……。そうだよね、昨日、あんなコトしたのに、どこか信じていない自分に気づく。それは、練習相手のヨウスケにとっても、失礼な話だよね。
ヨウスケも小夜香のことを信じていたからこそ、この部屋に住まわしてくれて、弟の面倒まで見てくれているというのに。小夜香が心を閉ざしていては、ヨウスケに申し訳がない。
3つ目のオムレツが出来上がる頃を見計らって、ヨウスケが帰ってきた。
「「おかえりなさい。」」
「ただいま。おや、今日はおそろいでどうしたの?」
「うふふ。何もないわよ。」
部長から呼ばれると、メモ帳とボールペンを持ち、立ち上がる。
部長室に入るとなぜかブラインドを下ろされ、いきなりキス。
「今日は、小夜香の色っぽさにみんなノックダウン寸前だよ。だから、こうして来てもらったんだ。」
「それで、ご用件は?」
「来週から、俺の秘書をしてくれないか?」
「は?営業事務のお仕事はどうなりますか?」
「できれば、続けてもらいたい。忙しくなると思うけど、よろしく頼むよ。」
「はい。かしこまりました。」
一礼して、部長室を出ると、またもや男子社員から注目の的になってしまう。
「新藤部長なんて?」
「あ、来週から部長の秘書も兼務することになりました。」
「ええっ!あの部長、どこまで、人遣いが荒いんだ!もう、鬼だね。あれは。」
「サヨちゃん、二つも仕事なんて、完ぺきにやる必要はないよ。どちらも適当にやればいいのだからね。」
「ありがとう。皆さん。」
「それより、今夜デートしない?」
小夜香はかぶりを振って、意思表示しながら自分の席に戻る。
「なんか、急にサヨちゃんが色っぽくなって、悩ましい腰つきがたまらないぜ。」
「あんな女を自由にできる男がうらやましいぜ。」
「え?サヨちゃんに彼氏ができたの?」
「いや、知らないけど、いるんじゃないの?あんないい女、ほっとく男がいるとは思わない。」
その日は、定時に上がった。もうなんだか疲れ切ってしまって、
「お先に失礼します。」
鈴江がいないことを確認してから、廊下に出る。今日もまた、会ったら立ち直れない。
そそくさと改札を出て、まっすぐ駅に向かう。よかった。今日は誰にも会わずに帰れそうだ。
コンシェルジュでカギを受け取って、部屋の中に入るなり、ベッドに突っ伏してしまった。それほど疲れている。
ひと眠りしてから、ご飯の支度にとりかかる。昨日、夕飯を作っていなかったので、おかずになる食材がそのままある。
とりあえず、お米を研いでから、今日のおかずを考える。
そこへ健一郎が帰ってくる。
「小夜香姉さん、ちょっと相談したいことがあるけど、いい?」
「いいわよ。今日のご飯、ハンバーグとすき焼き、どっちがいい?」
「オムレツが良いな。」
「わかったわ。で、話って何よ?」
「俺、議員宿舎に戻ろうかと思っているんだ。」
「え?なんで?新藤さんのマンションは、不便?」
「いや、そういうわけではないのだけど、ほら、昨夜帰りが遅くなっただろう?あれ、親父の第1秘書の須藤さんと会っていたんだ。なんか、俺に縁談が来ているみたいで。」
「えー!健一郎まだ3年生になったばかりじゃないの?もう、縁談なんて、早すぎるよ。」
「相手は、やっぱり国会議員のお嬢さんらしいんだ。それで、もし話が進んだ時のために、今、いる下宿先より、議員会館の方が、世間体がいいのではないかって、話になってね。」
「うーん。で、どうなのよ?そのお嬢さんに会ったのでしょ?感じは良かった?」
「いや、まだ会っていないよ。写真ももらっていない。ただ、俺はこんな青田刈りのようなこと、就職だけで十分だと思うのだけどさ。親父が……要するに、俺も絶倫の血を引いているだろうから、早めに嫁さん貰って、そっちのケアをしといたほうがいいのでは。という余計なお世話をしているんだよ。」
「ふーん。健一郎は、好きな娘いないの?」
「いるけど、まだ片思いなんだ。どうしても、親父とアノ女のことが頭から離れなくて、なかなか積極的に動けない。」
「あー。わかるわ。アノ女、強烈だったものね。だから、もし浮気でもされたら、と不安になるわね。」
「そういう姉さんは、お義兄さんとどうなのよ?」
「え?何も……ないわよ。」
「げ!姉さんも、鈍感だからな。あれだけアプローチされているのに、なんにも感じていないの?お義兄さんも前途多難だね。とにかく大学の娘、一回告ってみるよ。それでダメだったら、お見合いをして、議員宿舎に戻る。」
「私も一緒に議員宿舎に戻ろうか?」
「いや、姉さんは、ダメだ。ちゃんとお義兄さんの愛をここで受け止めるようにしなきゃダメだ。」
「どうやって、受け止めるの?」
「はぁー。ダメだ。アノ淫乱売女の継娘がよくそんなこと言えるな。お義兄さんにすべて、身を任せるのだよ。何もかも楽にして、任せれば、お義兄さんがちゃんと姉さんの行く末を考えてくれる。その前にお義兄さんのことを、もっと信じろよ。」
「はい。」
信じるか……。そうだよね、昨日、あんなコトしたのに、どこか信じていない自分に気づく。それは、練習相手のヨウスケにとっても、失礼な話だよね。
ヨウスケも小夜香のことを信じていたからこそ、この部屋に住まわしてくれて、弟の面倒まで見てくれているというのに。小夜香が心を閉ざしていては、ヨウスケに申し訳がない。
3つ目のオムレツが出来上がる頃を見計らって、ヨウスケが帰ってきた。
「「おかえりなさい。」」
「ただいま。おや、今日はおそろいでどうしたの?」
「うふふ。何もないわよ。」
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