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レンとヒナタ、その後の話。
#2 側に【ヒナタSide】
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俺──ヒナタは、いつものように下駄箱で靴と上履きを履き替える。
高校三年生。この学校は三期制、今日から二学期だ。
全員上履きを家に持ち帰っているので、下駄箱はほとんど空だ。
(ん?)
一つだけ、靴が入っている。
靴が入っている、それはつまり誰かが先に登校していたということだ。
下駄箱にペンで書かれた名前はもう掠れて見えないので、誰が来ているか分からない。
分からないが、さほど興味もない。
すぐに視線を外して教室へ向かった。
♧
「……まじかよ……」
喉から絞り出された声は、たぶん至近距離にいても聞こえないような、ひどく小さい声だったと思う。
危うくバッグを取り落としそうになる。
(なんでお前が…………)
先に教室にいたのは、レン。
思わず後退り、扉の前で身を屈める。
三年になったばかりの頃、一度だけ俺の前に現れて、それ以降は来なかった。
(どうすればいいんだよ……)
しかも、彼以外は誰もいない。
こんなに早く来るんじゃなかった、という後悔を口にしながらため息を吐く。
もう一度教室のほうへ目をやる。
すると、あることに気づく。
「あれ、あいつ……」
寝ている。
彼の席は窓際にある。レンは窓にもたれかかって、すうすうと寝息を立てている。
「寝てるのかよ……」
呆れの混じった声で呟き、立ち上がる。
なるべく足音を立てないように教室へ入る。
俺の席は廊下側。近いとは言い難い席だ。
荷物を整理してから、席につく。
「…………」
何とも落ち着かず、席を立つ。
足が、窓際へ動く。ほとんど無意識だったと言ってもいい。
やがてレンの席へと到達する。彼が起きる気配はない。
よく見てみれば整った容姿だ。
童顔ともいえる幼さの残る顔立ち、目元を隠すように伸ばしてある前髪。
そういえばちゃんと顔を見たことなかったな、と独り言を呟く。
何となく、レンの伸びきった前髪をすくう。
前髪の下では長いまつ毛が伏せられている。
「………………ごめん」
顔を俯かせて、目を閉じる。
まぶたの裏に浮かぶのは、六年前の光景。
いつか、言おうと思っていた。
本当は起きてる時に言いたかったけれど。
伏せていた目を開ける。
「んぅ……」
寝ぼけた声を上げたのは、俺じゃない。
俺じゃなかったら、レンだ。
「やべっ……」
小さく呟き、レンに背を向ける。
教室の外へ向かった足を、ピタリと止める。
否、足が止まる。
咄嗟に後ろを向くと、レンが袖の裾を掴んでいた。
(え…………)
レンはまぶたを持ち上げ、微睡んだ声で呟く。
「……まってよ…………トオル……」
誰だよ、と言いそうになった口を噤む。
虚空を見つめるレンの瞳には涙が溜まっている。
裾を掴むレンの手に力が入る。
自分の席へと戻ろうとしていた足は、自然とレンのほうへと向き直る。
"トオル"────その人は、レンにとってどのような存在だったのか。
脳裏に浮かぶのは、一年前に花畑でレンと話していた少年。
その少年が、レンがここにいる理由なのだろう。
レンの机に置いてある押し花の入ったしおりへ視線を移す。
この花と、トオルという少年には繋がりがあるのだろう。想像するのは容易かった。
俺にその少年の面影を見ているのだろうか。
レンの机に軽く腰掛ける。
「側にに居てやるよ……」
つい、強がりのように傲慢な言葉が口をついて出る。
すると、レンは安心したようにまた眠りにつく。
(今の俺には、それしかできないから)
心の中で呟き、唇を噛む。
「俺が変われる日は、いつくるのかなぁ」
高校三年生。この学校は三期制、今日から二学期だ。
全員上履きを家に持ち帰っているので、下駄箱はほとんど空だ。
(ん?)
一つだけ、靴が入っている。
靴が入っている、それはつまり誰かが先に登校していたということだ。
下駄箱にペンで書かれた名前はもう掠れて見えないので、誰が来ているか分からない。
分からないが、さほど興味もない。
すぐに視線を外して教室へ向かった。
♧
「……まじかよ……」
喉から絞り出された声は、たぶん至近距離にいても聞こえないような、ひどく小さい声だったと思う。
危うくバッグを取り落としそうになる。
(なんでお前が…………)
先に教室にいたのは、レン。
思わず後退り、扉の前で身を屈める。
三年になったばかりの頃、一度だけ俺の前に現れて、それ以降は来なかった。
(どうすればいいんだよ……)
しかも、彼以外は誰もいない。
こんなに早く来るんじゃなかった、という後悔を口にしながらため息を吐く。
もう一度教室のほうへ目をやる。
すると、あることに気づく。
「あれ、あいつ……」
寝ている。
彼の席は窓際にある。レンは窓にもたれかかって、すうすうと寝息を立てている。
「寝てるのかよ……」
呆れの混じった声で呟き、立ち上がる。
なるべく足音を立てないように教室へ入る。
俺の席は廊下側。近いとは言い難い席だ。
荷物を整理してから、席につく。
「…………」
何とも落ち着かず、席を立つ。
足が、窓際へ動く。ほとんど無意識だったと言ってもいい。
やがてレンの席へと到達する。彼が起きる気配はない。
よく見てみれば整った容姿だ。
童顔ともいえる幼さの残る顔立ち、目元を隠すように伸ばしてある前髪。
そういえばちゃんと顔を見たことなかったな、と独り言を呟く。
何となく、レンの伸びきった前髪をすくう。
前髪の下では長いまつ毛が伏せられている。
「………………ごめん」
顔を俯かせて、目を閉じる。
まぶたの裏に浮かぶのは、六年前の光景。
いつか、言おうと思っていた。
本当は起きてる時に言いたかったけれど。
伏せていた目を開ける。
「んぅ……」
寝ぼけた声を上げたのは、俺じゃない。
俺じゃなかったら、レンだ。
「やべっ……」
小さく呟き、レンに背を向ける。
教室の外へ向かった足を、ピタリと止める。
否、足が止まる。
咄嗟に後ろを向くと、レンが袖の裾を掴んでいた。
(え…………)
レンはまぶたを持ち上げ、微睡んだ声で呟く。
「……まってよ…………トオル……」
誰だよ、と言いそうになった口を噤む。
虚空を見つめるレンの瞳には涙が溜まっている。
裾を掴むレンの手に力が入る。
自分の席へと戻ろうとしていた足は、自然とレンのほうへと向き直る。
"トオル"────その人は、レンにとってどのような存在だったのか。
脳裏に浮かぶのは、一年前に花畑でレンと話していた少年。
その少年が、レンがここにいる理由なのだろう。
レンの机に置いてある押し花の入ったしおりへ視線を移す。
この花と、トオルという少年には繋がりがあるのだろう。想像するのは容易かった。
俺にその少年の面影を見ているのだろうか。
レンの机に軽く腰掛ける。
「側にに居てやるよ……」
つい、強がりのように傲慢な言葉が口をついて出る。
すると、レンは安心したようにまた眠りにつく。
(今の俺には、それしかできないから)
心の中で呟き、唇を噛む。
「俺が変われる日は、いつくるのかなぁ」
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