子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第2章 極悪上司の事情

5.それぞれの家庭の事情

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次の日、京塚主任は普通に出勤してきた。

「その。
娘さん、もういいんですか?」

「ん?
ああ。
朝には熱も下がって、保育園に行くんだってうるさくてさ。
今日は誕生会があるから、どうしても行きたいんだろ」

今朝の娘さんを思いだしているのか、ふふっと小さく京塚主任が笑う。
そういうのはとても、よきパパっぽい。

「なんかあったらすぐ連絡もらえるように頼んできたから、もしかしたらまた早退するかもしれん。
そのときはわるいな」

なぜか、京塚主任からあたまを下げられた。
彼はなにも悪くないのに。

「いえ。
娘さんのパパは京塚主任ひとりなんで」

「ありがとう」

ふっ、と嬉しそうに京塚主任の口もとが緩む。

……だーかーらー。
いつも、「殺すぞ、ごらぁっ!?」って顔しているのに、不意にそういう顔を見せるのは反則です。
好きだって勘違いしそうになるので。

今日もお昼は、京塚主任とご一緒させてもらった。

「わるいな、昨日は。
ひとりにさせて」

また彼が、私に詫びてくる。

「いえ。
もう、少しくらい、任せてもらっても大丈夫ですから」

強がってみせたけど、本当は昨日、どうしてもわからないことが出てきてパニクってたけど。
それでもいまの私は誰かに訊く、ってできるし、それでなんとか解決できた。

「頼もしいな」

からかうように京塚主任の右の口端が持ち上がる。
どうも、昨日のことは見抜かれている気がしてならない。

「オマエには先に断っておかないといけなかったが、これからも娘のことでたびたび、早退したり休んだりってことがあると思う。
迷惑をかけると思うが、よろしく頼む」

真摯に、彼からあたまを下げられた。
彼が悪いわけじゃないのに。

「えっ、だって仕方ないじゃないですか。
京塚主任はパパなんですから。
仕事より、娘さんが大事なのは当たり前です」

「星谷は優しいんだな」

京塚主任は笑っているけれど、そのせいでいやな思いでもしたのかな……?

「でも、保育園の送り迎え、いつもパパってちょっと珍しくないですか」

いまどき、それは母親の役目、なんていわない。
それにもし、私が結婚したとして、旦那さんがしてくれるのは嬉しいし。
でも行きも帰りも旦那さんの方、ってちょっと奥さん、京塚主任に頼りすぎじゃない?
いや、それぞれの家庭にそれぞれの事情があるんだろうけど。

「まあな。
俺がするしかないし」

「奥さん、お仕事忙しいんですか?」

「……。
まあ、そんなとこ」

どうでもよさそうに返事をしながら、今日も京塚主任は冷食満載のお弁当を食べている。

「京塚主任って本当に、奥様を愛されているんですね」

仕事にかまけてお弁当が手抜きだとか、子供のことを任せっきりだとか、普通の旦那さんならキレて喧嘩になりそう。
でも京塚主任は当たり前にやっている。

「……まあな」

「いいなー、愛妻家の旦那様。
私も京塚主任みたいな旦那様が欲しいです!」

「まあ、頑張れ」

すっかり夢みる乙女モードに入っていた私は、知らなかったのだ。
彼の傷を、ガンガン抉っていることに。

午後からも普通に仕事をしていたら、外回りから帰ってきた西山さんが私の席へ来た。

「星谷さん、お疲れ」

「お疲れ様です」

手を止めて彼を見上げる。
周りをきょろきょろと見渡した彼は、小さなレジ袋を出した。

「これ。
コンビニでトイレ借りる代わりに買ったんだけど。
よかったら食べて」

両手で受け取ったその中には、いま話題のチーズケーキが入っている。

「え、いいんですか」

「いいの、いいの。
じゃ」

小さく手を上げて西山さんは去ろうとしたものの。

「にーしーやーまー」

「ひぃっ」

地の底から響いてくるような京塚主任の声で、その場に固まった。

「また日付間違ってんぞ、また!
そんな気を回す暇があるなら、完璧なオーダー票作って俺らの苦労を減らしてくれないか?」

「ス、スミマセン!」

あたまを下げたまま、猛スピードで西山さんが後ずさっていく。
いい人ではあるけれど、おっちょこちょいなのが玉に瑕、なんだよね……。
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