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社会人時代
②聞いてない(1)
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こんこん
「失礼致します」
緊張で声が震えてしまったので、一呼吸置いてから扉を開けたら、そこには。
「し、しらかわ?!」
「ここでは、白川常務ですよ、橋水さん」
「申し訳ありませんでした」
驚きすぎて呼び捨てしてしまった。慌ててぺこりと頭を下げたけれど白川常務は特に気にしていないようでホッとした。そしてすぐに仕事を始めた。白川常務について回って必死に仕事内容を覚えた。常務秘書は今までとは比べ物にならないくらい忙しいし、覚えなくてはいけないことも多い。だからたまにパンクしそうになったけれど、その度に常務が『一歩ずつ進んでいけばいい』といつの日か掛けてくれた言葉を伝えてくれてなんとか乗り越えることができた。そして、数ヶ月経って少し落ち着いてきた頃、白川常務から久しぶりにご飯に誘われ、そこで驚くことを聞いた。
「俺、この会社の社長の息子だよ。長男。だから常務になることは決まってた。まあ、本当に俺でいいのか、っていうのはちゃんと審議したけどね。それでな、秘書は自分で選べるんだよ。もちろんその人で大丈夫かって審査みたいなのはあるけどな。ま、秘書検定持ってるって言ってたし、仕事もちゃんとしてて評判もいい。プラスでもうお互い知っている仲だからあんたを指名した」
「なるほどね。嬉しい限りです」
私の実力もみて決めてくれた。それがすごく嬉しくて頬が緩んだ。もう1度感謝を伝えようと思って
「ありがとう」
と言ったら
「ニヤケすぎ」
と言われてしまった。でも白川に褒められたのはすごく嬉しかった。そして専務の舞さんが社長の娘だということを思い出して、2人が兄弟だと分かった。そして、舞さんと兄弟だという谷口さんも白川のお兄さんだろうかと思って尋ねた。
「舞さんと兄弟ってことは、谷口さんとも兄弟?」
一瞬間があった後、目を逸らして
「あー、ノーコメント」
と返答があった。あ、もしかして触れてはいけないところだったのか。
「あ、ごめん」
と謝ったら「あんたは悪くない」と言ってくれて、気まずくならずにその日は楽しく夕食を食べた。
それから常務秘書として仕事をし、たまに友人としてご飯を一緒に食べるという生活を送っていた。そうしたら自然と白川といる時間が増えるわけで。バイト時代とは違う顔をたくさん知ることができた私は、白川に惚れてしまっていた。白川の優しさを、あの笑顔を、いつも励ましてくれる姿を、ぜんぶ全部独り占めしたいと思ってしまった。今までは友人だから、と思っていたのにいつの間にか友人とは思えなくなっていたみたいだ。でも今回も失恋か。私は3人に恋をしたのに、3人とも告白せずに終わっている。ショックを受けながら数週間前に一緒に飲みにいったことを思い出していた。
『飲み過ぎ』
その日は何故か飲みたい気分だったのでいつもよりハイペースで飲んでいた。
『んー、だってー』
と言っていた私は、いろいろと緩んでいたのでいつもは聞かないようなことを聞いていた。
『そういえばさ、白川って好きな人いる?』
『なんで?』
『だって、白川は私の恋の話は全部知ってるのに、私は白川の恋の話何にも知らないなーって。だから気になる!』
『それはあんたが俺にしゃべっていたからでしょ』
『まあそーだけどさー。ねえ教えてー』
まあその時の私はうざかったと思う。わざわざ白川の隣に移動して、彼の腕をペチペチ叩きながら聞いていたと思う。そして白川は、『しょうがねえな』と言って私に水を渡しながら答えてくれた。
『いるよ』
『ほんと? どんな子?』
『可愛い』
『ほかは?』
『言わねえよ』
『けち! じゃあいつから好きなの?』
『高1の4月から』
その答えを聞いた瞬間。頭を殴られたように感じた。一気に酔いが覚めた。そして胸が苦しくなった。
『ふーん。帰る』
今まで教えて教えてと言っていたのに、答えた瞬間に興味をなくし帰る、と言った私に白川は『ったく』と言って一緒に帰る準備をしてくれた。そして家まで送ってくれた。ああ、白川は本当に優しい。でも好きな人がいるんだ。こんなに優しくされたら、もっともっと好きになっちゃうよ。だから頑張ってなくさないといけない。それまでは私の恋心が彼にバレないように気をつけなければ。
そういうわけで、私はまた失恋したのだった。
「失礼致します」
緊張で声が震えてしまったので、一呼吸置いてから扉を開けたら、そこには。
「し、しらかわ?!」
「ここでは、白川常務ですよ、橋水さん」
「申し訳ありませんでした」
驚きすぎて呼び捨てしてしまった。慌ててぺこりと頭を下げたけれど白川常務は特に気にしていないようでホッとした。そしてすぐに仕事を始めた。白川常務について回って必死に仕事内容を覚えた。常務秘書は今までとは比べ物にならないくらい忙しいし、覚えなくてはいけないことも多い。だからたまにパンクしそうになったけれど、その度に常務が『一歩ずつ進んでいけばいい』といつの日か掛けてくれた言葉を伝えてくれてなんとか乗り越えることができた。そして、数ヶ月経って少し落ち着いてきた頃、白川常務から久しぶりにご飯に誘われ、そこで驚くことを聞いた。
「俺、この会社の社長の息子だよ。長男。だから常務になることは決まってた。まあ、本当に俺でいいのか、っていうのはちゃんと審議したけどね。それでな、秘書は自分で選べるんだよ。もちろんその人で大丈夫かって審査みたいなのはあるけどな。ま、秘書検定持ってるって言ってたし、仕事もちゃんとしてて評判もいい。プラスでもうお互い知っている仲だからあんたを指名した」
「なるほどね。嬉しい限りです」
私の実力もみて決めてくれた。それがすごく嬉しくて頬が緩んだ。もう1度感謝を伝えようと思って
「ありがとう」
と言ったら
「ニヤケすぎ」
と言われてしまった。でも白川に褒められたのはすごく嬉しかった。そして専務の舞さんが社長の娘だということを思い出して、2人が兄弟だと分かった。そして、舞さんと兄弟だという谷口さんも白川のお兄さんだろうかと思って尋ねた。
「舞さんと兄弟ってことは、谷口さんとも兄弟?」
一瞬間があった後、目を逸らして
「あー、ノーコメント」
と返答があった。あ、もしかして触れてはいけないところだったのか。
「あ、ごめん」
と謝ったら「あんたは悪くない」と言ってくれて、気まずくならずにその日は楽しく夕食を食べた。
それから常務秘書として仕事をし、たまに友人としてご飯を一緒に食べるという生活を送っていた。そうしたら自然と白川といる時間が増えるわけで。バイト時代とは違う顔をたくさん知ることができた私は、白川に惚れてしまっていた。白川の優しさを、あの笑顔を、いつも励ましてくれる姿を、ぜんぶ全部独り占めしたいと思ってしまった。今までは友人だから、と思っていたのにいつの間にか友人とは思えなくなっていたみたいだ。でも今回も失恋か。私は3人に恋をしたのに、3人とも告白せずに終わっている。ショックを受けながら数週間前に一緒に飲みにいったことを思い出していた。
『飲み過ぎ』
その日は何故か飲みたい気分だったのでいつもよりハイペースで飲んでいた。
『んー、だってー』
と言っていた私は、いろいろと緩んでいたのでいつもは聞かないようなことを聞いていた。
『そういえばさ、白川って好きな人いる?』
『なんで?』
『だって、白川は私の恋の話は全部知ってるのに、私は白川の恋の話何にも知らないなーって。だから気になる!』
『それはあんたが俺にしゃべっていたからでしょ』
『まあそーだけどさー。ねえ教えてー』
まあその時の私はうざかったと思う。わざわざ白川の隣に移動して、彼の腕をペチペチ叩きながら聞いていたと思う。そして白川は、『しょうがねえな』と言って私に水を渡しながら答えてくれた。
『いるよ』
『ほんと? どんな子?』
『可愛い』
『ほかは?』
『言わねえよ』
『けち! じゃあいつから好きなの?』
『高1の4月から』
その答えを聞いた瞬間。頭を殴られたように感じた。一気に酔いが覚めた。そして胸が苦しくなった。
『ふーん。帰る』
今まで教えて教えてと言っていたのに、答えた瞬間に興味をなくし帰る、と言った私に白川は『ったく』と言って一緒に帰る準備をしてくれた。そして家まで送ってくれた。ああ、白川は本当に優しい。でも好きな人がいるんだ。こんなに優しくされたら、もっともっと好きになっちゃうよ。だから頑張ってなくさないといけない。それまでは私の恋心が彼にバレないように気をつけなければ。
そういうわけで、私はまた失恋したのだった。
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