愛している、だから殺した。

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
26 / 29
第四章 それがあなたの愛だと知っていますから

4-2

しおりを挟む
山添やまぞえさんが、旦那さんがなにもしてくれない、子供の世話も任せっぱなしだって愚痴ってたんですよ。
で、野間さんの旦那さんはなんでもしてくれそうだからいいね、って」

いつもの夕食風景のはずだった。
ふたりで楽しく、その日あったことを報告しながら食べる。
けれど今日の野間は、無表情に見えた。

「真人さん?」

「え?
ああ。
僕は愛未のためならなんだってしますよ」

声をかけると慌てて笑って誤魔化してきたが、どうも様子がおかしい。

「どうか、したんですか」

「なんでもないですよ。
今日も愛未の料理は美味しいなー、って」

野間は笑っているが、どう見ても無理をしている。
それが、愛未の心を波立たせた。

野間が書斎に引っ込んでひとりになり、愛未は大きなため息をついた。
最近の野間はどうもおかしい。
今日のようなことは初めてではない。
このところときどき、そういうときがある。
無表情というか、――感情を隠しているような。
そして、どうかしたのかと聞いてもなんでもないと答えてくれない。
絶対になにかあったに決まっている。
少し考えて、もしかして飯田の死体が見つかって、捜査の手がおよんでいるのでは。
それなら、愛未になにも言わないのはわかる。

いても立ってもいられなくなり、野間の元へ向かう。

「真人さん……?」

そっと覗いた書斎の中では、なにをするでもなく野間がぼーっと座っていた。

「……あ、愛未。
どうか、したんですか」

すぐに愛未に気づき笑って取り繕ってきたが、やはりおかしい。
彼が手招きするので部屋の中に入る。
野間は愛未を、膝の上にのせた。

「もしかして、あの件で警察が……」

レンズ越しに野間の目を見つめる。
その瞳はまるで硝子玉のようで、なんの感情もうかがえない。
それでますます、愛未は不安になっていった。

「それはないですよ。
死体も、その後の隠蔽も完璧です。
バレるなんて絶対にありません」

自信満々に野間が言い切る。
しかし、それ以外の理由など愛未には思いつかなかった。

「じゃあ、他に悩みがあるんですか。
あるなら、話してください。
私じゃなにもできないかもしれませんが、話すだけでも楽になりますから」

「あー……」

じっと愛未に見つめられ、野間は困っている。
そんなに自分は頼りないのかと、悲しくなった。

「……愛未に心配をかけてしまいましたね、すみません。
でもこれは、僕の問題なので」

申し訳なさそうに詫びられ、ますます悲しくなる。

「……そう、ですね。
夫婦といっても所詮、私は他人なので」

野間の腕を振りほどき、膝から飛び降りる。
泣きそうになっているこの顔を、見られたくない。

「待って!」

逃げだそうと足を踏み出したところで、腕を掴んで止められた。

「誓って、僕は愛未を愛しています。
愛しているんです。
愛してる、から……」

次第に野間の声が小さくなり、目が伏せられる。
今にも泣き出しそうなその顔に、胸が激しく痛んだ。

「私も真人さんを愛しています。
決して、どこかに行ったりしません。
それでも、殺したくなったら殺していいんですよ?」

涙を堪え、精一杯笑顔を作る。

「愛未……」

「私、もう寝ますね。
おやすみなさい」

呆然としている野間を残し、書斎から出る。
寝室に行ってドアを閉め、そのままずるずると座り込む。

「真人、さん……」

きっと野間は、愛未を殺したいという自分の欲求と戦っている。
なら、私はそれを見守るしかない。
それに、彼がどんな選択をしようとも、愛未はそれに従うと決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

恋した悪役令嬢は余命一年でした

葉方萌生
恋愛
イーギス国で暮らすハーマス公爵は、出来の良い2歳年下の弟に劣等感を抱きつつ、王位継承者として日々勉学に励んでいる。 そんな彼の元に突如現れたブロンズ色の髪の毛をしたルミ。彼女は隣国で悪役令嬢として名を馳せていたのだが、どうも噂に聞く彼女とは様子が違っていて……!?

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

【完結】恋人代行サービス

山田森湖
恋愛
就職に失敗した彼女が選んだのは、“恋人を演じる”仕事。 元恋人への当てつけで雇われた彼との二ヶ月の契約が、やがて本物の恋に変わっていく――。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

処理中です...