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第三章 ふたりで歩む未来
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「すみません、きな粉はどこにありますか」
「はいっ!」
品出ししていたところに声をかけられ、慌てて振り返る。
そこには年配の女性が立っていた。
「ご案内します!」
愛未は彼女を先導し、目的の商品棚へと歩き出した。
就活を派遣とパートにまで広げてすぐに、近くのスーパーで採用された。
飯田から暗いだの陰気くさいだの言われていた自分が接客業なんてできるのか不安はあったが、どうにかやっていけている。
少しでも前向きに、明るく振る舞うように心がけているおかげかもしれない。
「お疲れ様でしたー」
定時になり、夕食の買い物をして帰る。
野間は働いているのだから無理に作らなくていいと言ってくれるが、それでも彼は愛未の手料理が大好物なので、なるべく作るようにしていた。
「ただいま帰りました」
「おかえりな……さい」
見計らったかのように、食事の準備が終わる頃に野間が帰ってくる。
しかしその姿を見て、愛未は困惑した。
「どうしたんですか、これ?」
野間は片手に大きな花束を、もう片方の手には大きな紙袋を下げている。
「んー?
今日は愛未の誕生日ですよね?
ハッピーバースデー、愛未」
「あ、ありがとう……ございます」
喜びよりも驚きのほうが大きく、戸惑ったまま差し出された花束を受け取った。
「愛未、自分の誕生日だというのに、忘れていたでしょう?」
「……まあ」
とりあえず花束をバケツに生け、着替えてきた野間と一緒にごはんを食べる。
今日のメニューがハンバーグだったのはギリギリ誕生日らしく、不幸中の幸いか。
「おかげでサプライズしやすかったですが、……嬉しく、なかったですか」
愛未の反応が微妙だからか、心配そうに野間の顔が曇っていく。
「あ、……いえ。
驚いた、というか」
自分にまだ、誕生日が祝われる未来があるなど知らなかった。
今日の誕生日を忘れていたというよりも、誕生日の存在そのものを忘れていた。
それほどまでに野間と出会う前の愛未は、摩耗していたのだ。
「愛未?」
「あっ、えっ。
ごめんな、さい」
突然愛未が泣き出し、野間がさらに不安げな顔になる。
「その、あの、えっと」
慌てて涙を拭い、この状況を説明しようとするが、自分でもどうして泣いているのかわからない。
きっと、嬉しいのだと思う。
あとはたぶん……今までの自分を哀れんでいる。
「……愛未はいっぱい頑張ったんだから、幸せになっていいんです」
立ってきた野間は、愛未を抱き締めた。
「僕が必ず、幸せにします。
そう、誓ったでしょう?」
野間の決意か、腕に僅かに力が入る。
その苦しさが、嬉しかった。
「……殺す、じゃなくてですか」
もそもそと身体を動かして彼の顔を見上げ、冗談っぽく笑う。
「それは言わないお約束ですよ」
野間も笑い返し、口付けを落としてきた。
どんなプレゼントよりも、それが最高の誕生日プレゼントだと愛未は思った。
「はいっ!」
品出ししていたところに声をかけられ、慌てて振り返る。
そこには年配の女性が立っていた。
「ご案内します!」
愛未は彼女を先導し、目的の商品棚へと歩き出した。
就活を派遣とパートにまで広げてすぐに、近くのスーパーで採用された。
飯田から暗いだの陰気くさいだの言われていた自分が接客業なんてできるのか不安はあったが、どうにかやっていけている。
少しでも前向きに、明るく振る舞うように心がけているおかげかもしれない。
「お疲れ様でしたー」
定時になり、夕食の買い物をして帰る。
野間は働いているのだから無理に作らなくていいと言ってくれるが、それでも彼は愛未の手料理が大好物なので、なるべく作るようにしていた。
「ただいま帰りました」
「おかえりな……さい」
見計らったかのように、食事の準備が終わる頃に野間が帰ってくる。
しかしその姿を見て、愛未は困惑した。
「どうしたんですか、これ?」
野間は片手に大きな花束を、もう片方の手には大きな紙袋を下げている。
「んー?
今日は愛未の誕生日ですよね?
ハッピーバースデー、愛未」
「あ、ありがとう……ございます」
喜びよりも驚きのほうが大きく、戸惑ったまま差し出された花束を受け取った。
「愛未、自分の誕生日だというのに、忘れていたでしょう?」
「……まあ」
とりあえず花束をバケツに生け、着替えてきた野間と一緒にごはんを食べる。
今日のメニューがハンバーグだったのはギリギリ誕生日らしく、不幸中の幸いか。
「おかげでサプライズしやすかったですが、……嬉しく、なかったですか」
愛未の反応が微妙だからか、心配そうに野間の顔が曇っていく。
「あ、……いえ。
驚いた、というか」
自分にまだ、誕生日が祝われる未来があるなど知らなかった。
今日の誕生日を忘れていたというよりも、誕生日の存在そのものを忘れていた。
それほどまでに野間と出会う前の愛未は、摩耗していたのだ。
「愛未?」
「あっ、えっ。
ごめんな、さい」
突然愛未が泣き出し、野間がさらに不安げな顔になる。
「その、あの、えっと」
慌てて涙を拭い、この状況を説明しようとするが、自分でもどうして泣いているのかわからない。
きっと、嬉しいのだと思う。
あとはたぶん……今までの自分を哀れんでいる。
「……愛未はいっぱい頑張ったんだから、幸せになっていいんです」
立ってきた野間は、愛未を抱き締めた。
「僕が必ず、幸せにします。
そう、誓ったでしょう?」
野間の決意か、腕に僅かに力が入る。
その苦しさが、嬉しかった。
「……殺す、じゃなくてですか」
もそもそと身体を動かして彼の顔を見上げ、冗談っぽく笑う。
「それは言わないお約束ですよ」
野間も笑い返し、口付けを落としてきた。
どんなプレゼントよりも、それが最高の誕生日プレゼントだと愛未は思った。
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