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印鑑紛失(珍)事件
火急の物品調達の許可はさつまいもハンコ
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己の不幸すぎる境遇に思いを馳せていると、白虎が困った声音で「……印鑑……」と呟いている。
「職員室行ってみますか」
「さつまいものハンコ作ってみたいんだよね~」
新兎の常識的な意見を遮るように、朱雀が顎に指を当てて笑う。
「む……さつまいものハンコでも印が押せれば何でもいいか……じゃあさつまいもで頼む」
「会長っ!?」
「火急を要する物品調達だそうだ。なるべく早く許可を出したい」
「ワタクシにお任せをっ!」
しづきが勢いよく立ち上がり、生徒会室を飛び出す。
兄妹のことになると周りが見えないしづきのことを心配し、新兎はしづきを追う。
◇
「どこ行きやがった……」
光の如く消えていき見失ったしづきに悪態をつきながら、新兎は学校の中庭を歩いていた。
廊下の突き当たりから中庭へ出たしづきの残像を確かに見たのだ。中庭にいることは間違いない。
(確かさつまいものハンコ……だったような)
さつまいものハンコを作るのであれば、まずはさつまいもが必要になるのだが、この学校のどこにもさつまいもは植えられていない。
中庭にあるのは一年生のラディッシュと二年生の大根くらいだが。
(……って、なんでこんなこと真面目に考えてるんだ)
新兎は我に返り、中庭に背を向けて生徒会室へ戻ろうとする。
しづきを見つけて連れ戻すよりも、職員室に行って先生たちに打診するほうが絶対早い。
第一、彼女が本当にさつまいもハンコを作ろうとしているかも分からない。
自由奔放な生徒会メンバーに振り回されてる事実にいらつきながら室内に入ろうとすると、ザッザッと土を掘るような音が微かに聞こえていることに気づく。
まさか、と思い建物の影になっているスペースを覗くと、案の定シャベルを持ってしゃがみ込んでいる女子生徒の背中があった。
「……舞薔薇さん」
呆れを滲ませた声で後ろから控えめに呼びかけるが、応答はない。
「舞薔薇さーん、舞薔薇しづきさーん」
いらだちを込めてフルネームで呼びかけるが、まるで赤の他人であるかのように反応がない。
「し、づ、き、さん」
持ち出していた議事録で彼女の頭をポンと軽く叩くと、ようやく顔を上げた。
それはそれは面倒くさそうな顔で。
「うるさいですウサギさん」
「っウサギじゃねーし!」
身長が低く童顔であることがコンプレックスの新兎は食い気味に否定する。
「って、何してるんですか?」
ゴホンと咳払いをしてから本題に入る。
しづきは何を当然なことを、とばかりに怪訝そうに答える。
「さつまいも育ててますけど」
「……は?」
新兎は瞬時に悟った。
(あ、だめだ。これ理解できない生命体だ)
「職員室行ってみますか」
「さつまいものハンコ作ってみたいんだよね~」
新兎の常識的な意見を遮るように、朱雀が顎に指を当てて笑う。
「む……さつまいものハンコでも印が押せれば何でもいいか……じゃあさつまいもで頼む」
「会長っ!?」
「火急を要する物品調達だそうだ。なるべく早く許可を出したい」
「ワタクシにお任せをっ!」
しづきが勢いよく立ち上がり、生徒会室を飛び出す。
兄妹のことになると周りが見えないしづきのことを心配し、新兎はしづきを追う。
◇
「どこ行きやがった……」
光の如く消えていき見失ったしづきに悪態をつきながら、新兎は学校の中庭を歩いていた。
廊下の突き当たりから中庭へ出たしづきの残像を確かに見たのだ。中庭にいることは間違いない。
(確かさつまいものハンコ……だったような)
さつまいものハンコを作るのであれば、まずはさつまいもが必要になるのだが、この学校のどこにもさつまいもは植えられていない。
中庭にあるのは一年生のラディッシュと二年生の大根くらいだが。
(……って、なんでこんなこと真面目に考えてるんだ)
新兎は我に返り、中庭に背を向けて生徒会室へ戻ろうとする。
しづきを見つけて連れ戻すよりも、職員室に行って先生たちに打診するほうが絶対早い。
第一、彼女が本当にさつまいもハンコを作ろうとしているかも分からない。
自由奔放な生徒会メンバーに振り回されてる事実にいらつきながら室内に入ろうとすると、ザッザッと土を掘るような音が微かに聞こえていることに気づく。
まさか、と思い建物の影になっているスペースを覗くと、案の定シャベルを持ってしゃがみ込んでいる女子生徒の背中があった。
「……舞薔薇さん」
呆れを滲ませた声で後ろから控えめに呼びかけるが、応答はない。
「舞薔薇さーん、舞薔薇しづきさーん」
いらだちを込めてフルネームで呼びかけるが、まるで赤の他人であるかのように反応がない。
「し、づ、き、さん」
持ち出していた議事録で彼女の頭をポンと軽く叩くと、ようやく顔を上げた。
それはそれは面倒くさそうな顔で。
「うるさいですウサギさん」
「っウサギじゃねーし!」
身長が低く童顔であることがコンプレックスの新兎は食い気味に否定する。
「って、何してるんですか?」
ゴホンと咳払いをしてから本題に入る。
しづきは何を当然なことを、とばかりに怪訝そうに答える。
「さつまいも育ててますけど」
「……は?」
新兎は瞬時に悟った。
(あ、だめだ。これ理解できない生命体だ)
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