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第弐帖・デッサン
序 美術準備室の怪異・1
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私立吉柳女子学院高等部の美術準備室は、30年ほど前から奇妙な出来事が起こるようになった。毎日、夕方5時になると決まって誰も居ないはずの美術準備室から、椅子を引き摺るような音がする。奇妙に思った生徒が様子を見ても、画材や絵の具が整然と並んでいるだけ。そもそも椅子などその部屋に存在していない。美術部員から端を発したその奇妙な怪談話は、あっという間に高等部全体に広がり、やがて在籍する生徒全員が、噂を耳にしたことがあるという状態になった。
これにより美術部員は、夕方5時以降の活動は自粛することが、暗黙の了解となった。噂は代々語り継がれるようになり、現在でも夕方5時以降に美術部員はおろか一般生徒も近寄らない。しかし、いつの時代でもそういうオカルティックなものに興味を抱き、真相を暴こうとする者はいる。
「もうすぐ5時。2人とも、準備はいい?」
少々気の強そうな瞳が印象的な、普通科2年5組の綾瀬みゆきが確認をする。3人とも手にはデジカメやスマホを構え、いつでも写真を撮れるようにしている。
「ねぇ綾瀬、やっぱりやめようよ」
「なによ水無川、怖じ気づいたの? 今さら帰るなんて言っても許さないからね」
キッとみゆきに睨まれ、いかにも気の弱そうな水無川宏美は、帰るとは言わないけど……と口の中で呟くと、俯いて黙りこんでしまった。小太りで髪を耳の下でふたつに結わえた彼女は、元来は気が小さいようだ。
「みゆきの言う通りよ? ここまで来てやめるなんて。わたしたちの手で真相をつきとめましょうよ」
3人の中で一番背が高く目鼻立ちの整った円城寺佳奈が、目を輝かせてスマホを構え直す。2対1だと、少数派はいつだって敵わない。いや、宏美の場合は誰と連れ立っても最後には自分の意見を押し通せず、強い方に流されてしまう。
各々が手にするスマホの時計が、ちょうど5時を示した。同時に下校を促すチャイムが鳴り響き、3人は僅かな音も聞き逃すまいと、耳をすませる。10秒、1分と経っても、何の音も響いてこない。なんだやっぱりただの噂かと3人の緊張感が解けた刹那。何かを引っ掻くような音が微かに聞こえてきた。
ガサ、カサカサガサガサ。
彼女たちの背中に冷たい汗が流れ、初冬というだけではない肌寒さを覚えた。
「何の音かしら? 紙を引っ掻いてるような音……それとも、あの遭遇したくない黒い虫だったりして」
3人の中では最も気の強いみゆきが呟くように他の2人に問うが、佳奈はともかく宏美は真っ青な顔で、後ずさりをしている。
「ちょっと、なに逃げようとしているのよ! 約束でしょ? 行くわよ」
言うなり準備室のドアを勢いよく開け、ろくにファインダーも覗かすにシャッターを切った。その行動に我に返った佳奈も、スマホを持った手だけを準備室に差し入れ、部屋の隅々を撮りまくる。宏美は目を両手で覆い、何も見ないようにしていた。
その間にも紙を引っ掻くような音は響き、止むことはない。
「帰るよ!」
長居は無用とばかりに声を上げると、3人は後ろを振り向かず、脱兎の如く美術室を後にした。
これにより美術部員は、夕方5時以降の活動は自粛することが、暗黙の了解となった。噂は代々語り継がれるようになり、現在でも夕方5時以降に美術部員はおろか一般生徒も近寄らない。しかし、いつの時代でもそういうオカルティックなものに興味を抱き、真相を暴こうとする者はいる。
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少々気の強そうな瞳が印象的な、普通科2年5組の綾瀬みゆきが確認をする。3人とも手にはデジカメやスマホを構え、いつでも写真を撮れるようにしている。
「ねぇ綾瀬、やっぱりやめようよ」
「なによ水無川、怖じ気づいたの? 今さら帰るなんて言っても許さないからね」
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「みゆきの言う通りよ? ここまで来てやめるなんて。わたしたちの手で真相をつきとめましょうよ」
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各々が手にするスマホの時計が、ちょうど5時を示した。同時に下校を促すチャイムが鳴り響き、3人は僅かな音も聞き逃すまいと、耳をすませる。10秒、1分と経っても、何の音も響いてこない。なんだやっぱりただの噂かと3人の緊張感が解けた刹那。何かを引っ掻くような音が微かに聞こえてきた。
ガサ、カサカサガサガサ。
彼女たちの背中に冷たい汗が流れ、初冬というだけではない肌寒さを覚えた。
「何の音かしら? 紙を引っ掻いてるような音……それとも、あの遭遇したくない黒い虫だったりして」
3人の中では最も気の強いみゆきが呟くように他の2人に問うが、佳奈はともかく宏美は真っ青な顔で、後ずさりをしている。
「ちょっと、なに逃げようとしているのよ! 約束でしょ? 行くわよ」
言うなり準備室のドアを勢いよく開け、ろくにファインダーも覗かすにシャッターを切った。その行動に我に返った佳奈も、スマホを持った手だけを準備室に差し入れ、部屋の隅々を撮りまくる。宏美は目を両手で覆い、何も見ないようにしていた。
その間にも紙を引っ掻くような音は響き、止むことはない。
「帰るよ!」
長居は無用とばかりに声を上げると、3人は後ろを振り向かず、脱兎の如く美術室を後にした。
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