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第二章 野間さんが好きです
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その後。
しばらくは警察がくるのではないかとびくびくしていたが、なにもなかった。
ニュースや噂を調べようにも携帯は野間の没収され、テレビはリモコンを奪われている。
野間は絶対にバレないから大丈夫だと自信満々で、それを信じようと決めた。
会社は体調不良を理由に休んだまま辞めた。
手続きはすべて野間がしてくれたので、愛未は一切会社に行っていない。
なので会社で、飯田の失踪がどんなふうに話されているのかなどわからなかった。
知りたい気持ちはあったが、野間が知らなくていいと言うので気にしないことにする。
それでも。
「奥さんに賠償をしたい、ですか?」
「はい」
コーヒーを淹れていた野間が振り返り、不思議そうに愛未の希望を繰り返す。
愛未はずるずると野間の部屋で生活していた。
「その、多くはできませんが、少しでもお金を……」
飯田の奥さんは妊娠していた。
夫が急にいなくなり、途方に暮れているだろう。
せめて、金銭面だけでも援助できれば。
「愛未さんは優しいですね」
再び調理台へ向かい、野間がカップにコーヒーを注ぐ。
カップをふたつ持った野間と一緒にリビングへと行き、並んでソファーに座った。
「私は優しくなどありません」
「優しいですよ、自分を苦しめた男の妻を、助けたいだとか」
ふふっと小さく笑い、野間がカップを口に運ぶ。
それは莫迦にされているようで、いい気はしなかった。
「……私は莫迦だと思っていますか」
「いいえ。
そういう愛未さんは可愛くて、ますます好きになりました」
愛未の顔を見て、眼鏡の向こうで野間が目尻を下げる。
その愛おしそうな顔に、頬が熱くなっていった。
「で。
奥さんに賠償をしたい、でしたっけ」
「はい」
野間がカップをテーブルの上に置き、愛未も姿勢を正す。
「出産も控えているのに、夫が急にいなくなって困っていると思うんです。
それもこれも、私の都合であの人の夫の命を私が奪ったせいです。
だから」
真っ直ぐにレンズ越しに野間の瞳を見つめる。
しばらく見つめあったあと、彼は愛未の決意に折れたのか、小さくため息をついて口を開いた。
「殺した賠償は、無理ですね……」
それは愛未だってわかっている。
なので黙って首を横に振った。
「不倫の、賠償を」
愛未は飯田が結婚していると知っていながら付き合っていた。
ならば奥さんに慰謝料の支払いが生じるはずだ。
「そうですね……。
確かにそれだと、奥さんに支払う義務が生じます。
しかし奥さんは夫と愛未さんが不倫をしていたなんて知らない」
無言でうん、と頷く。
「あかしてしまってもいいですが、それだとあの男の失踪との関係を疑われる」
「それは……」
野間の言うとおりだ。
愛未と飯田が不倫していたとわかれば、誰もが疑いの目を向けるだろう。
自分は捕まってもいいが、それで野間まで罪に問われるのは避けたい。
「そういうわけで申し訳ないのですが、愛未さんのご希望は叶えてあげることができません。
本当に申し訳ありません」
野間が真摯に愛未へ頭を下げる。
それにううんと頭を振った。
「野間さんが謝ることじゃないので。
こちらこそ無理を言ってすみませんでした」
愛未も野間に、頭を下げ返す。
所詮お金を渡したいなど、愛未の自己満足に過ぎないのだ。
奥さんはお金などよりも、夫を返してほしいはずだ。
「いいんですよ。
僕のほうこそお力になれなくて……って、やめましょうか」
「そうですね」
このままでは謝り合いが続くだけだと気づいたのか野間が笑い、愛未も同意した。
しばらくは警察がくるのではないかとびくびくしていたが、なにもなかった。
ニュースや噂を調べようにも携帯は野間の没収され、テレビはリモコンを奪われている。
野間は絶対にバレないから大丈夫だと自信満々で、それを信じようと決めた。
会社は体調不良を理由に休んだまま辞めた。
手続きはすべて野間がしてくれたので、愛未は一切会社に行っていない。
なので会社で、飯田の失踪がどんなふうに話されているのかなどわからなかった。
知りたい気持ちはあったが、野間が知らなくていいと言うので気にしないことにする。
それでも。
「奥さんに賠償をしたい、ですか?」
「はい」
コーヒーを淹れていた野間が振り返り、不思議そうに愛未の希望を繰り返す。
愛未はずるずると野間の部屋で生活していた。
「その、多くはできませんが、少しでもお金を……」
飯田の奥さんは妊娠していた。
夫が急にいなくなり、途方に暮れているだろう。
せめて、金銭面だけでも援助できれば。
「愛未さんは優しいですね」
再び調理台へ向かい、野間がカップにコーヒーを注ぐ。
カップをふたつ持った野間と一緒にリビングへと行き、並んでソファーに座った。
「私は優しくなどありません」
「優しいですよ、自分を苦しめた男の妻を、助けたいだとか」
ふふっと小さく笑い、野間がカップを口に運ぶ。
それは莫迦にされているようで、いい気はしなかった。
「……私は莫迦だと思っていますか」
「いいえ。
そういう愛未さんは可愛くて、ますます好きになりました」
愛未の顔を見て、眼鏡の向こうで野間が目尻を下げる。
その愛おしそうな顔に、頬が熱くなっていった。
「で。
奥さんに賠償をしたい、でしたっけ」
「はい」
野間がカップをテーブルの上に置き、愛未も姿勢を正す。
「出産も控えているのに、夫が急にいなくなって困っていると思うんです。
それもこれも、私の都合であの人の夫の命を私が奪ったせいです。
だから」
真っ直ぐにレンズ越しに野間の瞳を見つめる。
しばらく見つめあったあと、彼は愛未の決意に折れたのか、小さくため息をついて口を開いた。
「殺した賠償は、無理ですね……」
それは愛未だってわかっている。
なので黙って首を横に振った。
「不倫の、賠償を」
愛未は飯田が結婚していると知っていながら付き合っていた。
ならば奥さんに慰謝料の支払いが生じるはずだ。
「そうですね……。
確かにそれだと、奥さんに支払う義務が生じます。
しかし奥さんは夫と愛未さんが不倫をしていたなんて知らない」
無言でうん、と頷く。
「あかしてしまってもいいですが、それだとあの男の失踪との関係を疑われる」
「それは……」
野間の言うとおりだ。
愛未と飯田が不倫していたとわかれば、誰もが疑いの目を向けるだろう。
自分は捕まってもいいが、それで野間まで罪に問われるのは避けたい。
「そういうわけで申し訳ないのですが、愛未さんのご希望は叶えてあげることができません。
本当に申し訳ありません」
野間が真摯に愛未へ頭を下げる。
それにううんと頭を振った。
「野間さんが謝ることじゃないので。
こちらこそ無理を言ってすみませんでした」
愛未も野間に、頭を下げ返す。
所詮お金を渡したいなど、愛未の自己満足に過ぎないのだ。
奥さんはお金などよりも、夫を返してほしいはずだ。
「いいんですよ。
僕のほうこそお力になれなくて……って、やめましょうか」
「そうですね」
このままでは謝り合いが続くだけだと気づいたのか野間が笑い、愛未も同意した。
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