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舞うは吸血鬼、魅せられるは黒髪の少女

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~時は少し遡り、百合視点~

眷属を組合に登録したから今後は眷属と一緒に戦う事もあるだろうから、その時の為に連携の確認とツバサとルーナだっけ?
ハーピィの子達と一緒に行動する事になった。
言ってる事は理解出来るけど、なんでそこで自分は単独行動をするのかなぁ?
そりゃあ、レンちゃんが1番強いのは分かるけどさ……。
でも1番連携を取るべきなのはレンちゃんじゃないかな?

「あそこにゴブリンがいますよ」
「え、どこ?」
「あそこですよ」
「あ、いた。んー、よっと」
「お見事」

レンちゃんとの特訓のお陰で最近は狙うのが早くなり、命中精度も上がってきてる。
今では動かない相手なら8割の確率で頭を射抜く事が出来る。
レンちゃんが言うにはこれでもまだまだらしいけど。
一応スキルに異世界弓術以外に弓術も増えたんだけどなぁ。

「ルーナ。ヤハリミハラレテル」
「そうですか……目的がわからない事には対処のしようがありませんね」
「え、見張られてる!?  誰に!?」
「それは分かりませんが、数は3人です。ですよね?」
「ソラカラカクニンシタカラマチガイナイ」

3人ならなんとかなるかな……でも私、まだ人を射った事ないし……

「む、これは……」
「どうしたの?」
「構えて下さい。少々面倒な事になりした」
「え、何?  なんなの!?」

何処からか、野太い悲鳴が聞こえてくる。
それと共に聞きたくないような、何かが潰れる音や引きちぎる音、砕かれる音も聞こえてくる。

「来ます!」

森の中から現れたのは、黒い大きな蜘蛛。
鋭い牙に鋭い爪、恐ろしい顔には8つの目が付いている。
怖い……ゴブリンやスライム、ホーンラビットとは違う、殺す側の、弱肉強食の上位に位置する魔物だ……。

「ツバサ、合わせて下さい!」
「マカセロ!」

動けないでいる私をよそに、ツバサとルーナの2人は果敢に襲いかかる。
しかし、2人は元々ハーピィで地上戦よりも空中戦の方が得意で、でも私がいるから地上で戦うしかなく、地上と樹上で縦横無尽に動き回る蜘蛛が相手では勝てるはずもなく、奮戦虚しく蜘蛛の糸に絡め取られ、放たれた闇の魔法で吹き飛ばされた。

「あ……ああ……」

怖くて、恐ろしくて、全く動けないでいると私を守ろうと2人が怪我した身体を引きずりながら私の前へと出ようとする。
なんでなの?
なんでそんなに頑張れるのよ!?
そして無慈悲にも襲い掛かってくる蜘蛛。
私は怖くて目をつぶってしまったけど、なかなか衝撃が来ず、それどころか何かが地面を滑る音が聞こえてくる始末。
恐る恐る目を開けると、目の前にはレンが居た。

「レン……ちゃん?」
「そう、レンちゃんです。百合ちゃんは大丈夫?」
「う、うん……」
「それは良かった。百合ちゃんは2人を回復させておいて。前にポーション渡しておいたでしょ?」

そういえば前に自作だというポーションをもらっていたっけ。
それで2人を回復させ……って、危ない!
蜘蛛が闇の魔法を放ってくる。
このままじゃレンちゃんが!

「わ、分かった……って、レンちゃん危ない!」
「大丈夫、気付いているから」

レンちゃんの放った光の魔法と蜘蛛の魔法がぶつかり合い、弾け、白と黒の花を作り出す。

「安心して、すぐに終わらせるから」

レンちゃんはそう言うと蜘蛛へと向き直し、そして立ち向かっていく。
最初に一撃与えたのはレンちゃんだった。
白い光を纏わせた拳で蜘蛛を殴り飛ばす。
蜘蛛は回転をしながら木に糸を貼り付けて勢いを殺しそのまま木の枝に乗る。
そこに追撃を仕掛けるレンちゃんを蜘蛛は樹上を飛び回るようにして躱していく。
レンちゃんはバサァッと翼を広げて空中で静止し、そこから急加速で殴りかかるが、すんでのところで躱される。
ああ、惜しい。
その後は追うレンちゃんと逃げる蜘蛛という構図になる。
あと少しなんだけど、その少しが届かない。 
そう思っていたら突然レンちゃんが何かに引っ掛かるようにして止まってしまう。
何が……という答えは蜘蛛が空中を歩いている事で理解した。
糸だ。
目に見えない程の極細の糸が辺りに張り巡らされていたのだ。
きっと、逃げている間に網を張っていた、文字通りに。
まずい、なんとかしなきゃ……。

「ふふっ、やっと来たね。追いかけっこじゃ埒が開かないから、誘わせてもらったよ」

レンちゃんの全身から火の粉が煌めく。
それだけでレンちゃんは軛から解き放たれ、それだけじゃなくて空を歩いていた蜘蛛も糸が焼き切られた事で地面へと真っ逆さまに落ちていく。
糸でなんとか体勢を立て直そうとするも、そこへレンちゃんの光る拳が襲い掛かる。
バキィッといういい音が響き、蜘蛛が地面へと叩きつけられる。
蜘蛛はその場でキチキチと牙を鳴らしているが顔は大きく凹み、牙も片方はひしゃげて変な方を向いていた。
それでも戦う気は失せていないようで、8つの目でレンちゃんを見ている。

「へぇ……いい目だね」

いや、蜘蛛は複眼で動かないからいい目も何もないと思うんだけど。

「残念だよ、君が俺の大切な子達に危害を加えなければ眷属にしていたかもしれない。」

そこで小学生の頃に読んだ蜘蛛が出てくる吸血鬼の小説があったなと、ふと思い出した。

「でも、もうそんな段階じゃない。うちの子達を傷つけ、百合ちゃんに怖い思いをさせたお前を、俺は許さない」

そこからは、一方的だった。
先程の一撃が効いているのか蜘蛛の動きは精彩を欠き、レンちゃんが拳を振るえば体の何処かがひしゃげ、蹴りが放たれれば放物線を描いていく。
あっという間に蜘蛛の8本の脚は全てあらぬ方を向き、身体は至る所が凹んでいる。
それだけの暴威を振るっていたのに、私はそんなレンちゃんの姿を見て恐るのではなく、見惚れてしまっていた。
煌めく金色の髪を靡かせ、まるで舞を踊っているかのように戦う姿に、ただただ魅了させられていた。
綺麗だと、思ったのだ。

「じゃあね、良き来世を送れる事を祈っているよ」

蜘蛛の頭が飛んだ。

「終わったよ、百合ちゃん」

振り返り、ニコッと笑うレンちゃんは、直視出来ないほど眩しく、私の心臓は不意に高鳴った。
いや、私はノーマルだから。
これはきっと、恐怖で高まった鼓動を感じただけだ。
そうに違いない。
そうであって欲しい。
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