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第3話 僕の人形姫
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「ううう……」
黙っていた自分とすぐに行動に移すナルティーヌ、そして嘘か誠か犯人に過激な復讐も辞さない感じのフレデリク。
なにもせずにただ耐えていた自分が情けなくなるゼナだった。
ぽた、ぽた。うつむいて涙ぐんでいたら、瓶底眼鏡に涙が落ちてしまった。
(あ、ふ、拭かないと)
涙は眼鏡に跡となって残るから厄介である。
ゼナは眼鏡をとると、制服の裾で涙をごしごし強く拭いたのだが……。
「……ぶっ」
ナルティーヌが吹き出した。
「っ!!」
はっ、として顔を上げるゼナ。
笑われた……。素顔を笑われてしまった!
ゼナは慌てて思いっきり顔を背けさせたが――。
「え、どういうことなんですの? これってなんなんですの!?」
「ふふふ、ナルティーヌ。見てしまったか……!」
フレデリクがくつくつと笑っている。
「そうなのだよ。ゼナはな、ゼナは……」
「待ってくださいっ、言わないでっ、言わないでくださいっ」
「眼鏡を取ったらお人形さんのような超美少女になるのだ。そう……ゼナは僕の人形姫だ!!!」
「きゃああああああっ!!」
ゼナの顔が真っ赤に染まった。また涙が出て来てしまう。
「どどどどうして言ってしまうんですかぁフレデリク様ぁ~っ」
「だって見れば分かるから」
「くううぅうううううぅぅぅぅ」
長くうなるゼナ。確かにその通りだから反論のしようがない。
そう――ゼナは自分の顔が嫌いだった。小さい頃から美少女といわれ、お人形さんみたいといわれ。
これのせいでずいぶん騒がれてきたし、フレデリクもこれのせいでおかしくなってしまうのだろう――と思っていた。
カチャリ、と瓶底眼鏡をかけ直すと、ナルティーヌに向き直る。
「す、すみません、ナルティーヌさん。このことはどうぞご内密に」
「え、別にいいけど。なんでわざわざ隠すの? そんな可愛かったらいいことがいっぱいあるでしょうに」
「ないですぅ……」
拭き残した涙のあとは気になるが見えないほどではない。ゼナは瓶底眼鏡をかけたままため息をついた。
「そのぅ、自分の顔って好きじゃないんです。小さい頃から美少女とかお人形とかいわれて。なんか、いろんな人がおかしくなっちゃうんです。フレデリク様にも常軌を逸した溺愛をされているし……」
「さっきのいきなりのぶっちゅーのこと? ゼナ様もけっこーノリノリに見えたけど」
「そ、それは、その」
真っ赤になってしまうゼナ。もっと抵抗したらいいのだと自分でも分かっているのだが、ゼナは人一倍快感に弱く流されるままにキスを受け入れてしまうのだ。
……好きな人からの濃厚なキスはとても気持ちがいいものだから、つい……。
「あれはただの愛情表現だ」
「愛情表現の範疇超えてません?」
「僕はゼナを愛しているからね。ゼナを愛すればこそ、いつでもどこでも愛を伝えたくなるんだよ」
「わ、私、あの、その……」
今さら、しゅううううううう……と頭から湯気が出てくるゼナ。人前でなんという痴態を演じてしまったのだろう。穴があったら入りたい……。
「ゼナ。君は僕の妃となる身なんだし僕の愛情表現には早いうちに慣れておいた方がいい」
「う、うう~」
「ぜったいに違いますわよ。その愛情表現は人前でするものじゃないわ」
「で、ですよね。たぶんそうなんじゃないかって思ってるんですけど、私、殿下としかこういうことしたことなくて、よく分からなくって……」
「あー……なるほど……」
ナルティーヌは何かに納得した様子である。
「でも嫌なら嫌ってちゃんと言わないとダメですわよ、ゼナ様」
「い、嫌じゃないっていうか……」
気持ちいいから好きではある。……人前では控えてほしいというだけで。
「犬も食わない、か。ま、お好きにどうぞ! 婚約者同士の王太子様と公爵令嬢様のすることですもの、誰もなにも言いませんわよ」
「……」
ちょっと突き放したナルティーヌの物言いに、ゼナはうつむいたまま沈黙している。
「ん、どうしたのゼナ様。黙っちゃって」
「いえ、あの……」
ゼナはちらりとフレデリクを見た。フレデリクはにっこり笑って首を傾げている。
「私、だから。婚約破棄されるのかなって、ちょっと期待しちゃって。そうしたら会って数秒でキスとかしなくてすむのかなっ、って」
「そこまで……。すまなかった。分かった、もうしないよゼナ」
フレデリックは頭を下げた。
「君は僕の婚約者だ。一生切り刻み続けても飽き足らないくらい好きだよ。でも婚約破棄を望むほど嫌なのだとしたら、これからは控える。出会い頭の濃厚なキスはね」
「うう、どう答えていいのか分かりません」
「そうね。私なら殴るわね。正当防衛になるわ」
「勘違いしてもらっては困るな、切るのは髪だよ」
「殿下は髪フェチなんですね。だから髪の毛を凶器にしようとしてたんですね……」
感慨深そうに頷くナルティーヌだった。
「いや髪でも同じですわよ、殴りますね」
「ぶ、武闘派なんですね……ナルティーヌさんって……」
「成り上がり令嬢は拳で語るのよ」
拳を胸の前で握り、武闘の型をかまえてニヤリとしてみせるナルティーヌ。
「ふ、面白いな。君と僕は仲良くなれそうだ」
「気持ち悪いこと言ってると殴りますよ?」
なんて言葉を交わしつつ、二人は握手を交わした。
黙っていた自分とすぐに行動に移すナルティーヌ、そして嘘か誠か犯人に過激な復讐も辞さない感じのフレデリク。
なにもせずにただ耐えていた自分が情けなくなるゼナだった。
ぽた、ぽた。うつむいて涙ぐんでいたら、瓶底眼鏡に涙が落ちてしまった。
(あ、ふ、拭かないと)
涙は眼鏡に跡となって残るから厄介である。
ゼナは眼鏡をとると、制服の裾で涙をごしごし強く拭いたのだが……。
「……ぶっ」
ナルティーヌが吹き出した。
「っ!!」
はっ、として顔を上げるゼナ。
笑われた……。素顔を笑われてしまった!
ゼナは慌てて思いっきり顔を背けさせたが――。
「え、どういうことなんですの? これってなんなんですの!?」
「ふふふ、ナルティーヌ。見てしまったか……!」
フレデリクがくつくつと笑っている。
「そうなのだよ。ゼナはな、ゼナは……」
「待ってくださいっ、言わないでっ、言わないでくださいっ」
「眼鏡を取ったらお人形さんのような超美少女になるのだ。そう……ゼナは僕の人形姫だ!!!」
「きゃああああああっ!!」
ゼナの顔が真っ赤に染まった。また涙が出て来てしまう。
「どどどどうして言ってしまうんですかぁフレデリク様ぁ~っ」
「だって見れば分かるから」
「くううぅうううううぅぅぅぅ」
長くうなるゼナ。確かにその通りだから反論のしようがない。
そう――ゼナは自分の顔が嫌いだった。小さい頃から美少女といわれ、お人形さんみたいといわれ。
これのせいでずいぶん騒がれてきたし、フレデリクもこれのせいでおかしくなってしまうのだろう――と思っていた。
カチャリ、と瓶底眼鏡をかけ直すと、ナルティーヌに向き直る。
「す、すみません、ナルティーヌさん。このことはどうぞご内密に」
「え、別にいいけど。なんでわざわざ隠すの? そんな可愛かったらいいことがいっぱいあるでしょうに」
「ないですぅ……」
拭き残した涙のあとは気になるが見えないほどではない。ゼナは瓶底眼鏡をかけたままため息をついた。
「そのぅ、自分の顔って好きじゃないんです。小さい頃から美少女とかお人形とかいわれて。なんか、いろんな人がおかしくなっちゃうんです。フレデリク様にも常軌を逸した溺愛をされているし……」
「さっきのいきなりのぶっちゅーのこと? ゼナ様もけっこーノリノリに見えたけど」
「そ、それは、その」
真っ赤になってしまうゼナ。もっと抵抗したらいいのだと自分でも分かっているのだが、ゼナは人一倍快感に弱く流されるままにキスを受け入れてしまうのだ。
……好きな人からの濃厚なキスはとても気持ちがいいものだから、つい……。
「あれはただの愛情表現だ」
「愛情表現の範疇超えてません?」
「僕はゼナを愛しているからね。ゼナを愛すればこそ、いつでもどこでも愛を伝えたくなるんだよ」
「わ、私、あの、その……」
今さら、しゅううううううう……と頭から湯気が出てくるゼナ。人前でなんという痴態を演じてしまったのだろう。穴があったら入りたい……。
「ゼナ。君は僕の妃となる身なんだし僕の愛情表現には早いうちに慣れておいた方がいい」
「う、うう~」
「ぜったいに違いますわよ。その愛情表現は人前でするものじゃないわ」
「で、ですよね。たぶんそうなんじゃないかって思ってるんですけど、私、殿下としかこういうことしたことなくて、よく分からなくって……」
「あー……なるほど……」
ナルティーヌは何かに納得した様子である。
「でも嫌なら嫌ってちゃんと言わないとダメですわよ、ゼナ様」
「い、嫌じゃないっていうか……」
気持ちいいから好きではある。……人前では控えてほしいというだけで。
「犬も食わない、か。ま、お好きにどうぞ! 婚約者同士の王太子様と公爵令嬢様のすることですもの、誰もなにも言いませんわよ」
「……」
ちょっと突き放したナルティーヌの物言いに、ゼナはうつむいたまま沈黙している。
「ん、どうしたのゼナ様。黙っちゃって」
「いえ、あの……」
ゼナはちらりとフレデリクを見た。フレデリクはにっこり笑って首を傾げている。
「私、だから。婚約破棄されるのかなって、ちょっと期待しちゃって。そうしたら会って数秒でキスとかしなくてすむのかなっ、って」
「そこまで……。すまなかった。分かった、もうしないよゼナ」
フレデリックは頭を下げた。
「君は僕の婚約者だ。一生切り刻み続けても飽き足らないくらい好きだよ。でも婚約破棄を望むほど嫌なのだとしたら、これからは控える。出会い頭の濃厚なキスはね」
「うう、どう答えていいのか分かりません」
「そうね。私なら殴るわね。正当防衛になるわ」
「勘違いしてもらっては困るな、切るのは髪だよ」
「殿下は髪フェチなんですね。だから髪の毛を凶器にしようとしてたんですね……」
感慨深そうに頷くナルティーヌだった。
「いや髪でも同じですわよ、殴りますね」
「ぶ、武闘派なんですね……ナルティーヌさんって……」
「成り上がり令嬢は拳で語るのよ」
拳を胸の前で握り、武闘の型をかまえてニヤリとしてみせるナルティーヌ。
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