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番外編
魔女の集い 前編
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猫の姿でひなたぼっこをしてるパフィの元に、鳥が飛んできた。
嘴の根元と首の後ろ、おしりのあたりが白くて、他は黒い鳥。カササギフエガラスという鳥で、魔女の集いのお知らせは、いつもこの鳥が持ってくる。
パフィは片目だけ開けて確認して、また目を閉じてしまった。
「お知らせがきたよ」
『ん』
鳥の首に結びつけられた手紙を取ってから、果物を差し出すと、口に咥えて飛んで行った。
今朝、市場に行ってて良かった。果物は食堂に置いてないことのほうが多いから。
手紙をパフィに渡す。っていっても猫のままだから受け取ってはくれないんだけど。
僕の手から離れた手紙は、ふわりと浮かんでパフィの前でくるくると回転して広がった。
『次の月満ちる晩、ここに来るそうだ』
そういえば、ダリア様が僕の作った料理を食べたいって言ってた。
「いつも集まって何をしてるの?」
『茶を飲んだり、酒を飲んだりするな』
僕たちの花見とあんまり変わらない?
『春以外は人の宴と変わらんがな』
「そうなの?」
『春だけは別だ。死者が生者の魂を襲うことがあるからな、夜通し火を焚く』
「そんなことがあるんだ」
死者が生者の魂を襲うだなんて、知らなかった。
『まぁ、飲んでるだけだがな』
「じゃあ、酒のつまみになるようなものを作ればいいの?」
『そうだな。いつも適当なものを食べていたからな、その点だけは楽しみだ』
本当は会えて嬉しいのに、パフィってば素直じゃないなぁ。
ゆらゆらとパフィの尻尾が揺れる。マグロの身体を遠く離れた村から操ってるのかと思ってたら、ずっと前から猫に化けてたんだって。マグロはどうしてるのか聞いたら、大体トキア様の膝の上にいるらしい。知らなかった……。
どんな料理を作ろうかと考えて、せっかくだから皆が好きなものを作りたくなった。
「ねぇ、パフィ、ダリア様たちの好きなものってなにか知ってる?」
『知らん』
「分かった。色々作ってみるね」
パフィの好きな肉料理ははずせないとして、魚とかかな。
「一晩中だったら、貝をのんびり焼いて食べるのも美味しいと思うけど、そういうの得意だったりする──」
『いるわけないだろうが。おまえがいるなら話は別だがな』
「でも僕は魔女じゃないから、参加できないよ」
『別に制限はない』
「そうなの?」
魔女だけの集まりって聞いてたから、魔女じゃないと参加できないのかと思ってた。
『ダリアがいるからな』
ダリア様が来たとき、胸がぐっと押されるような感覚がした。ノエルさんは額に汗をいっぱいかいてた。ダリア様も加減出来ているか、って聞いてたし。
「ダリア様がくるとなにかあるの?」
『キルヒシュタフの時もあった。おまえも感じただろう、圧を。魔法使いと魔術師どもが魔力の流れを変えていたからあの程度で済んだ』
「圧?」
『始祖の魔女の体内にはな、万の時が刻まれているのだ。それは濃密な魔力で、人には耐えがたいはずだ。おまえも息苦しさを感じたろう?』
「うん。トラスが守ってくれてたから大丈夫だったけど、苦しくなった」
『だから人は参加出来ない。それだけだ』
魔女が人と暮らさないのは、そういう理由なのかな。でもそうすると、パフィの父さんは……。
『冬の王はそのあたり、規格外だったようだ』
ノエルさんですらあの状態だったのに、ずっとキルヒシュタフ様のそばにいたんだから、パフィの父さんってすごい人だったんだ。
「パフィはすごい人たちの子なんだね」
怪訝な顔で僕を見る。
毎回思うんだけど、猫の怪訝な顔って、結構すごい。
『おまえは呑気だな』
「そうかな?」
どんな料理を作ろうかな。
「どした?」
魔女の集いに出す料理を考えながらタマネギの皮を剥いていたら、ラズロさんに声をかけられた。
「魔女の集いに出す料理をなににしようか考えてました」
「は? 魔女の集い? 本気でやんのか?」
ラズロさんにはあの時のことを簡単に話していた。でも本気でやるとは思ってなかったみたい。
「魔女は口にしたことは絶対にやるんです」
「いやだっておまえ、始祖の魔女ってな、いるだけで大変なんだろ? ノエルはあの後三日寝込んだぐらいなんだから。ってあぁ、魔女以外は参加出来ないから大丈夫なのか?」
「本来は誰でも参加出来るみたいなんですけど、ダリア様の魔力の影響があるので、参加しないんだそうです」
「こっわ……」
そういえば僕はどうすればいいのか聞いてなかった。あとでパフィに確認しておこう。
「まさかアシュリー、参加しないよな?」
「どうなんでしょう? パフィに聞いてみます」
ラズロさんは怪訝な顔になったけど、なにも言わないで僕の隣でタマネギの皮剥きを手伝ってくれた。
「そうだ、どんな料理を作ったらいいと思いますか? 一晩中火を焚いて飲んだり食べたりするんだそうです」
「なんの儀式だそりゃ……」
「えーと、死者から生者を守るためって言ってましたよ」
「重要じゃねぇか!」
「そうなんです」
魔女がそうやって人を守ってくれてるってこと、皆知らない気がする。知って、怖い存在だと思われないといいな。
「……アシュリーおまえ、魔女は怖い存在じゃないのにとか考えてんだろ」
「そうです。なんで分かったんですか?」
どうして分かったんだろ?
「なんとなくだ。魔女が優しいのはアシュリーにだからだぞ、たぶん」
「そうですか?」
「アマーリアーナ様だっけか? あの魔女様、何度来てもアシュリーにしか声をかけないだろ?」
そういえばそうかも?
「アシュリーは魔女様の弟子ってことになってるからアレだろうけどな、オレたちは数にも入ってねぇぞ、きっと」
それは、あまり人と親しくなるのが怖いからなのかもしれない。パフィだって、進んで人と話そうとはしない。
「分からないですけど、嫌いではないと思います」
「お気遣いありがとうよ」
皮を剥き終えたタマネギを薄く切り始める。今日の昼食は、薄くスライスしたタマネギを炒めて作ったスープに、硬めのパンをのせて、チーズをかけて表面を焼いてチーズを溶かしたもの。タマネギのスープ。
ダグ先生の元に集まったものとは別に、休み明けにこのスープが食べたいという声が多かった。
たくさん酒を飲んでしまった次の日に食べたくなるんだって。
大きなフライパンに油を回すようにして入れて、温まったところに薄切りにしたタマネギを入れる。ジュワッという音、何度聞いても良い音で好き。
塩を全体にかける。タマネギから水分が早く出て炒めるのが楽になるように。
「ちょっとチーズ取ってくるわ」
フルールの器にタマネギの皮を入れると、ラズロさんはチーズを取りに行ってくれた。大きくて重いから、僕の力では持ってこれない。
持ってきてもらったら、包丁で必要なだけ削る。
食堂で使うチーズは小売りにされたものじゃなくって、大きな塊ごとを買う。大きなチーズの塊は、見るのも好き。削るのも楽しい。
黒猫が三匹並んで歩いてるのを、皆がにこにこしながら見てる。たぶん先頭はパフィで、次は二股の尻尾だからマグロで、最後がネロかな。
どこに行くんだろう? 皆で連れ立って。
「パフィー、どこ行くのー?」
声をかけたら、あっという間に走ってきて飛びかかってきた。慌ててパフィを受け止める。マグロとネロまで飛びついてきて、尻もちをついてしまった。
『セルリアンの邪魔をしてやろうと思ってな』
本当に邪魔するんだろうな。
きっとお仕事にならないだろうから、休憩してもらうようにプディングを持っていってもらおうかな。
「じゃあ、プディングを持って行ってくれる?」
『師匠に使い走りをさせる気か?』
不満そうだ。
「そっか。じゃあ後で自分で持って行くね」
尻尾がパシパシと僕の手を叩く。
うん、パフィの望んだ答えじゃなかったみたい。
「ビワと白ワインのコンポートを作ったら食べる?」
パフィの尻尾がくるくる回る。
『よし、引き受けてやろう』
バスケットにプディングとスプーンを入れてパフィに渡すと、バスケットはパフィの隣をふわふわと浮いた。これならプディングもこぼれないから大丈夫そう。
「ありがとう、パフィ」
三匹の黒猫が歩いて行くのを見送ってから、厨房に戻る。
可愛かったなぁ。並んで歩いて、しっぽが揺れてて。
ビワはパフィが好きだからとたくさん買ったんだけど、日持ちしないからコンポートにすることが多い。
ビワの皮を剥いて、半分に割って種を取る。種と皮はフルールのおやつ。コリコリコリと音をさせて、大きめの種を美味しそうに食べる。
鍋に水とジャッロたちの蜂蜜と、白ワインを入れて火で温め、木ベラでかき混ぜていく。
裏庭のダンジョンは、必要な階層以外は閉じることに決まった。
ジャッロたちがいる階層は勿論残すけど、香辛料なんかは魔法薬学の人たちが管理するダンジョンで育てることになった。アマーリアーナ様からこれ以上時をもらうわけにはいかないから、これまでのようには使えなくなるけど、それが本来の在り方だから、いいと思う。秋の階層も閉じる予定。
海は絶対に残すとパフィが言うし、必要な魔力は供給するとトキアさまも騎士団長も言ってるので、残すことになった。二人とも考えごとをする時、海の階層に行って釣りをするから、残しておきたいんだろうな。
トラスの階層は残しておきたい気持ちもあったけど、閉じることにした。あそこにトラスはいないから。僕を守って、パフィを助けるのに力を貸してくれて、砕けてしまったから。
水晶に名前を付けることも、砕けてしまったことが悲しくなるのも、おかしなことなのかもしれないけど。僕が話しかけると、答えるように光ってくれてた。気持ちが通じてるみたいで、嬉しかった。
もう、壊れてしまって、話しかけても光ることはないけど、それでも、トラスがいたことはなくなったりしない。
キルヒシュタフ様とパフィの父さんのこともそう。
間違ったことをたくさんしてしまったかも知れないけど、それだけじゃないって思う。
それによって良かったことも、悪いこともあったとは思う。これは僕の思いだから、他の人にはそうじゃないのも分かってるんだけど、僕はキルヒシュタフ様と冬の王に感謝してる。
二人がいたから、パフィがいて、僕はこうして幸せなんだから。
嘴の根元と首の後ろ、おしりのあたりが白くて、他は黒い鳥。カササギフエガラスという鳥で、魔女の集いのお知らせは、いつもこの鳥が持ってくる。
パフィは片目だけ開けて確認して、また目を閉じてしまった。
「お知らせがきたよ」
『ん』
鳥の首に結びつけられた手紙を取ってから、果物を差し出すと、口に咥えて飛んで行った。
今朝、市場に行ってて良かった。果物は食堂に置いてないことのほうが多いから。
手紙をパフィに渡す。っていっても猫のままだから受け取ってはくれないんだけど。
僕の手から離れた手紙は、ふわりと浮かんでパフィの前でくるくると回転して広がった。
『次の月満ちる晩、ここに来るそうだ』
そういえば、ダリア様が僕の作った料理を食べたいって言ってた。
「いつも集まって何をしてるの?」
『茶を飲んだり、酒を飲んだりするな』
僕たちの花見とあんまり変わらない?
『春以外は人の宴と変わらんがな』
「そうなの?」
『春だけは別だ。死者が生者の魂を襲うことがあるからな、夜通し火を焚く』
「そんなことがあるんだ」
死者が生者の魂を襲うだなんて、知らなかった。
『まぁ、飲んでるだけだがな』
「じゃあ、酒のつまみになるようなものを作ればいいの?」
『そうだな。いつも適当なものを食べていたからな、その点だけは楽しみだ』
本当は会えて嬉しいのに、パフィってば素直じゃないなぁ。
ゆらゆらとパフィの尻尾が揺れる。マグロの身体を遠く離れた村から操ってるのかと思ってたら、ずっと前から猫に化けてたんだって。マグロはどうしてるのか聞いたら、大体トキア様の膝の上にいるらしい。知らなかった……。
どんな料理を作ろうかと考えて、せっかくだから皆が好きなものを作りたくなった。
「ねぇ、パフィ、ダリア様たちの好きなものってなにか知ってる?」
『知らん』
「分かった。色々作ってみるね」
パフィの好きな肉料理ははずせないとして、魚とかかな。
「一晩中だったら、貝をのんびり焼いて食べるのも美味しいと思うけど、そういうの得意だったりする──」
『いるわけないだろうが。おまえがいるなら話は別だがな』
「でも僕は魔女じゃないから、参加できないよ」
『別に制限はない』
「そうなの?」
魔女だけの集まりって聞いてたから、魔女じゃないと参加できないのかと思ってた。
『ダリアがいるからな』
ダリア様が来たとき、胸がぐっと押されるような感覚がした。ノエルさんは額に汗をいっぱいかいてた。ダリア様も加減出来ているか、って聞いてたし。
「ダリア様がくるとなにかあるの?」
『キルヒシュタフの時もあった。おまえも感じただろう、圧を。魔法使いと魔術師どもが魔力の流れを変えていたからあの程度で済んだ』
「圧?」
『始祖の魔女の体内にはな、万の時が刻まれているのだ。それは濃密な魔力で、人には耐えがたいはずだ。おまえも息苦しさを感じたろう?』
「うん。トラスが守ってくれてたから大丈夫だったけど、苦しくなった」
『だから人は参加出来ない。それだけだ』
魔女が人と暮らさないのは、そういう理由なのかな。でもそうすると、パフィの父さんは……。
『冬の王はそのあたり、規格外だったようだ』
ノエルさんですらあの状態だったのに、ずっとキルヒシュタフ様のそばにいたんだから、パフィの父さんってすごい人だったんだ。
「パフィはすごい人たちの子なんだね」
怪訝な顔で僕を見る。
毎回思うんだけど、猫の怪訝な顔って、結構すごい。
『おまえは呑気だな』
「そうかな?」
どんな料理を作ろうかな。
「どした?」
魔女の集いに出す料理を考えながらタマネギの皮を剥いていたら、ラズロさんに声をかけられた。
「魔女の集いに出す料理をなににしようか考えてました」
「は? 魔女の集い? 本気でやんのか?」
ラズロさんにはあの時のことを簡単に話していた。でも本気でやるとは思ってなかったみたい。
「魔女は口にしたことは絶対にやるんです」
「いやだっておまえ、始祖の魔女ってな、いるだけで大変なんだろ? ノエルはあの後三日寝込んだぐらいなんだから。ってあぁ、魔女以外は参加出来ないから大丈夫なのか?」
「本来は誰でも参加出来るみたいなんですけど、ダリア様の魔力の影響があるので、参加しないんだそうです」
「こっわ……」
そういえば僕はどうすればいいのか聞いてなかった。あとでパフィに確認しておこう。
「まさかアシュリー、参加しないよな?」
「どうなんでしょう? パフィに聞いてみます」
ラズロさんは怪訝な顔になったけど、なにも言わないで僕の隣でタマネギの皮剥きを手伝ってくれた。
「そうだ、どんな料理を作ったらいいと思いますか? 一晩中火を焚いて飲んだり食べたりするんだそうです」
「なんの儀式だそりゃ……」
「えーと、死者から生者を守るためって言ってましたよ」
「重要じゃねぇか!」
「そうなんです」
魔女がそうやって人を守ってくれてるってこと、皆知らない気がする。知って、怖い存在だと思われないといいな。
「……アシュリーおまえ、魔女は怖い存在じゃないのにとか考えてんだろ」
「そうです。なんで分かったんですか?」
どうして分かったんだろ?
「なんとなくだ。魔女が優しいのはアシュリーにだからだぞ、たぶん」
「そうですか?」
「アマーリアーナ様だっけか? あの魔女様、何度来てもアシュリーにしか声をかけないだろ?」
そういえばそうかも?
「アシュリーは魔女様の弟子ってことになってるからアレだろうけどな、オレたちは数にも入ってねぇぞ、きっと」
それは、あまり人と親しくなるのが怖いからなのかもしれない。パフィだって、進んで人と話そうとはしない。
「分からないですけど、嫌いではないと思います」
「お気遣いありがとうよ」
皮を剥き終えたタマネギを薄く切り始める。今日の昼食は、薄くスライスしたタマネギを炒めて作ったスープに、硬めのパンをのせて、チーズをかけて表面を焼いてチーズを溶かしたもの。タマネギのスープ。
ダグ先生の元に集まったものとは別に、休み明けにこのスープが食べたいという声が多かった。
たくさん酒を飲んでしまった次の日に食べたくなるんだって。
大きなフライパンに油を回すようにして入れて、温まったところに薄切りにしたタマネギを入れる。ジュワッという音、何度聞いても良い音で好き。
塩を全体にかける。タマネギから水分が早く出て炒めるのが楽になるように。
「ちょっとチーズ取ってくるわ」
フルールの器にタマネギの皮を入れると、ラズロさんはチーズを取りに行ってくれた。大きくて重いから、僕の力では持ってこれない。
持ってきてもらったら、包丁で必要なだけ削る。
食堂で使うチーズは小売りにされたものじゃなくって、大きな塊ごとを買う。大きなチーズの塊は、見るのも好き。削るのも楽しい。
黒猫が三匹並んで歩いてるのを、皆がにこにこしながら見てる。たぶん先頭はパフィで、次は二股の尻尾だからマグロで、最後がネロかな。
どこに行くんだろう? 皆で連れ立って。
「パフィー、どこ行くのー?」
声をかけたら、あっという間に走ってきて飛びかかってきた。慌ててパフィを受け止める。マグロとネロまで飛びついてきて、尻もちをついてしまった。
『セルリアンの邪魔をしてやろうと思ってな』
本当に邪魔するんだろうな。
きっとお仕事にならないだろうから、休憩してもらうようにプディングを持っていってもらおうかな。
「じゃあ、プディングを持って行ってくれる?」
『師匠に使い走りをさせる気か?』
不満そうだ。
「そっか。じゃあ後で自分で持って行くね」
尻尾がパシパシと僕の手を叩く。
うん、パフィの望んだ答えじゃなかったみたい。
「ビワと白ワインのコンポートを作ったら食べる?」
パフィの尻尾がくるくる回る。
『よし、引き受けてやろう』
バスケットにプディングとスプーンを入れてパフィに渡すと、バスケットはパフィの隣をふわふわと浮いた。これならプディングもこぼれないから大丈夫そう。
「ありがとう、パフィ」
三匹の黒猫が歩いて行くのを見送ってから、厨房に戻る。
可愛かったなぁ。並んで歩いて、しっぽが揺れてて。
ビワはパフィが好きだからとたくさん買ったんだけど、日持ちしないからコンポートにすることが多い。
ビワの皮を剥いて、半分に割って種を取る。種と皮はフルールのおやつ。コリコリコリと音をさせて、大きめの種を美味しそうに食べる。
鍋に水とジャッロたちの蜂蜜と、白ワインを入れて火で温め、木ベラでかき混ぜていく。
裏庭のダンジョンは、必要な階層以外は閉じることに決まった。
ジャッロたちがいる階層は勿論残すけど、香辛料なんかは魔法薬学の人たちが管理するダンジョンで育てることになった。アマーリアーナ様からこれ以上時をもらうわけにはいかないから、これまでのようには使えなくなるけど、それが本来の在り方だから、いいと思う。秋の階層も閉じる予定。
海は絶対に残すとパフィが言うし、必要な魔力は供給するとトキアさまも騎士団長も言ってるので、残すことになった。二人とも考えごとをする時、海の階層に行って釣りをするから、残しておきたいんだろうな。
トラスの階層は残しておきたい気持ちもあったけど、閉じることにした。あそこにトラスはいないから。僕を守って、パフィを助けるのに力を貸してくれて、砕けてしまったから。
水晶に名前を付けることも、砕けてしまったことが悲しくなるのも、おかしなことなのかもしれないけど。僕が話しかけると、答えるように光ってくれてた。気持ちが通じてるみたいで、嬉しかった。
もう、壊れてしまって、話しかけても光ることはないけど、それでも、トラスがいたことはなくなったりしない。
キルヒシュタフ様とパフィの父さんのこともそう。
間違ったことをたくさんしてしまったかも知れないけど、それだけじゃないって思う。
それによって良かったことも、悪いこともあったとは思う。これは僕の思いだから、他の人にはそうじゃないのも分かってるんだけど、僕はキルヒシュタフ様と冬の王に感謝してる。
二人がいたから、パフィがいて、僕はこうして幸せなんだから。
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