愛している、だから殺した。

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第二章 野間さんが好きです

2-7

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まだ夕方と言える時間に野間は帰ってきた。

「ただいま帰りました、と」

「えっ、あっ!」

野間の手が、愛未の手から携帯を奪っていく。

「もしかして、今日はずっとこうやっていたのですか」

「……はい」

充電ケーブルに繋がったままの携帯はやけどしそうなほど熱く、言い訳はできない。

「これは没収します」

「えっ、でも!」

充電ケーブルを抜き、野間が愛未の携帯を自身のスーツのポケットへしまうので抗議の声を上げる。

「ないとなにもできない……!」

「電話はできますよ。
家電いえでん、ありますから」

野間が指さした先にはその言葉どおり、ファックス複合の電話が置いてあった。

「でも、ずっとここにお世話になるわけでは……!」

野間が帰ってきたら、出ていこうと思っていた。
飯田の気配のあるあの部屋には帰れないが、野間の部屋に居続けるわけにもいかない。

「いいんですよ、いつまでもここにいて」

レンズの向こうから愛未を見つめる野間の瞳は、とても真剣だ。
その瞳にこれ以上、なにも言えなくなった。

「……じゃあ。
落ち着くまで、は」

今はとにかく疲弊が酷い。
少しのあいだ野間の言葉に甘えてゆっくりし、落ち着いてから住むところを決めて出ていけばいい。
それがいい考えだと愛未は思った。

「はい。
僕はずっと、愛未さんにここにいてほしいですが」

悪戯っぽく野間が笑う。
それでなんか、気が抜けた。

カットソーにチノパンといったラフなスタイルに着替えてきた野間が、ソファーにいる愛未の隣に座る。

「その。
飯田課長を殺してくださり、ありがとうございました」

昨晩は動揺が酷くてお礼が言えなかったので、改めて野間に頭を下げた。

「いいんですよ。
僕は愛未さんを守ると約束したじゃないですか」

それはそうだけれど、人ひとり殺すとなるとわけが違う。
発覚すれば当然罪に問われるし、弁護士となれば社会的にも居場所がなくなるだろう。
それにバレなかったとしても、心理的負担は相当なはずだ。

「でも……でも」

その先は続けられなくて俯く。

「そんなに暗い顔、しないでください。
愛未さんにそんな顔されると、僕も悲しくなります」

本当に悲しそうな声が聞こえ、顔を上げた。
野間は困ったように笑って愛未を見ている。

「すみま、せん」

もしかして怒鳴られるのかと、再び頭を下げてそのときを待つ。
こうやって飯田にはいつも、怒鳴られていた。

「謝らなくていいんですよ」

野間の腕が伸びてきて、愛未を包み込む。

「もう、嵐は過ぎました。
愛未さんを苦しめるものはなにもないんです。
これからはその傷ついた心を癒やして、笑えるようにしていきましょう」

とん、とん、と背中を叩く野間の手は優しい。
つい、その優しさに縋りそうになる。

「でも、野間さん、は」

自分のために罪を犯した。
それが愛未を、苦しめる。

「あれは僕の意思で、僕がやったことです。
愛未さんには関係ない。
きっと、頼まれなくても僕は、アイツを殺していました。
だから気にしなくていいんです」

ぎゅっと、野間の腕に力が入った。
それが、嬉しく感じているのはなんでだろう。

「苦しく、なったら言ってください。
私になにが、できるかわかりませんが」

「愛未さんは優しいですね」

愛未の顔を見て野間がふふっと笑う。
それで重荷が、少し軽くなった気がした。
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