おちおち冥福も祈れない

ヒルミチ ヒナカ

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小話

葬儀屋のメリークリスマス

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「クイズタイム。花屋は花屋でもクリスマスに忙しくない花屋ってなーんだ」
「御社」
「正解」

 花屋自身が出題している時点でクイズになっていないのではないだろうか。
 とはいえ橘月たつきの突拍子もない言動には慣れている。まだ物言いたげな顔をしているので、晴澄はるすみは雑談に付き合ってやることにした。

「クリスマスが理由じゃないだけで、サンズも冬場は繁忙期だろう」

 冬の寒さは死に直結する。晴澄も身をもって知っていることである。
 死者が増えるために葬儀屋は東奔西走し、供花を専門としている花屋も同様に走り回らなければならない季節なのだ。けっして忙しくないわけではない。

「そうは言うけどさ、クリスマスだぜ。世間は真っ赤に浮かれてるっていうのに、俺らは白黒白黒たまにブルー。お前ポインセチア生けたりリース作ったりしたいって思ったことないわけ?」
「ない」
「うん、ないわな。これは聞いた俺がバカ」

 鼻白む橘月。しかし本題はここからのようだ。

「まあ、というわけでよ。準備してみました!」

 声音と顔をぱっと明るくして、何かが入った化粧箱を掲げてみせる。

「サンズフラワー新作、百合とポインセチアの紅白お供えリース。クリスマスシーズンのお見送りにいかがですか、錠野じょうのさん」

 普段の仕事中にはなかなかお目にかかれない、華やかなリースだった。立派なポインセチアと南天の赤色がいかにもクリスマスらしい雰囲気を演出しており、白百合が持つ厳粛さを見事に打ち消している。
 つまるところ、お供えらしさはまったくない。

 大体、盆と正月と葬式が一緒に来ても嬉しくないように、クリスマスもまた、訃報との相性が悪いイベントである。長い葬儀屋人生の中で、葬家そうけからクリスマスらしさを求められたことはなかった。

「このためにポインセチア入荷したのか?」
「いや、ウェディングの担当に分けてもらった。あっちではわりかし使うからな」
「そうか。葬儀屋こっちではいらないと思う」

 晴澄は正直に答えた。大仰に肩を落としてみせる橘月だったが、彼も本気で営業に来ていたわけではない。
 いつもの気怠げな表情に戻ると、蓋を被せた箱を差し出してくる。

「うん、だよな。じゃあ個人的なクリスマスプレゼントとして渡しとくわ」
「いらん」
「お前にはやらん、ヴェスナさんにだよ。リースとしては良い出来だろ?」
「……」

 だから、何度言えば覚えてくれるのか。

 晴澄宛だろうとヴェスナ宛だろうと、結局うちの荷物になって困るだけなのだ。

「クリスマスプレゼント?」

 帰宅後、渋々ヴェスナに箱を渡せば、意外にも弾んだ声が返ってきた。

「おまえにそんな概念があるとはな。どうせクリスマスの予定なんて通夜と葬儀と法要しかないくせに」
「……橘月からだ」
「言われんでもわかる。ふん、やはり腕は悪くないのだな」

 派手なクリスマスリースは確かに、葬儀屋の殺風景な事務所にあるよりもヴェスナの手元にあったほうが見栄えはする。我が家の玄関がふさわしいかは難しいところだ。
 ヴェスナはしばらくリースをもてあそんだあと、冠に見立てるようにして、晴澄の頭の上にのせた。

「気に入った」

 晴澄に動く隙を与えず、唇が迫った。
 あたたかな吐息、やわらかい接触。
 珍しくついばむだけで口づけを終わらせると、彼は再びリースを自分の膝に下ろし、リースの葉の部分を指し示す。

「ヤドリギだ。クリスマスに愛しあう口実を作るための植物だろう」

 そこまで見ていなかった。というよりヤドリギは供花に使われないため、見てもピンと来なかった。
 しかし、ヴェスナの言わんとするところはわかる。

 ヤドリギの下でキスをすれば祝福を得られるという、クリスマスの伝説。

 リースを無理矢理かぶせるやり方は確実に異端だと思うが、それでこの男はニヤニヤしているらしい。晴澄は胸焼けがする。

「サンズに返品してくる」
「使用済みだぞ、遠慮してやれ。おとなしく永遠の愛を誓うがいい」
「本当にやめてくれ……」

 余計なことをしてくれた。橘月にはあとで苦情のメッセージを送ってやろう。

 やはり自分たちがクリスマスを意識しても、いいことなんてひとつもないのだ。
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