愛している、だから殺した。

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第一章 あなたを殺してもよろしいでしょうか

1-2

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奥さんと歩く姿を見てから翌々日、飯田はいつものように愛未の部屋へやってきた。

「あー、愛未の部屋は落ち着くな。
アイツは全然、気が利かないし」

愛未に作らせたつまみを食べながら、飯田はのんきにビールを飲んでいる。
それを見ていたら、だんだんと腹が立ってきた。
気が利かないと言いながら、彼が奥さんに向けていた眼差しはとても愛おしそうだった。
自分に向けていたあれはいったい、なんだったんだろう。

「愛未」

ベッドに座り、飯田が自分を呼ぶ。
彼は優しく微笑んでいたが、愛未にはそれが作り物めいて見えた。

「……嘘、なんですよね」

「は?」

自分としては勇気を振り絞ったが、その声はみっともないくらいに震えていた。
予想外の言葉に、笑顔のまま飯田が固まる。

「私、見たんです。
一昨日、飯田課長が奥さんと一緒に歩いているの」

顔を上げると、彼と目があった。
一気に飯田が、不機嫌になっていく。

「だから?」

面倒くさそうにため息をつき、飯田は指先で耳をほじった。
それで急速に、気持ちが冷めていく。
心のどこかでまだ、愛しているのは愛未であれは演技だとか言ってくれるんじゃないかと期待していた。
しかし現実は言い訳すらなく、開き直られた。

「それがお前に、なんか関係あるのか」

下からじろりと飯田に睨み上げられ、身が竦む。
けれどここで怯んではなにも変わらない。
俯いて小さく深呼吸をし、改めて顔を上げて真っ直ぐに飯田を見る。

「別れて、ください」

「妻と別れろというのか?」

はぁんと小馬鹿にしたように彼が笑い、びくんと肩が跳ねた。
それでも黙って、激しく首を横に振る。

「私と、別れてください。
もう、あなたに抱かれるのは嫌、です」

「はぁ?」

不快そうに飯田の語尾が上がる。
それでますます愛未は身体を小さく縮こまらせた。

「お前が俺に逆らうとか、許されると思ってるのか?」

腹に響く声で言われ、耳を塞いでその場に座り込みたくなったが、かろうじて耐える。

「お前は俺の言うとおりにしてればいいんだよ」

「……イヤ。
ヤメテ」

飯田が愛未の腕を引っ張り、無理矢理ベッドに上がらせる。
嫌がる愛未の声はか細く、彼女自身にも届かない。

「お前は一生、俺の奴隷だってこと、この身体にわからせないとな」

醜く顔を歪める彼を、愛未は怯えた目で見ていた。

その日はいつも以上に、飯田のいいようにされた。
嫌だ、やめてくれと訴えても、彼は聞く耳を持たない。
悲鳴は、うるさいと口に下着を詰められて塞がれた。
そのうち抵抗しても無駄だと悟り、ぼろぼろと涙を零しながら、彼のなすがままになる。
飯田が満足し、行為をやめる頃には――愛未の心は死んでいた。

「また来る」

死んだようにベッドに横たわったままの愛未を無視して、飯田は帰っていった。
……あれが本当の飯田の姿。
いや、薄々は気づいていたのだ。
優しいのは自分を騙すため。
飯田の都合がいいように愛未を扱うために演じているだけ。
わかっていたが愛未は、ずっと気づかないフリをしていた。
飯田が自分の元から去り、ひとりになってしまったらどうしていいのかわからない。
それでも、さすがに今日の飯田の態度で現実を見た。

「……どうしたらいいのか、わかんない」

ベッドの中で肩を抱き、愛未は丸くなった。
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