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第8話 焼き肉デート
5.エリート
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焼き肉屋の前にアウディの横付けは目立つので、少し離れたところで降ろしてもらう。
行くとさすがに土曜なので少し待ちができていた。
「予約はしなかったのかい?」
「予約はできないんですよ」
並んで空いてるベンチに座ると、尚一郎が手を重ね、指を絡めてくる。
前は速攻で振り払っていたが、いまは別になんとも思わない。
むしろ、それが自然だとすら思う。
少し待って店に入る。
店に入ると七輪の煙がもうもうと立ちこめていた。
尚一郎を連れてきたのは、七輪で肉を焼いて食べる店。
表こそ小綺麗だが、中は無造作な三和土に長年使い込まれたテーブルと椅子が並んでいる。
「凄いね」
席に着くと物珍しそうに尚一郎が周りを見渡す。
急に、強引にこんなところに連れてきてよかったのか、不安になった。
「あの、尚一郎さん。
その、もしかして嫌だったら、あの」
「ん?
嫌じゃないよ。
むしろ、こんな店に来てみたかったんだよね」
にっこりと笑った尚一郎にほっとした。
届いたビールで乾杯。
そういえば、ドイツはビールの国なのに、あまり尚一郎がビールを飲んでいるところは見たことがない。
「んー、なんとなく、かな。
あまり居酒屋とかこういう店には誘われないし」
いくつか朋香に確認しただけで、尚一郎は普通に肉を焼いて食べている。
やはり視線は気になるが、かまわないことにした。
肉を焼きながらビールをごくごくと飲んでいる尚一郎はわりと合っている。
いつものセレブな感じより、こっちの方が好きなくらい。
「だいたい、おかしいと思わないかい?
新入社員の歓迎会に僕だけ誘われないんだよ?
僕だって新入社員だったのに」
尚一郎は怒っているが、さすがにそれは。
「えっと。
いくら新入社員でも、社長は誘いにくいんじゃ……?」
「もしかして朋香、僕がはじめから、社長だったとでも思っているのかい?」
「え?
違うんですか?」
ぱちくりとまばたきをした尚一郎に、朋香もぱちくりとまばたきをしてしまう。
どう見ても生まれたときから社長のような尚一郎にそれ以外が想像できない。
……いや、よく思い出すと以前、ひとりで営業に回っていたとか云っていたような。
「ちゃんと試験に通って入社したし、一般社員スタートだったよ。
確かに、昇進は人より早かったけど、オシベメディテックの社長になったのは二年前」
「え……」
待て待て待て、この人、普通に昇進してきたの?
もしかして、正真正銘のエリート?
「社長就任もCEOの反対があってずいぶん揉めて。
あれがなかったら、もっと早く社長になれてたんだけど」
「はあ……」
確かに、あの祖父がすんなり尚一郎をグループ会社の一企業とはいえ、社長に就けるはずがない。
それなりに苦労はあったんだろうとは思うが。
「尚一郎さんってほんとに凄いんですね……」
「惚れたかい?」
「ぜん、ぜん!」
熱い顔を誤魔化すように、ジョッキに残ったビールを飲み干すとさらに熱くなった。
行くとさすがに土曜なので少し待ちができていた。
「予約はしなかったのかい?」
「予約はできないんですよ」
並んで空いてるベンチに座ると、尚一郎が手を重ね、指を絡めてくる。
前は速攻で振り払っていたが、いまは別になんとも思わない。
むしろ、それが自然だとすら思う。
少し待って店に入る。
店に入ると七輪の煙がもうもうと立ちこめていた。
尚一郎を連れてきたのは、七輪で肉を焼いて食べる店。
表こそ小綺麗だが、中は無造作な三和土に長年使い込まれたテーブルと椅子が並んでいる。
「凄いね」
席に着くと物珍しそうに尚一郎が周りを見渡す。
急に、強引にこんなところに連れてきてよかったのか、不安になった。
「あの、尚一郎さん。
その、もしかして嫌だったら、あの」
「ん?
嫌じゃないよ。
むしろ、こんな店に来てみたかったんだよね」
にっこりと笑った尚一郎にほっとした。
届いたビールで乾杯。
そういえば、ドイツはビールの国なのに、あまり尚一郎がビールを飲んでいるところは見たことがない。
「んー、なんとなく、かな。
あまり居酒屋とかこういう店には誘われないし」
いくつか朋香に確認しただけで、尚一郎は普通に肉を焼いて食べている。
やはり視線は気になるが、かまわないことにした。
肉を焼きながらビールをごくごくと飲んでいる尚一郎はわりと合っている。
いつものセレブな感じより、こっちの方が好きなくらい。
「だいたい、おかしいと思わないかい?
新入社員の歓迎会に僕だけ誘われないんだよ?
僕だって新入社員だったのに」
尚一郎は怒っているが、さすがにそれは。
「えっと。
いくら新入社員でも、社長は誘いにくいんじゃ……?」
「もしかして朋香、僕がはじめから、社長だったとでも思っているのかい?」
「え?
違うんですか?」
ぱちくりとまばたきをした尚一郎に、朋香もぱちくりとまばたきをしてしまう。
どう見ても生まれたときから社長のような尚一郎にそれ以外が想像できない。
……いや、よく思い出すと以前、ひとりで営業に回っていたとか云っていたような。
「ちゃんと試験に通って入社したし、一般社員スタートだったよ。
確かに、昇進は人より早かったけど、オシベメディテックの社長になったのは二年前」
「え……」
待て待て待て、この人、普通に昇進してきたの?
もしかして、正真正銘のエリート?
「社長就任もCEOの反対があってずいぶん揉めて。
あれがなかったら、もっと早く社長になれてたんだけど」
「はあ……」
確かに、あの祖父がすんなり尚一郎をグループ会社の一企業とはいえ、社長に就けるはずがない。
それなりに苦労はあったんだろうとは思うが。
「尚一郎さんってほんとに凄いんですね……」
「惚れたかい?」
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熱い顔を誤魔化すように、ジョッキに残ったビールを飲み干すとさらに熱くなった。
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