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第壱帖・白藤の情念
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しばらく先方とのやり取りをぼんやりと聞いていた綾乃は、母の発した
「まあ、では代替わりをされたのですか? 息子さんが当主に」
という台詞を聞き逃さなかった。
てっきり50代くらいの男性が、当主の座を継いだいだものだと思った。しかしよくよく話を聞いてみれば、まだ20歳を2つ3つ過ぎたばかりの、茉莉と大して変わらない年齢の若者が当主となったことが判った。
「ですが、先代様も完全に引退したわけではございませんね? でしたら今回は是非とも先代様に。え? 霊能力は代々当主の中でも群を抜いている、でございますか」
狼狽える母の姿など、滅多に見られるものではない。行儀が悪いと判っているが、綾乃はついつい電話の内容に耳をそばだててしまう。
「はあ、それでは依頼は直接、本人にさせますので。ええ、どうぞよろしくお願いいたします。ごめん下さいませ」
話から察するに、正式な依頼は茉莉本人にさせるようだ。
「綾乃さん。すぐに茉莉さんを呼んできなさい」
言われるままに彼女は娘を呼びに行く。茉莉は既に洋服に着替えていたが、どこか落ち込んだ表情をしている。宗家であり祖母でもある佳乃が呼んでいると聞いて、またお小言かしらと気が重くなった。
部屋へ赴くときちんと正座をし、ぴんと背筋を伸ばした祖母が目顔で座るよう語りかける。
「茉莉さん。久遠家のことを、以前に話したことがありますよね? 覚えていますか?」
「はい。陰陽師の家系という、退魔師一家ですよね?」
それがどうしたのだろうと茉莉は思いながらも、大人しく祖母の話の続きを聞くしかない。祖母は、10日後に迫ったお披露目公演が終わったら久遠家に行き、失踪した亘の行方を探して貰うよう依頼に行けと告げた。
「先方には話を通してありますが、貴女がきちんと依頼をするのが筋というもの。判ったならば気を入れ直して、稽古に集中しなさい。池園流の名を汚すことだけは、絶対に許しませんからね」
「は、はい。ですがおばあ様。私はその久遠家が何処にあるのか、存じませんが」
佳乃は無言で、久遠家の住所が書かれた紙を差し出す。書かれてある住所を見た茉莉は、思わず息を呑んだ。婚約者が失踪した、福井県内に住んでいる。何やら因縁のようなものを感じて、茉莉は思わず身をぶるりと震わせた。
「案ずることは何もありませんよ、茉莉さん。この久遠家は政財界との繋がりも強く、大物たちの霊的なアドバイザーを務めていらっしゃるのですから」
「はあ。では、お披露目公演が終わりましたら出立します。それまでは鍛え直していただけますか」
不気味に思いつつも腹を括ったらしく、茉莉は舞踊家としての顔になった。その真剣な顔つきに、ようやく孫娘が本来の姿に戻ったと感じた佳乃。明日からは厳しくしますよと言いながらも、その目はとても慈しみに満ちていた。
(退魔師だなんて怪しげな。でも警察が捜索しても何の手掛かりも得られないなら、ここはひとつ、おばあ様の言う通り縋ってみようかしら)
手掛かりが得られるなら、なんだって構わない。昔から付き合いがある家ならば、そうおかしな家ではないだろう。茉莉は心に引っ掛かる物を感じつつも、今は10日後に控えた自身のお披露目公演に集中せねばと、改めて気を引き締め直した。
「まあ、では代替わりをされたのですか? 息子さんが当主に」
という台詞を聞き逃さなかった。
てっきり50代くらいの男性が、当主の座を継いだいだものだと思った。しかしよくよく話を聞いてみれば、まだ20歳を2つ3つ過ぎたばかりの、茉莉と大して変わらない年齢の若者が当主となったことが判った。
「ですが、先代様も完全に引退したわけではございませんね? でしたら今回は是非とも先代様に。え? 霊能力は代々当主の中でも群を抜いている、でございますか」
狼狽える母の姿など、滅多に見られるものではない。行儀が悪いと判っているが、綾乃はついつい電話の内容に耳をそばだててしまう。
「はあ、それでは依頼は直接、本人にさせますので。ええ、どうぞよろしくお願いいたします。ごめん下さいませ」
話から察するに、正式な依頼は茉莉本人にさせるようだ。
「綾乃さん。すぐに茉莉さんを呼んできなさい」
言われるままに彼女は娘を呼びに行く。茉莉は既に洋服に着替えていたが、どこか落ち込んだ表情をしている。宗家であり祖母でもある佳乃が呼んでいると聞いて、またお小言かしらと気が重くなった。
部屋へ赴くときちんと正座をし、ぴんと背筋を伸ばした祖母が目顔で座るよう語りかける。
「茉莉さん。久遠家のことを、以前に話したことがありますよね? 覚えていますか?」
「はい。陰陽師の家系という、退魔師一家ですよね?」
それがどうしたのだろうと茉莉は思いながらも、大人しく祖母の話の続きを聞くしかない。祖母は、10日後に迫ったお披露目公演が終わったら久遠家に行き、失踪した亘の行方を探して貰うよう依頼に行けと告げた。
「先方には話を通してありますが、貴女がきちんと依頼をするのが筋というもの。判ったならば気を入れ直して、稽古に集中しなさい。池園流の名を汚すことだけは、絶対に許しませんからね」
「は、はい。ですがおばあ様。私はその久遠家が何処にあるのか、存じませんが」
佳乃は無言で、久遠家の住所が書かれた紙を差し出す。書かれてある住所を見た茉莉は、思わず息を呑んだ。婚約者が失踪した、福井県内に住んでいる。何やら因縁のようなものを感じて、茉莉は思わず身をぶるりと震わせた。
「案ずることは何もありませんよ、茉莉さん。この久遠家は政財界との繋がりも強く、大物たちの霊的なアドバイザーを務めていらっしゃるのですから」
「はあ。では、お披露目公演が終わりましたら出立します。それまでは鍛え直していただけますか」
不気味に思いつつも腹を括ったらしく、茉莉は舞踊家としての顔になった。その真剣な顔つきに、ようやく孫娘が本来の姿に戻ったと感じた佳乃。明日からは厳しくしますよと言いながらも、その目はとても慈しみに満ちていた。
(退魔師だなんて怪しげな。でも警察が捜索しても何の手掛かりも得られないなら、ここはひとつ、おばあ様の言う通り縋ってみようかしら)
手掛かりが得られるなら、なんだって構わない。昔から付き合いがある家ならば、そうおかしな家ではないだろう。茉莉は心に引っ掛かる物を感じつつも、今は10日後に控えた自身のお披露目公演に集中せねばと、改めて気を引き締め直した。
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