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7話 若き葬儀屋の悩み
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「ちゃんと親父と話せたんだな、よかった!」
飛鳥が満面の笑みで両手を広げてみせたのは翌朝のこと。晴澄に抱きつかんばかりの勢いだったので、さりげなく躱しておく。
「いやあ、こっちがドキドキしたぜ。旅行中にプロポーズを済ませてあとは返事待ち、ってことだったからさ」
「……誰の妄想ですか?」
恐ろしく事実が歪められている。情報源は聞くまでもない。
顔を強張らせる晴澄に構わず、飛鳥は鼻歌混じりに肩を揺らしていた。
夜勤明けの昂揚も手伝っているのかもしれないが、まるで自分のことのように嬉しそうだ。家族ならそういうものだと飛鳥は言うのかもしれないが、晴澄の中から違和感と罪悪感が消えることはない。だが無理に消さなくてもいい、と考えるようにした。
「式とか挙げねえの? 最近は対応してくれるとこ増えてんだろ?」
話が飛躍している。やはり駄目かもしれない。
「晴澄さん結婚するんですか!?」
タイミング悪く事務所に入ってきた平坂が素っ頓狂な声をあげた。手にしていたコーヒーを床に落とさなかったのは、彼なりの成長だ。
「そっか……急に社長が帰ってきたから何でかなあと思ってたんですよ。そういうことか……!」
「違います。飛鳥さんも、勝手に話を広げないで──」
「ハール。調子はどうだ」
「……」
無駄に目をキラキラさせる飛鳥、露骨に嫌そうな表情を作る平坂。
人間のものではない華やかな気配は今日もうるさく、背中越しに感じただけなのに視界が眩しい。
「会社に来ていいとはまだ言ってないだろう……」
「おまえ一生言わないだろう、そんなこと」
ヴェスナは大輪のような笑顔を花開かせ、晴澄の胸を小突いた。
心臓の錠が、また少し、揺れ動いた。
飛鳥が満面の笑みで両手を広げてみせたのは翌朝のこと。晴澄に抱きつかんばかりの勢いだったので、さりげなく躱しておく。
「いやあ、こっちがドキドキしたぜ。旅行中にプロポーズを済ませてあとは返事待ち、ってことだったからさ」
「……誰の妄想ですか?」
恐ろしく事実が歪められている。情報源は聞くまでもない。
顔を強張らせる晴澄に構わず、飛鳥は鼻歌混じりに肩を揺らしていた。
夜勤明けの昂揚も手伝っているのかもしれないが、まるで自分のことのように嬉しそうだ。家族ならそういうものだと飛鳥は言うのかもしれないが、晴澄の中から違和感と罪悪感が消えることはない。だが無理に消さなくてもいい、と考えるようにした。
「式とか挙げねえの? 最近は対応してくれるとこ増えてんだろ?」
話が飛躍している。やはり駄目かもしれない。
「晴澄さん結婚するんですか!?」
タイミング悪く事務所に入ってきた平坂が素っ頓狂な声をあげた。手にしていたコーヒーを床に落とさなかったのは、彼なりの成長だ。
「そっか……急に社長が帰ってきたから何でかなあと思ってたんですよ。そういうことか……!」
「違います。飛鳥さんも、勝手に話を広げないで──」
「ハール。調子はどうだ」
「……」
無駄に目をキラキラさせる飛鳥、露骨に嫌そうな表情を作る平坂。
人間のものではない華やかな気配は今日もうるさく、背中越しに感じただけなのに視界が眩しい。
「会社に来ていいとはまだ言ってないだろう……」
「おまえ一生言わないだろう、そんなこと」
ヴェスナは大輪のような笑顔を花開かせ、晴澄の胸を小突いた。
心臓の錠が、また少し、揺れ動いた。
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