愛している、だから殺した。

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第三章 ふたりで歩む未来

3-8

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「それより、どうですか?」

笑いが治まり、ピアスのついた耳を野間に見せる。
愛未の耳朶は控えめに、赤い石で飾られていた。

「とてもいいです」

軽く野間の指先が耳朶に触れて離れる。

「これで、愛未は過去の自分を断ち切りました。
もう、あの男のことは思い出さなくていいんです」

野間の腕がそっと、愛未を包み込む。
いまだにフラッシュバックを起こし、たまに夜中に飛び起きている。
そのたびに野間を心配させて、申し訳ないと思っていた。
けれど野間の言うとおり、もう過去の自分は断ち切ったのだ。
これからは死んだあの男ではなく、野間のことだけを考えて生きていこう。

「真人さん。
素敵な誕生日を、ありがとうございます」

人からこんなふうに祝ってもらう誕生日はもう、数年ぶりだ。
ひさしぶりすぎて、誕生日がなんなのかすら忘れかけていた。

「愛未が喜んでくれたのなら、それでいいです。
来年も再来年も、家族が増えてもこれからずっと、祝っていきましょうね」

「はい」

野間の顔を見上げ、自分から唇を重ねる。
彼は突然の愛未からのキスに、驚いているようだった。

「素敵な誕生日のお返し、です」

それでも真っ赤になっているであろう顔は見られたくなくて、その胸に顔をうずめる。

「ありがとうございます」

わかっているのか、野間は愛未のつむじに口付けを落とした。

「そういえば、真人さんの誕生日っていつなんですか?
真人さんの誕生日は私がお祝いしますよ」

「あー……」

長く発し、なぜか野間は天井を仰いでいる。

「実は……」

野間が口にした日付は、愛未が野間を好きだと自覚した日頃だった。

「えっ、なんで早く言ってくれなかったんですか!?」

「だって、自分から言うのもあれですし、それにあの頃はまだ、愛未にどこまで近づいていいのかわからなかったですし……」

困ったように野間は笑っていて、申し訳ない気持ちになった。
あの頃の自分はそれだけ、野間に気を遣わせていた。

「じゃ、じゃあ。
遅くなりましたが、改めて次の休みにでもお祝いしましょう!
私、ごちそう作りますから!」

自分だけこんなにお祝いしてもらっていて、野間はしないなんてない。
せめてもの挽回策を提案したものの。

「んー、それよりですね」

野間がそっと、愛未の耳もとに口を寄せてくる。

「誕生日プレゼントの代わりに、子供が欲しいです。
今から子作り、しませんか?」

耳もとで囁かれた言葉に、ぼふっと顔から火を噴いた気がした。

寝返りを打って目を開けると、隣で野間が気持ちよさそうに寝ている。
今日は、誕生日を祝ってくれて嬉しかった。
それに。

「ずっと一緒、ですよ」

野間の寝顔に小さく声をかける。
来年も再来年も、ずっと誕生日を祝おうと言ってくれた。
子供が欲しいと言ってくれた。
野間は自分を殺す未来ではなく、一緒に生きる未来を見てくれている。
それが、たまらなく嬉しい。

……このまま、子供が生まれて大きくなって、一緒に年を取っておじいちゃんおばあちゃんになるのかな。

愛未もそんな未来を夢見、野間にすり寄って目を閉じた。
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