21 / 29
第三章 ふたりで歩む未来
3-5
しおりを挟む
夕食のあとは野間の淹れてくれたコーヒーを飲みながら、まったりと過ごす。
愛未は一日の中で、この時間が一番好きだ。
「結婚式、挙げなかったじゃないですか」
ちょうどテレビでやっていたドラマの結婚式シーンを観ながら、野間が聞いてくる。
「そうですね」
愛未の両親に結婚を報告した際、式は挙げるべきだと説得はされた。
野間からも家族だけで挙げてはどうかと提案もされた。
それでも愛未は、頑なに断った。
自分の都合で、人ひとりを殺している。
そんな自分が、神の前で愛など誓えるはずがない。
それに皆に祝福されるなど、罪悪感で押し潰されそうだ。
「せめて写真を、撮りませんか」
「だからー」
野間の提案を聞いて、つい顔が険しくなる。
野間の言う写真とはきっと、ウェディングフォトのことだ。
式を挙げている風なんて絶対に無理だし、ウェディングドレスを着ること自体、愛未には抵抗があった。
「違うんです。
ちょっといい服を着て、結婚の記念にふたりだけで写真を撮りませんか」
眼鏡の向こうで目を細め、野間は優しげに愛未を見ている。
籍も入れたし結婚指環も買った。
これで間違いなく野間と夫婦だし、ウェディングイベントを断ったのも自分だ。
わかっているけれど、なにも記念になるものがないのは少し淋しかった。
この案ならば愛未も、抵抗なく受け入れられる。
「それは、とてもいいと思います」
それでも野間の顔を見るのは照れくさく、俯き袖をちょんと摘まんで小さく言う。
「よかった。
じゃあ明日、僕の仕事が終わってから服を買いに行きませんか。
実はもう、写真館は明後日の休みに予約してあるんです」
愛未の顔をのぞき込み、野間は唇に口付けを落とした。
「真人さんはズルいです」
こんなに私を、喜ばせて。
「僕は愛未のためならなんだってするって言いましたよね?」
悪戯っぽく野間が、小さく笑う。
熱を持つ顔を見られたくなくて、愛未は額を野間の胸につけた。
「ズルいけど、格好いいから好きです」
こんな人が旦那様で、本当に幸せだと愛未は心の底から思っていた。
次の休日、ふたりは買った服に身を包み、写真館を訪れていた。
「やっぱり、白のワンピースのほうがよかったんじゃ」
「くどいです」
まだブツブツ言っている野間を、バッサリと切り捨てる。
昨日、服を買いに行ったとき、ウェディングドレスとは言わないからそれに近い白のワンピースはどうかと野間から提案された。
しかし。
『私はもうふたつも罪を犯しているので、真っ黒なんです。
真っ白なドレスなんて着れない』
笑ってそう言う愛未を、野間は悲しそうに見ていた。
罪を犯したといっても、愛未自身が犯したくて犯した罪ではない、不可抗力だったのだと野間はフォローしてくれたが、それでも愛未の決心は変わらなかった。
さすがに結婚記念の写真に黒服はないと思い、最終的に水色のワンピーススーツに落ち着いた。
スタジオで愛未が椅子に座り、その後ろにスーツ姿の野間が立つ。
「これくらいは許してください」
持っていた袋からなにかを出したかと持ったら、野間はそれを愛未の頭にかけた。
「これ……」
自分の頭にかかっているものを困惑気味に見る。
それは、ショート丈のウェディングベールだった。
「僕はやはり、愛未さんの花嫁姿が見たいです。
だからこれくらいは妥協してください」
野間は自分の我が儘だと言っているが、愛未の本当の気持ちを察しているのだと気づいた。
いくら強がっても、愛未にだってウェディングドレスに憧れはあった。
でもそれは自分には許されないと諦めたのだ。
しかし野間はそれに気づき、せめてこれくらいはと気遣ってくれている。
「……ありがとう、真人さん」
胸が熱くなり、みるみる視界が滲んでいく。
慌てて鼻を啜り、それを誤魔化した。
「僕は、別に」
照れくさそうに野間は頬を掻いている。
やはり野間は最高の旦那様だ。
愛未は一日の中で、この時間が一番好きだ。
「結婚式、挙げなかったじゃないですか」
ちょうどテレビでやっていたドラマの結婚式シーンを観ながら、野間が聞いてくる。
「そうですね」
愛未の両親に結婚を報告した際、式は挙げるべきだと説得はされた。
野間からも家族だけで挙げてはどうかと提案もされた。
それでも愛未は、頑なに断った。
自分の都合で、人ひとりを殺している。
そんな自分が、神の前で愛など誓えるはずがない。
それに皆に祝福されるなど、罪悪感で押し潰されそうだ。
「せめて写真を、撮りませんか」
「だからー」
野間の提案を聞いて、つい顔が険しくなる。
野間の言う写真とはきっと、ウェディングフォトのことだ。
式を挙げている風なんて絶対に無理だし、ウェディングドレスを着ること自体、愛未には抵抗があった。
「違うんです。
ちょっといい服を着て、結婚の記念にふたりだけで写真を撮りませんか」
眼鏡の向こうで目を細め、野間は優しげに愛未を見ている。
籍も入れたし結婚指環も買った。
これで間違いなく野間と夫婦だし、ウェディングイベントを断ったのも自分だ。
わかっているけれど、なにも記念になるものがないのは少し淋しかった。
この案ならば愛未も、抵抗なく受け入れられる。
「それは、とてもいいと思います」
それでも野間の顔を見るのは照れくさく、俯き袖をちょんと摘まんで小さく言う。
「よかった。
じゃあ明日、僕の仕事が終わってから服を買いに行きませんか。
実はもう、写真館は明後日の休みに予約してあるんです」
愛未の顔をのぞき込み、野間は唇に口付けを落とした。
「真人さんはズルいです」
こんなに私を、喜ばせて。
「僕は愛未のためならなんだってするって言いましたよね?」
悪戯っぽく野間が、小さく笑う。
熱を持つ顔を見られたくなくて、愛未は額を野間の胸につけた。
「ズルいけど、格好いいから好きです」
こんな人が旦那様で、本当に幸せだと愛未は心の底から思っていた。
次の休日、ふたりは買った服に身を包み、写真館を訪れていた。
「やっぱり、白のワンピースのほうがよかったんじゃ」
「くどいです」
まだブツブツ言っている野間を、バッサリと切り捨てる。
昨日、服を買いに行ったとき、ウェディングドレスとは言わないからそれに近い白のワンピースはどうかと野間から提案された。
しかし。
『私はもうふたつも罪を犯しているので、真っ黒なんです。
真っ白なドレスなんて着れない』
笑ってそう言う愛未を、野間は悲しそうに見ていた。
罪を犯したといっても、愛未自身が犯したくて犯した罪ではない、不可抗力だったのだと野間はフォローしてくれたが、それでも愛未の決心は変わらなかった。
さすがに結婚記念の写真に黒服はないと思い、最終的に水色のワンピーススーツに落ち着いた。
スタジオで愛未が椅子に座り、その後ろにスーツ姿の野間が立つ。
「これくらいは許してください」
持っていた袋からなにかを出したかと持ったら、野間はそれを愛未の頭にかけた。
「これ……」
自分の頭にかかっているものを困惑気味に見る。
それは、ショート丈のウェディングベールだった。
「僕はやはり、愛未さんの花嫁姿が見たいです。
だからこれくらいは妥協してください」
野間は自分の我が儘だと言っているが、愛未の本当の気持ちを察しているのだと気づいた。
いくら強がっても、愛未にだってウェディングドレスに憧れはあった。
でもそれは自分には許されないと諦めたのだ。
しかし野間はそれに気づき、せめてこれくらいはと気遣ってくれている。
「……ありがとう、真人さん」
胸が熱くなり、みるみる視界が滲んでいく。
慌てて鼻を啜り、それを誤魔化した。
「僕は、別に」
照れくさそうに野間は頬を掻いている。
やはり野間は最高の旦那様だ。
0
あなたにおすすめの小説
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
恋した悪役令嬢は余命一年でした
葉方萌生
恋愛
イーギス国で暮らすハーマス公爵は、出来の良い2歳年下の弟に劣等感を抱きつつ、王位継承者として日々勉学に励んでいる。
そんな彼の元に突如現れたブロンズ色の髪の毛をしたルミ。彼女は隣国で悪役令嬢として名を馳せていたのだが、どうも噂に聞く彼女とは様子が違っていて……!?
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる