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第36話 夢のなか、新聞部に抗議に行く
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ゼナはフレデリクに連れられ、放課後の新聞部部室へと向かった。
もちろん、新聞記事への抗議をするためだ。
(……?)
フレデリクと連れだって歩きながら、ゼナは不思議な感覚に陥っていた。
自分はこの抗議行動には参加していない……そんな思いが何故か沸き上がってくるのだ。
だがそれは一瞬のことで、ゼナはすぐに現実に引き戻される。
新聞部の前に来たのだ。
*****
部室の扉を開けると、中には数人の生徒がいた。
ゼナが部屋に入ると、みんな一斉にこちらを見た。
確か新聞部には女子部員もいたはずだが、ここにいるのはすべてが男子部員である。
「あれ、フレデリク殿下。なにかご用ですか?」
「ご用ですか? じゃない。あの新聞、見たぞ。あの記事を書いたのは誰だ?」
「俺です」
一人の生徒が手を挙げる。
フレデリクが声を落とし、静かに怒りの声を上げた。
「お前か。よくもまぁ嘘を書き連ねてくれたものだな……」
それには記者ではなく、新聞部部長が応じた。
「嘘ではないですよ、あれは。殿下とゼナさんの仲は学園中のみんなが知っていますし」
「嘘だろうが。ゼナがいつ僕を誘惑したんだ! 僕にキスをしろと命令したこともないし、自分のスカートをめくって見せつけてきたこともない。本当はゼナにズボンを脱がされたいと思っているがそれをしてくれたこともない。むしろそれくらい積極的になってもらいたいのに、今回の記事のせいで萎縮してしまってそれもなくなっただろうが!」
「フレデリク様……」
そんなことを思っていたのか。
「……すまない、ゼナ。話しが反れた。いいか、とにかくゼナが嫌がる記事を書き立てるのは間違っている。あれでゼナがどれだけ傷ついたと思っているんだ!」
「それは……まあ、悪いとは思っています」
意外なことに、部長は自分の非を認めた。だがすぐに言い訳をはじめる。
「でも、そちらが油断しきっているのも悪いんですよ。というかまるで噂にしてくれと言わんばかりの大盤振る舞いではありませんか、殿下」
「だからといってねつ造してまで記事にしていいわけがないだろうが。名誉毀損で訴えられると思わなかったのか?」
ごもっともなフレデリクの脅しである。
すると、部長の顔色が変わった。
「そ、それは、その。でも学園内の噂話をまとめたものですし、俺たちはその噂をまとめただけですし……」
「その噂に『ゼナがフレデリクを誘惑している』というのもあるというのか?」
「それは、ほら。噂話を面白おかしく脚色するのが俺たちの部活動ですから……」
しどろもどろ。部長は苦しそうに言い訳を募っていく。
「いくら殿下の婚約者とはいえ、ゼナさんは目立つところのない方でいらっしゃいます。そのゼナさんの意外性を出すとなれば、それはやっぱりゼナさんが積極的に殿下を誘うくらいしかないんんですよ。悲しいことですが、それくらいしないと誰も読んでくれないんです、俺らの新聞なんて……」
「そんな……っ」
ゼナは心がきゅうっとした。自分が目立たない存在であることは自覚しているし、むしろそうなるよう演技しているところがあるけれど……。でもそれをこんなふうに面白おかしくかき立てられてはたまらない。
ゼナが泣きそうな表情を見せると、それを見た部長はあわてて取り繕った。
「す、すみません。結果的にゼナさんをいじめたみたいなってしまったことは認めます。ちょっとした噂話の尾ひれはひれのつもりだったんですけど……」
そして部長は深くため息をつき、頷いたのだ。
「……分かりました。分かりましたよ、ゼナさん、殿下。訂正記事を書きます」
「本当だな?」
「えぇ。それで許してもらえるならいくらでも書きます。ですからどうか、訴えないでください」
「記事の出来次第だな。待っているから今すぐ訂正記事を書いてみせよ。ゼナがいかに魅力的な女性か詳しく書くのだぞ」
「分かりました。……おい、書けるよな?」
「ええ、お安いご用です」
あの記事を書いた記者が軽く請け合う。
ゼナはほっとした。これで丸く収まりそうだ。
……噂は確実に学園中に広がってしまったが……、それでも訂正記事を流してもらえれば、そのうち噂も収まっていくだろう。
「俺が記事を書くときにモットーにしているのが『人の口に戸は立てられないから思い切って全開にする』なんですよ。誰かを傷つけたくて書いてるわけではないんです。書けっていうなら訂正記事くらい、いくらでも書きますよ。リテイクは3回までにしていただきたいですが」
「それなら、僕が君たちに取材させてやろう」
フレデリクはゼナの肩を抱き寄せ、言う。
「……ゼナは僕を誘惑などしていない。それをこれから実演してみせる。君たちはそれをもとにきちんとした訂正記事を書くんだ」
「それはありがたいですね。ですが実演、とは……?」
首を傾げる記者を前に、フレデリクはゼナの額にちゅっとキスを落とした。
「ゼナがどれだけ魅力的な女性か、ここで君にじっくり見せてあげよう」
「え……?」
思わずゼナは首を傾げた。
なんだろう、この取り留めもない話の流れは。整合性があるような、ないような……。想像力が勝手に暴走しているような錯覚がある。
そういえば、新聞部の男子生徒たちの顔がぼんやりとしていてよく見えない。
まるで……なんだか夢の中みたい……。
もちろん、新聞記事への抗議をするためだ。
(……?)
フレデリクと連れだって歩きながら、ゼナは不思議な感覚に陥っていた。
自分はこの抗議行動には参加していない……そんな思いが何故か沸き上がってくるのだ。
だがそれは一瞬のことで、ゼナはすぐに現実に引き戻される。
新聞部の前に来たのだ。
*****
部室の扉を開けると、中には数人の生徒がいた。
ゼナが部屋に入ると、みんな一斉にこちらを見た。
確か新聞部には女子部員もいたはずだが、ここにいるのはすべてが男子部員である。
「あれ、フレデリク殿下。なにかご用ですか?」
「ご用ですか? じゃない。あの新聞、見たぞ。あの記事を書いたのは誰だ?」
「俺です」
一人の生徒が手を挙げる。
フレデリクが声を落とし、静かに怒りの声を上げた。
「お前か。よくもまぁ嘘を書き連ねてくれたものだな……」
それには記者ではなく、新聞部部長が応じた。
「嘘ではないですよ、あれは。殿下とゼナさんの仲は学園中のみんなが知っていますし」
「嘘だろうが。ゼナがいつ僕を誘惑したんだ! 僕にキスをしろと命令したこともないし、自分のスカートをめくって見せつけてきたこともない。本当はゼナにズボンを脱がされたいと思っているがそれをしてくれたこともない。むしろそれくらい積極的になってもらいたいのに、今回の記事のせいで萎縮してしまってそれもなくなっただろうが!」
「フレデリク様……」
そんなことを思っていたのか。
「……すまない、ゼナ。話しが反れた。いいか、とにかくゼナが嫌がる記事を書き立てるのは間違っている。あれでゼナがどれだけ傷ついたと思っているんだ!」
「それは……まあ、悪いとは思っています」
意外なことに、部長は自分の非を認めた。だがすぐに言い訳をはじめる。
「でも、そちらが油断しきっているのも悪いんですよ。というかまるで噂にしてくれと言わんばかりの大盤振る舞いではありませんか、殿下」
「だからといってねつ造してまで記事にしていいわけがないだろうが。名誉毀損で訴えられると思わなかったのか?」
ごもっともなフレデリクの脅しである。
すると、部長の顔色が変わった。
「そ、それは、その。でも学園内の噂話をまとめたものですし、俺たちはその噂をまとめただけですし……」
「その噂に『ゼナがフレデリクを誘惑している』というのもあるというのか?」
「それは、ほら。噂話を面白おかしく脚色するのが俺たちの部活動ですから……」
しどろもどろ。部長は苦しそうに言い訳を募っていく。
「いくら殿下の婚約者とはいえ、ゼナさんは目立つところのない方でいらっしゃいます。そのゼナさんの意外性を出すとなれば、それはやっぱりゼナさんが積極的に殿下を誘うくらいしかないんんですよ。悲しいことですが、それくらいしないと誰も読んでくれないんです、俺らの新聞なんて……」
「そんな……っ」
ゼナは心がきゅうっとした。自分が目立たない存在であることは自覚しているし、むしろそうなるよう演技しているところがあるけれど……。でもそれをこんなふうに面白おかしくかき立てられてはたまらない。
ゼナが泣きそうな表情を見せると、それを見た部長はあわてて取り繕った。
「す、すみません。結果的にゼナさんをいじめたみたいなってしまったことは認めます。ちょっとした噂話の尾ひれはひれのつもりだったんですけど……」
そして部長は深くため息をつき、頷いたのだ。
「……分かりました。分かりましたよ、ゼナさん、殿下。訂正記事を書きます」
「本当だな?」
「えぇ。それで許してもらえるならいくらでも書きます。ですからどうか、訴えないでください」
「記事の出来次第だな。待っているから今すぐ訂正記事を書いてみせよ。ゼナがいかに魅力的な女性か詳しく書くのだぞ」
「分かりました。……おい、書けるよな?」
「ええ、お安いご用です」
あの記事を書いた記者が軽く請け合う。
ゼナはほっとした。これで丸く収まりそうだ。
……噂は確実に学園中に広がってしまったが……、それでも訂正記事を流してもらえれば、そのうち噂も収まっていくだろう。
「俺が記事を書くときにモットーにしているのが『人の口に戸は立てられないから思い切って全開にする』なんですよ。誰かを傷つけたくて書いてるわけではないんです。書けっていうなら訂正記事くらい、いくらでも書きますよ。リテイクは3回までにしていただきたいですが」
「それなら、僕が君たちに取材させてやろう」
フレデリクはゼナの肩を抱き寄せ、言う。
「……ゼナは僕を誘惑などしていない。それをこれから実演してみせる。君たちはそれをもとにきちんとした訂正記事を書くんだ」
「それはありがたいですね。ですが実演、とは……?」
首を傾げる記者を前に、フレデリクはゼナの額にちゅっとキスを落とした。
「ゼナがどれだけ魅力的な女性か、ここで君にじっくり見せてあげよう」
「え……?」
思わずゼナは首を傾げた。
なんだろう、この取り留めもない話の流れは。整合性があるような、ないような……。想像力が勝手に暴走しているような錯覚がある。
そういえば、新聞部の男子生徒たちの顔がぼんやりとしていてよく見えない。
まるで……なんだか夢の中みたい……。
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