天才魔導師と秀才魔法剣士を(いろんな意味で)癒すのがお仕事です

うづきなな

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予定外

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 どうにかシエルを起こして布団から出して着替えさせ、いちゃいちゃ時間を邪魔されて不機嫌なカイをなだめて服を着させてゼリンダたちは馬車に乗り込む。
 朝から私がんばったとゼリンダは馬車に揺られながら心の中で自画自賛した。
 程なく到着し、ゼリンダは初めて王宮に足を踏み入れた。見学に来たわけではないのであちこち見て回れないが、通り道だけでも芸術的な建物だと感心する。
 王宮の役人に案内された部屋に入ると、応接室のようだった。猫足のテーブルを挟んで向かい合わせに置かれた瀟洒な長椅子の片方にウォルフガング・ジルバーナーゲルが腰掛けている。カイとシエルとゼリンダが入ってきたことに気づくと手を挙げた。
「おっはよー! 朝ごはん食べた?」
「食べ損なった」
 楽しげなウォルフガングに短く告げたカイは踵を返して部屋を出ていこうとする。
「わー! ストップストップ」
 急いで飛んできたウォルフガングが扉の前に立ち塞がる。役人はすでにいなくなっていた。
「あんたが絡むことなんてロクな話じゃない」
 普段通りに淡々と告げるカイにウォルフガングは満面の笑みを見せる。
「絡むじゃなくて、俺からお願いがあって来てもらったんだよねー。カイくん、俺がお願いって言ったら来てくれないじゃん? だから陛下に、代わりに呼んでってお願いしちゃった☆」
 ヘラヘラ話すウォルフガングに、珍しくカイのこめかみにビキッと青筋が立った。いつもならフォローを入れてくれるシエルはまだ寝ぼけており助け舟は期待できない。ゼリンダは穏便に済ませてほしい気持ちを込めてカイの手をぎゅっと握った。それにしても国王にこんなに気軽に頼みごとのできるウォルフガングは改めてすごい存在なのだと感じる。
 カイとウォルフガングには特に因縁があるわけではない。ふたりとも大貴族の子息として当たり障りなくやってきた。ただカイは、ウォルフガングのわざとらしい振る舞いが鼻につく。
「カイくんたちには本当に申し訳ないと思ってるんだよ? 厄介者をケラーさんのところに頼んでねじ込んでもらったんだけど、まさか身の程知らずにもカイくんとシエルくんの付いてるゼリンダさん狙うなんて想定外だったんだよね」
 ウォルフガングのどこか鋭い視線がゼリンダに向けられた。ゼリンダは少し怖いと感じてカイの手を握る力が強まってしまう。
「何であんなのが紛れてるのかと思ったら、あんたの獲物なのか」
「やだなぁ。あんなの、俺の獲物を誘い出すための餌だよ」
 最強の魔法剣士はヘラヘラと言ってのける。
「それなら尚更、俺たちを巻き込むな」
 天才魔導師は冷静にはねつけた。ウォルフガングの獲物はガブリエル・レジオンドだろうと推測する。ならばこちらにまで被害がおよぶ可能性を排除できない。
「だからぁ、巻き込む気はなかったんだって。でもこうなった以上、早めに片付けたいじゃん?」
 ウォルフガングはかわいこぶってちょこんと頭を傾けるが言葉の端々に本質が垣間見える。
「ゼリンダは俺たちが守る。そっちの都合は知らない」
 強い者同士がどちらも一歩も譲らずバチバチと火花を散らす様子に、ゼリンダは右往左往する。シエルは覚醒した顔になっているが、黙って成り行きを見守っている。
「人間をテハノに変えるなんて良い魔法じゃないけど、めったにお目にかかることのない魔法を目の前で見られる最初で最後のチャンスかもよ?」
 ウォルフガングはゼリンダは巻き込まないと頑ななカイの好奇心をくすぐる戦法へ舵を切った。そこを突かれるとカイも弱い。言葉に詰まる。
「……絶対にゼリンダに危害が及ばないようにすること。協力するならそれが絶対条件だ」
 カイの魔法を見たい気持ちが勝った。ウォルフガングはニヤリと口角を上げる。
「もちろんっ」
「くだらない悪党でも人体実験は趣味じゃない。あの魔法の魔導書か設計図を俺に渡せ」
「善処しましょう」
 ウォルフガングは得意げな笑顔で胸を張る。
 あれほど不穏な空気から急転直下で話が丸くまとまったことにゼリンダは安堵しながらも、戸惑ってシエルの顔を見上げる。天才と最強に無茶振りをされる未来を予感したシエルは苦笑いを浮かべた。
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