33 / 36
小話
葬儀屋のメリークリスマス
しおりを挟む
「クイズタイム。花屋は花屋でもクリスマスに忙しくない花屋ってなーんだ」
「御社」
「正解」
花屋自身が出題している時点でクイズになっていないのではないだろうか。
とはいえ橘月の突拍子もない言動には慣れている。まだ物言いたげな顔をしているので、晴澄は雑談に付き合ってやることにした。
「クリスマスが理由じゃないだけで、サンズも冬場は繁忙期だろう」
冬の寒さは死に直結する。晴澄も身をもって知っていることである。
死者が増えるために葬儀屋は東奔西走し、供花を専門としている花屋も同様に走り回らなければならない季節なのだ。けっして忙しくないわけではない。
「そうは言うけどさ、クリスマスだぜ。世間は真っ赤に浮かれてるっていうのに、俺らは白黒白黒たまにブルー。お前ポインセチア生けたりリース作ったりしたいって思ったことないわけ?」
「ない」
「うん、ないわな。これは聞いた俺がバカ」
鼻白む橘月。しかし本題はここからのようだ。
「まあ、というわけでよ。準備してみました!」
声音と顔をぱっと明るくして、何かが入った化粧箱を掲げてみせる。
「サンズフラワー新作、百合とポインセチアの紅白お供えリース。クリスマスシーズンのお見送りにいかがですか、錠野さん」
普段の仕事中にはなかなかお目にかかれない、華やかなリースだった。立派なポインセチアと南天の赤色がいかにもクリスマスらしい雰囲気を演出しており、白百合が持つ厳粛さを見事に打ち消している。
つまるところ、お供えらしさはまったくない。
大体、盆と正月と葬式が一緒に来ても嬉しくないように、クリスマスもまた、訃報との相性が悪いイベントである。長い葬儀屋人生の中で、葬家からクリスマスらしさを求められたことはなかった。
「このためにポインセチア入荷したのか?」
「いや、ウェディングの担当に分けてもらった。あっちではわりかし使うからな」
「そうか。葬儀屋ではいらないと思う」
晴澄は正直に答えた。大仰に肩を落としてみせる橘月だったが、彼も本気で営業に来ていたわけではない。
いつもの気怠げな表情に戻ると、蓋を被せた箱を差し出してくる。
「うん、だよな。じゃあ個人的なクリスマスプレゼントとして渡しとくわ」
「いらん」
「お前にはやらん、ヴェスナさんにだよ。リースとしては良い出来だろ?」
「……」
だから、何度言えば覚えてくれるのか。
晴澄宛だろうとヴェスナ宛だろうと、結局うちの荷物になって困るだけなのだ。
「クリスマスプレゼント?」
帰宅後、渋々ヴェスナに箱を渡せば、意外にも弾んだ声が返ってきた。
「おまえにそんな概念があるとはな。どうせクリスマスの予定なんて通夜と葬儀と法要しかないくせに」
「……橘月からだ」
「言われんでもわかる。ふん、やはり腕は悪くないのだな」
派手なクリスマスリースは確かに、葬儀屋の殺風景な事務所にあるよりもヴェスナの手元にあったほうが見栄えはする。我が家の玄関がふさわしいかは難しいところだ。
ヴェスナはしばらくリースをもてあそんだあと、冠に見立てるようにして、晴澄の頭の上にのせた。
「気に入った」
晴澄に動く隙を与えず、唇が迫った。
あたたかな吐息、やわらかい接触。
珍しくついばむだけで口づけを終わらせると、彼は再びリースを自分の膝に下ろし、リースの葉の部分を指し示す。
「ヤドリギだ。クリスマスに愛しあう口実を作るための植物だろう」
そこまで見ていなかった。というよりヤドリギは供花に使われないため、見てもピンと来なかった。
しかし、ヴェスナの言わんとするところはわかる。
ヤドリギの下でキスをすれば祝福を得られるという、クリスマスの伝説。
リースを無理矢理かぶせるやり方は確実に異端だと思うが、それでこの男はニヤニヤしているらしい。晴澄は胸焼けがする。
「サンズに返品してくる」
「使用済みだぞ、遠慮してやれ。おとなしく永遠の愛を誓うがいい」
「本当にやめてくれ……」
余計なことをしてくれた。橘月にはあとで苦情のメッセージを送ってやろう。
やはり自分たちがクリスマスを意識しても、いいことなんてひとつもないのだ。
「御社」
「正解」
花屋自身が出題している時点でクイズになっていないのではないだろうか。
とはいえ橘月の突拍子もない言動には慣れている。まだ物言いたげな顔をしているので、晴澄は雑談に付き合ってやることにした。
「クリスマスが理由じゃないだけで、サンズも冬場は繁忙期だろう」
冬の寒さは死に直結する。晴澄も身をもって知っていることである。
死者が増えるために葬儀屋は東奔西走し、供花を専門としている花屋も同様に走り回らなければならない季節なのだ。けっして忙しくないわけではない。
「そうは言うけどさ、クリスマスだぜ。世間は真っ赤に浮かれてるっていうのに、俺らは白黒白黒たまにブルー。お前ポインセチア生けたりリース作ったりしたいって思ったことないわけ?」
「ない」
「うん、ないわな。これは聞いた俺がバカ」
鼻白む橘月。しかし本題はここからのようだ。
「まあ、というわけでよ。準備してみました!」
声音と顔をぱっと明るくして、何かが入った化粧箱を掲げてみせる。
「サンズフラワー新作、百合とポインセチアの紅白お供えリース。クリスマスシーズンのお見送りにいかがですか、錠野さん」
普段の仕事中にはなかなかお目にかかれない、華やかなリースだった。立派なポインセチアと南天の赤色がいかにもクリスマスらしい雰囲気を演出しており、白百合が持つ厳粛さを見事に打ち消している。
つまるところ、お供えらしさはまったくない。
大体、盆と正月と葬式が一緒に来ても嬉しくないように、クリスマスもまた、訃報との相性が悪いイベントである。長い葬儀屋人生の中で、葬家からクリスマスらしさを求められたことはなかった。
「このためにポインセチア入荷したのか?」
「いや、ウェディングの担当に分けてもらった。あっちではわりかし使うからな」
「そうか。葬儀屋ではいらないと思う」
晴澄は正直に答えた。大仰に肩を落としてみせる橘月だったが、彼も本気で営業に来ていたわけではない。
いつもの気怠げな表情に戻ると、蓋を被せた箱を差し出してくる。
「うん、だよな。じゃあ個人的なクリスマスプレゼントとして渡しとくわ」
「いらん」
「お前にはやらん、ヴェスナさんにだよ。リースとしては良い出来だろ?」
「……」
だから、何度言えば覚えてくれるのか。
晴澄宛だろうとヴェスナ宛だろうと、結局うちの荷物になって困るだけなのだ。
「クリスマスプレゼント?」
帰宅後、渋々ヴェスナに箱を渡せば、意外にも弾んだ声が返ってきた。
「おまえにそんな概念があるとはな。どうせクリスマスの予定なんて通夜と葬儀と法要しかないくせに」
「……橘月からだ」
「言われんでもわかる。ふん、やはり腕は悪くないのだな」
派手なクリスマスリースは確かに、葬儀屋の殺風景な事務所にあるよりもヴェスナの手元にあったほうが見栄えはする。我が家の玄関がふさわしいかは難しいところだ。
ヴェスナはしばらくリースをもてあそんだあと、冠に見立てるようにして、晴澄の頭の上にのせた。
「気に入った」
晴澄に動く隙を与えず、唇が迫った。
あたたかな吐息、やわらかい接触。
珍しくついばむだけで口づけを終わらせると、彼は再びリースを自分の膝に下ろし、リースの葉の部分を指し示す。
「ヤドリギだ。クリスマスに愛しあう口実を作るための植物だろう」
そこまで見ていなかった。というよりヤドリギは供花に使われないため、見てもピンと来なかった。
しかし、ヴェスナの言わんとするところはわかる。
ヤドリギの下でキスをすれば祝福を得られるという、クリスマスの伝説。
リースを無理矢理かぶせるやり方は確実に異端だと思うが、それでこの男はニヤニヤしているらしい。晴澄は胸焼けがする。
「サンズに返品してくる」
「使用済みだぞ、遠慮してやれ。おとなしく永遠の愛を誓うがいい」
「本当にやめてくれ……」
余計なことをしてくれた。橘月にはあとで苦情のメッセージを送ってやろう。
やはり自分たちがクリスマスを意識しても、いいことなんてひとつもないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
忍ぶれど… 兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人
志生帆 海
BL
忍ぶれど…(翠・流編 完全版)
兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人
あらすじ
以前投稿した『忍ぶれど』と『色は匂へど』を1本にまとめ『完全版』として、加筆しながら再連載していきます。(旧バージョンの『忍ぶれど』と『色は匂へど』は掲載を終了しています)
****
俺には二つ年上の兄がいる。
実の兄なのに、憧れを通り越した愛を秘かに抱いている。
俺だけの兄だ。
どこにも誰にもやりたくなかったのに
どうして行ってしまうんだ?
明日から更に報われない切なる想いを抱いて、生きていく。
一体いつまで待てばいいのか…
「俺の翠」
そう呼べる日が果たして来るのだろうか。
****
しっとりと実の兄弟のもどかしい恋心を描いています。
幼少期から始まるので、かなり焦れったい展開です。
※『重なる月』https://www.alphapolis.co.jp/novel/492454226/179205590のスピンオフ小説になります。
こちらは『重なる月』の攻、張矢丈の兄達の物語になります。
単独でも読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる