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第六章 デートはホテルで

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今日もご機嫌に、零士さんは私の作った料理を食べている。

「俺がいないあいだになにか……あったよな」

右頬を歪め、ニヤリと零士さんが笑う。

「……零士さんは意地悪です」

昨晩のあれは十二分に反省したし、もうすでに葬り去りたい黒歴史なので触れないでもらいたい。

「わるい、わるい。
他にはなかったか?」

「ないですよ。
あ、零士さんの衣装の仮縫いが終わったので、時間があるときに着てみてほしいんですが」

「できたのか!」

ぱーっと零士さんの顔が輝き、苦笑いしてしまう。

「仮縫い、なのでまだできあがりではないですよ」

「それでも楽しみだ」

零士さんが喜んでくれるのが嬉しい。
仮縫い衣装を見ても同じ反応だったらいいな。

「あ、そうだ。
古手川さんがお店を手伝ってくれないかって言われたんです、が……」

言葉は尻すぼみになって消えていく。
それほどまでに零士さんは冷たい目で私を見ていた。

「ダメだ」

すべて言い終えないうちに、却下された。

「なんでですか?
昨日、古手川さんと……」

「それとこれとは別問題だ」

かぶせ気味に零士さんが否定する。
しかし別問題と言われても、それが原因としか思えない。

「理由を教えてください。
じゃないと納得できません」

「とにかくダメだ!」

大きな声を出し、零士さんがテーブルを叩く。
おかげで身体が大きく震えたが、これくらいで私が怯むとか思わないでもらいたい。

「古手川さんとの仲を疑っているんですか?」

「違う」

否定しようとそれしか考えられない。

「私は浮気なんて絶対にしません」

「浮気なんて疑っていない」

零士さんはムッとした顔をしている。

「ならなんで!」

「とにかくダメと言ったらダメだ!」

理由も言わずダメとだけ繰り返され、私の中でなにかがブチンと切れた。

「もういいです!」

テーブルに箸を叩きつけて立ち上がる。
そのまま、自分の部屋に逃げ込んだ。

「清華。
出てこい、清華!」

零士さんがドアを叩くが、鍵をかけて無視する。
私のやりたいことはなんでも実現させてやると言っていた。
でもなんでこれはダメなの?
理由さえちゃんと聞かせてくれれば、私だって納得する。
でもなにも言わずに言うことを聞かせようだなんて、絶対に認めない。

「仮縫い、終わったのにな……」

トルソーにかかっている衣装を見てため息が漏れる。
これを着た零士さんが見てみたかった。
喜んでほしかった。
なのに、なんで喧嘩なんてしているんだろう?
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