灰かぶり姫と月の魔法使い

星 佑紀

文字の大きさ
16 / 31
第弐譚

0016:父(?)との再会

しおりを挟む
「ふが……んむ?(口を塞がれて)フゴゴゴ‼」


「しー! 灰かぶり姫、静かに!(ヒソヒソ声)」



 皆さん、こんばんは? どうも、ツクヨミさんにお姫様抱っこをされた状態で、口を塞がれている灰かぶりです。


 ――何がどうなっているのですか⁉


 心の中で私は呟きました。……実は、マーズ殿下の話を聞いてからの記憶が一切無いのです。


 辺りは暗闇でここが何処かはわかりません。



「もうすぐ着くからそれまでじっとしててね!(ヒソヒソ声)」


「は、はい‼(小声)」



 頭にはてなマークを浮かべながら、私はツクヨミさんに運ばれていくのでした。



 ◇  ◇  ◇



 ツクヨミさんは、とある場所に到着すると、付近の壁をくまなく調べ始めました。



「……ここだ。(凝視)」



 ツクヨミさんは、ぽつりと呟くと、ある壁の一点に左手を添えて、囁くように言いました。



「……山は嵐、月に光、血は銀へ。」



 その途端、壁だったものから、人一人入れるくらいの穴がぽっかりと現れたのです!



「……入れ。」


 穴の奥から声がしました。おそらく、マーズ殿下の声だと思います。


 ツクヨミさんは、一つ頷き、私をギュッと強く抱きしめて、不思議な穴の中へと入って行くのでした。



 ◇  ◇  ◇



「……灰かぶり姫、もう大丈夫だよ。」



 かなり深い場所まで入ったところで、ツクヨミさんは私に言いました。



「……訳あってまだ降ろせないけれど、ここまできたらひと安心だ。」


「そ、そうですか。……ツクヨミさん、運んでくださってありがとうございます。」


「えへへ、どういたしまして。マーズ殿下とお師匠様が待ってるよー。」



 しばらくして、光が差している所を遠くから確認することができました。ツクヨミさんは、元々速い足取りをより一層早めます。



 そして私たちは、光が降り注ぐやや大きく開けた広場にたどり着いたのです。



「二人とも、無事であったか。」



 広場では、床に腰掛けたマーズ殿下が私たちのことを出迎えてくださいました。



「殿下、なんとかここまで辿り着くことができました。……サポートしてくださって、ありがとうございます。」


「気にするな、ツクヨミ。……それよりも、灰かぶり姫をこちらへ。」



 マーズ殿下は私に手招きをして、隣に横たわっている少女(?)へ目を向けました。



「灰かぶり姫、……今、殿下の横で眠っているお人が、僕達のお師匠様だよ。」



 私を地面に下ろしたツクヨミさんは、少女(?)の方へと促します。


 言われた通りに私は少女(?)の傍まで近寄って、膝を付き、彼女の顔を覗き込みました。



 その顔は――――。



 ――幼い頃、私の剣術の稽古をつけてくれていた、お兄ちゃんの顔そのものでした。



「お兄ちゃん⁉」



 私は、なんとか、目を覚ましてほしくて、お兄ちゃんの身体を揺すりまくります。……しかしお兄ちゃんは、一切反応を示さずびくともしません。


 美しい、まるで蝋人形のような、綺麗に整えられた顔でした。


 ――一筋の涙が私の左目から流れ落ちます。


 走馬灯のように、お兄ちゃんとの思い出が脳内で再生されました。


 ――私がお兄ちゃんだと思っていた人は、実の父でした。


 初めて知った真実と、この現実が衝撃的すぎて、今の私にはこの現状が受け止めきれません。


 ――私の心の中に、があらわれた瞬間でした。



「…………赦さない。私のお兄ちゃん、いや、父をこんな目に合わせたを、私は赦しません。」



 ツーーと頬をつたう涙を袖でぐしゃぐしゃに拭き、私は立ち上がりました。


 ――お兄ちゃん、いや……父は言っていた。



『ルナ、を恨むな。』


『……どうしてなの? お兄ちゃん?』


『人を恨んでも、あんまし良いこと無いからな。』



 幼い私の頭に手を乗せて、お兄ちゃんは遠くをボーっと眺めていました。



『理由は生きていれば、いずれ分かる。いいな、ルナ。人を恨むんじゃなくてだな、……。』



 ――『運命を恨め』


 ――私は、の思い通りになんか、絶対になりません。


 の想いを受け継いで、今すべきことを一生懸命努めるのです‼


 ――灰かぶり姫の心に、小さなほのおが点いた瞬間だった。――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...