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向き合う
#1 プロポーズ【ヒナタSide】
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「ヒ、ナタ、くん……」
レンが強張った表情で呟く。
拍動が急激に速くなり、視線は落ち着きなく周囲を彷徨う。
今、この場で「ごめん」と言わなければいけない。
「好きだ」と伝えたい。
逃げるのはやめにしたのだ。
弱い自分から変わりたい。
「……ぁ……」
喉から絞り出された声は掠れていて、至近距離でないと聞こえないような声だった。
それが余計にパニックを招く。
膝に置いた両手が小刻みに震えだし、下を向いてしまう。
(俺はなんてみじめなんだ……)
六年間ずっとしてきたように、また自分を卑下する。
レンの反応を窺いたいものの、身体が完全に固まってしまい、動かせない。
俺は何でこうも弱いのだろう。
俺は何でこうも格好悪いのだろう。
──俺は最低な人間だ。
いつの間にか目頭に溜まっていた涙が手の甲に落ちる。
だめだ。だめなんだ。俺が泣いては。
レンを傷つけて、六年も逃げておいて、今更自分だけ泣くなんて、自分勝手にも程があるだろう。
わかっているのに、涙は止まるどころかどんどん溢れてくる。
その涙も拭えずに硬直していると、カサリという小さな音がした。
チラリとレンの方へ視線をやると、彼の手にはマーガレットのしおりが握られていた。
「…………僕、ね……」
レンが小さく呟くと、反射的に頭が上がった。
彼はしおりから視線を外さずにぽつりぽつりと語る。
「好きな人が、いるんだ」
自分ではないとわかってはいるが、ほんの少しだけ生まれてしまう期待に嫌気が差す。
心当たりはあった。
一年前、レンの家の近くにある森で見かけた少年。
レンはその少年の前で俺が見たこともない笑顔を見せた。
「その人は……もう、僕の近くにはいないんだけど」
レンは悲しそうに眉を下げ、目を伏せる。
「いつも……夢に出てきてくれるんだ」
朝の教室でも、その少年の夢を見ていたのだろう。
レンにとって必要不可欠で、唯一無二の存在なのだろうか。
「その人は……トオルは、僕の『怖いものにも立ち向かう』ところが好きって、そう言ってくれたんだ」
夢の中だけどね、と付け足すレンの口角は上がっている。
その微笑みは俺に向けられたものではない。
レンはこれから一生、俺を見てくれることはきっとない。
レンの言う『怖いもの』は俺のことだ。
過去に自分を傷つけた相手をどうして恋愛対象として見られようか。
「ヒナタくんのことは、やっぱり今でも怖い」
そうだろうな、と目を伏せる。
「……でも、今日は逃げないで話をしたい」
レンが顔を上げ、俺を見る。
思わず伏せていた目を俺は見開く。
逃げていたのは、俺の方だ。
去年、一度だけ「おはよう」と言ってくれたときも。
今日、教室で会ったときも。
いつも、臆病で対話を避けていたのは俺の方なのだ。
(何で俺に構ってくれるんだよ……!)
責めてくれたほうが楽だったかもしれない。
違うそうじゃない、と口走りそうになる口をつぐむ。
レンは懸命に言葉を紡いだ。
「ヒナタ、くん。あなたと話が、したいです」
その声には、確かな決意と勇気が宿っていた。
教室で見た弱々しい彼とは違う。
瞳は真っ直ぐに俺を見据え、何でも受け止める覚悟ができている。
そんなレンを眩しく思いつつ、口を開く。
「…………俺は……」
一瞬の躊躇いが生じる。
言っていいのだろうか。やはり言わないほうがいいのではないか。
だが、その葛藤も一瞬。
(逃げないって決めたんだ)
ベッドの側の床に落ちていた黄色いチューリップの造花を手に取る。
そして跪き、花を持った右手を持ち上げる。
「────君が、好きだ」
レンが強張った表情で呟く。
拍動が急激に速くなり、視線は落ち着きなく周囲を彷徨う。
今、この場で「ごめん」と言わなければいけない。
「好きだ」と伝えたい。
逃げるのはやめにしたのだ。
弱い自分から変わりたい。
「……ぁ……」
喉から絞り出された声は掠れていて、至近距離でないと聞こえないような声だった。
それが余計にパニックを招く。
膝に置いた両手が小刻みに震えだし、下を向いてしまう。
(俺はなんてみじめなんだ……)
六年間ずっとしてきたように、また自分を卑下する。
レンの反応を窺いたいものの、身体が完全に固まってしまい、動かせない。
俺は何でこうも弱いのだろう。
俺は何でこうも格好悪いのだろう。
──俺は最低な人間だ。
いつの間にか目頭に溜まっていた涙が手の甲に落ちる。
だめだ。だめなんだ。俺が泣いては。
レンを傷つけて、六年も逃げておいて、今更自分だけ泣くなんて、自分勝手にも程があるだろう。
わかっているのに、涙は止まるどころかどんどん溢れてくる。
その涙も拭えずに硬直していると、カサリという小さな音がした。
チラリとレンの方へ視線をやると、彼の手にはマーガレットのしおりが握られていた。
「…………僕、ね……」
レンが小さく呟くと、反射的に頭が上がった。
彼はしおりから視線を外さずにぽつりぽつりと語る。
「好きな人が、いるんだ」
自分ではないとわかってはいるが、ほんの少しだけ生まれてしまう期待に嫌気が差す。
心当たりはあった。
一年前、レンの家の近くにある森で見かけた少年。
レンはその少年の前で俺が見たこともない笑顔を見せた。
「その人は……もう、僕の近くにはいないんだけど」
レンは悲しそうに眉を下げ、目を伏せる。
「いつも……夢に出てきてくれるんだ」
朝の教室でも、その少年の夢を見ていたのだろう。
レンにとって必要不可欠で、唯一無二の存在なのだろうか。
「その人は……トオルは、僕の『怖いものにも立ち向かう』ところが好きって、そう言ってくれたんだ」
夢の中だけどね、と付け足すレンの口角は上がっている。
その微笑みは俺に向けられたものではない。
レンはこれから一生、俺を見てくれることはきっとない。
レンの言う『怖いもの』は俺のことだ。
過去に自分を傷つけた相手をどうして恋愛対象として見られようか。
「ヒナタくんのことは、やっぱり今でも怖い」
そうだろうな、と目を伏せる。
「……でも、今日は逃げないで話をしたい」
レンが顔を上げ、俺を見る。
思わず伏せていた目を俺は見開く。
逃げていたのは、俺の方だ。
去年、一度だけ「おはよう」と言ってくれたときも。
今日、教室で会ったときも。
いつも、臆病で対話を避けていたのは俺の方なのだ。
(何で俺に構ってくれるんだよ……!)
責めてくれたほうが楽だったかもしれない。
違うそうじゃない、と口走りそうになる口をつぐむ。
レンは懸命に言葉を紡いだ。
「ヒナタ、くん。あなたと話が、したいです」
その声には、確かな決意と勇気が宿っていた。
教室で見た弱々しい彼とは違う。
瞳は真っ直ぐに俺を見据え、何でも受け止める覚悟ができている。
そんなレンを眩しく思いつつ、口を開く。
「…………俺は……」
一瞬の躊躇いが生じる。
言っていいのだろうか。やはり言わないほうがいいのではないか。
だが、その葛藤も一瞬。
(逃げないって決めたんだ)
ベッドの側の床に落ちていた黄色いチューリップの造花を手に取る。
そして跪き、花を持った右手を持ち上げる。
「────君が、好きだ」
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