愛している、だから殺した。

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第三章 ふたりで歩む未来

3-2

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「成長した僕は、ある女性と付き合いはじめました。
そのときはまだ、僕は僕自身の心の歪みに気づいていませんでした。
でも、少し経って、こうやって彼女の首に手をかけた日。
さすがにおかしいと思いました」

「うっ」

野間の手に僅かに力が入り、愛未の口から呻き声とも吐息ともつかない音が出る。

「僕は、愛する人間から逃げられるのが怖くて、殺してしまいたくなるのだと悟りました」

「かっ、はぁっ……!」

さらに野間の手に力が入り、潰れた喉が呼吸を妨げる。
どうにか酸素を取り入れようと、浅い呼吸を繰り返した。
心臓がばくばくと速く鼓動し、どくどくとこめかみの血管が脈打つ。
次第に頭が重くなり、意識が遠くなっていった。

「すぐに我に返って手を離したので事なきを得ましたが、彼女とはすぐに別れました」

「ごほっ、げほっ、ごほっ、ごほっ!」

ようやく野間が手を離し、急激に空気が喉に入ってきて咳き込む。
そんな愛未を、野間はなんの感情もない目で見ていた。

「どうして今、愛未は抵抗しなかったんですか」

「それ、はっ」

不思議そうな野間に答えようとするが、荒い呼吸がそれを阻む。
しばらく深呼吸をして呼吸を整えたあと、愛未は改めて口を開いた。

「野間さんになら殺されてもいいと思ったからです。
だってそれは、野間さんの愛なんでしょう?」

精一杯、優しく野間に微笑みかける。
飯田を殺してくれた代わりに、野間に殺されてもいいと思っていた。
それに、野間が好きな人を殺したくなるのは、深い愛情のせいだと知った。
こんなに不器用にしか人を愛せない野間が、愛おしくて仕方ない。

「でも、私は絶対に野間さんの傍からいなくなりません。
どこにも行きません。
野間さんが嫌だって言うまでずっと一緒にいます。
だから、殺さなくても大丈夫ですよ」

右手の小指を出し、無理矢理野間の小指と結ぶ。

「これで約束です。
約束を破ったときは、殺してください」

「愛未……」

レンズの向こうで、みるみる野間の目に涙が溜まっていく。

「こんな僕を、好きになってくれてありがとう」

抱きついてきた野間の声は、鼻声になっていた。

「私は約束、絶対に守りますから」

安心させるように野間の背中をぽんぽんと軽く叩く。
野間は黙って、うん、うん、と頷いた。
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