31 / 35
第弐帖・デッサン
2
しおりを挟む
20分後。
3人は学校の近所にあるコーヒーチェーン店に入ると、さっそく何が写っているか検証を始めた。みゆきと佳奈は、それぞれデジカメとスマホを操作し画像を確認する。
「ちょっと、何コレ!」
「やだ、わたしのも写ってる!」
「だから帰ろうって、言ったじゃない……」
写真を撮った2人が驚愕の声をあげ、宏美は半泣きである。
3人は5時になる前に、準備室の中を確認しておいた。噂通り画材一式が棚に並べられてあるだけで、人が隠れられるようなスペースや机などない。なのに、撮った写真には、あるものが写っていた。誰も居ない、棚だけしかない準備室の中央に、画架とキャンバス。ドアから右手、部屋の中央にそれはあり、キャンバスはみゆきたちに向けられていた。着色されていないデッサンには、生徒が描かれている。微笑みを浮かべているそれは、誰か美術部員が描いたものだろう。
やや伏し目がちだが、女が見ても綺麗だと思うほどそのモデルの少女の顔立ちは整っていた。これほどの美少女が在籍しているならば、例え女子校といえど噂になる。だが情報通であるみゆきですら、このデッサンの女子生徒が誰であるか判らない。
「ね、ねぇ。確認するけど、こんな画架やキャンバスなんてなかったよね?」
さすがに勝ち気なみゆきも、声を震わせている。
「う、うん……何もなかった――きゃあっ!」
指の間から目だけを出して画像を見つめていた宏美が、不意に悲鳴を上げた。何事かと周囲の客が彼女らに視線を送り、他の2人は慌てて頭を下げる。
「ちょっと水無川、驚かさないで!」
「だ、だって2人とも、コレ……見てよ!」
怯えきった宏美の態度を不審に思いつつ、画像を見て――慌てて口を押さえ悲鳴を呑み込んだ。
さっき見た画像には、伏し目がちの生徒が描かれていた。が、現在、画像の少女はしっかりと両目をこちらに向けているではないか。絵の中の少女と、3人の視線がしっかりと合わさっている。しかも、さっきよりもデッサン画の少女はアップで映っている。準備室の内部が僅かに見えていた先ほどまでと違い、今はモデルの少女とキャンバスの白地しか見えない。何かを訴えかけるように、デッサン画の少女が近付いてきているようで不気味だった。
「あ……あぁ!」
がたがたと震える3人が見つめる中、更に画像に異変が現れていく。
生徒しか描かれていないキャンバスの余白に、文字がゆっくりと浮かび上がってくる。
許さない。許さない。許さない。
その『許さない』という文字は、キャンバスの余白をびっしりと埋め尽くしていく。もう書くところがないにもかかわらず、字間を見つけては書き込まれ、遂には少女の背景は真っ黒になってしまった。
「ちょっと、これ本気でヤバイよ。消すからね!」
デジカメの持ち主であるみゆきが涙目で、画像を消去した。佳奈もスマホの画像を消去しようとするのだが、どういうわけか、彼女だけいくら操作しても消えてくれない。
「やだ、どうして? どうしてわたしのだけ」
半泣きになりながら、必死に弄るが消えてくれない。そうこうするうちに操作を誤り、待ち受け画面に戻ってしまったのだが。
「いやああああっ!」
声は抑えたが、スマホがテーブルの上に転がる。何事かと覗き込んだ2人も、同じように抑えた悲鳴をあげて震え始めた。
佳奈の待ち受け画面が、デッサンの少女に変わっている。勿論そんな設定は、一切していない。何かを訴えかけるような少女と、背景は真っ白なキャンバス。そこから徐々に増える『許さない』の文字。真っ黒に埋め尽くされるまで文字は増え、リセットされたかのようにまた最初の画像に戻る。延々と繰り返される画像。強制的に待ち受けに設定されてしまった、不気味な画像。
変なものを自分たちは憑けてしまったのではないか――? 3人は、軽はずみな行動を心底悔やんだが、遅かった。
自分のデジカメからは、不気味な画像が消えたみゆき。最初から尻込みしていて、スマホを手にしていたものの撮影しなかった宏美。2人は佳奈に降りかかった奇妙な現象に対して同情や心配する素振りを見せはするものの、本音としては「自分でなくて良かった」である。
佳奈も何となくそれを察知している。このスマホに取り憑いたモノをどうしようかと、帰路に就きながら思案を巡らせる。見るのが怖くて、スマホは鞄の中にしまい込んでしまった。
3人は学校の近所にあるコーヒーチェーン店に入ると、さっそく何が写っているか検証を始めた。みゆきと佳奈は、それぞれデジカメとスマホを操作し画像を確認する。
「ちょっと、何コレ!」
「やだ、わたしのも写ってる!」
「だから帰ろうって、言ったじゃない……」
写真を撮った2人が驚愕の声をあげ、宏美は半泣きである。
3人は5時になる前に、準備室の中を確認しておいた。噂通り画材一式が棚に並べられてあるだけで、人が隠れられるようなスペースや机などない。なのに、撮った写真には、あるものが写っていた。誰も居ない、棚だけしかない準備室の中央に、画架とキャンバス。ドアから右手、部屋の中央にそれはあり、キャンバスはみゆきたちに向けられていた。着色されていないデッサンには、生徒が描かれている。微笑みを浮かべているそれは、誰か美術部員が描いたものだろう。
やや伏し目がちだが、女が見ても綺麗だと思うほどそのモデルの少女の顔立ちは整っていた。これほどの美少女が在籍しているならば、例え女子校といえど噂になる。だが情報通であるみゆきですら、このデッサンの女子生徒が誰であるか判らない。
「ね、ねぇ。確認するけど、こんな画架やキャンバスなんてなかったよね?」
さすがに勝ち気なみゆきも、声を震わせている。
「う、うん……何もなかった――きゃあっ!」
指の間から目だけを出して画像を見つめていた宏美が、不意に悲鳴を上げた。何事かと周囲の客が彼女らに視線を送り、他の2人は慌てて頭を下げる。
「ちょっと水無川、驚かさないで!」
「だ、だって2人とも、コレ……見てよ!」
怯えきった宏美の態度を不審に思いつつ、画像を見て――慌てて口を押さえ悲鳴を呑み込んだ。
さっき見た画像には、伏し目がちの生徒が描かれていた。が、現在、画像の少女はしっかりと両目をこちらに向けているではないか。絵の中の少女と、3人の視線がしっかりと合わさっている。しかも、さっきよりもデッサン画の少女はアップで映っている。準備室の内部が僅かに見えていた先ほどまでと違い、今はモデルの少女とキャンバスの白地しか見えない。何かを訴えかけるように、デッサン画の少女が近付いてきているようで不気味だった。
「あ……あぁ!」
がたがたと震える3人が見つめる中、更に画像に異変が現れていく。
生徒しか描かれていないキャンバスの余白に、文字がゆっくりと浮かび上がってくる。
許さない。許さない。許さない。
その『許さない』という文字は、キャンバスの余白をびっしりと埋め尽くしていく。もう書くところがないにもかかわらず、字間を見つけては書き込まれ、遂には少女の背景は真っ黒になってしまった。
「ちょっと、これ本気でヤバイよ。消すからね!」
デジカメの持ち主であるみゆきが涙目で、画像を消去した。佳奈もスマホの画像を消去しようとするのだが、どういうわけか、彼女だけいくら操作しても消えてくれない。
「やだ、どうして? どうしてわたしのだけ」
半泣きになりながら、必死に弄るが消えてくれない。そうこうするうちに操作を誤り、待ち受け画面に戻ってしまったのだが。
「いやああああっ!」
声は抑えたが、スマホがテーブルの上に転がる。何事かと覗き込んだ2人も、同じように抑えた悲鳴をあげて震え始めた。
佳奈の待ち受け画面が、デッサンの少女に変わっている。勿論そんな設定は、一切していない。何かを訴えかけるような少女と、背景は真っ白なキャンバス。そこから徐々に増える『許さない』の文字。真っ黒に埋め尽くされるまで文字は増え、リセットされたかのようにまた最初の画像に戻る。延々と繰り返される画像。強制的に待ち受けに設定されてしまった、不気味な画像。
変なものを自分たちは憑けてしまったのではないか――? 3人は、軽はずみな行動を心底悔やんだが、遅かった。
自分のデジカメからは、不気味な画像が消えたみゆき。最初から尻込みしていて、スマホを手にしていたものの撮影しなかった宏美。2人は佳奈に降りかかった奇妙な現象に対して同情や心配する素振りを見せはするものの、本音としては「自分でなくて良かった」である。
佳奈も何となくそれを察知している。このスマホに取り憑いたモノをどうしようかと、帰路に就きながら思案を巡らせる。見るのが怖くて、スマホは鞄の中にしまい込んでしまった。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
近づいてはならぬ、敬して去るべし
句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら……
近づいてはいけない。
敬して去るべし。
山を降りろ。
六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。
28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。
田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。
大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。
会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中した。
ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。
「名付け得ぬ神」。
東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。
コウイチは訪ねることにする。
道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——
雪深い山の中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。
不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。
あれ? 鳥の声が、まったくない。
雨が止むとき、人形は眠る
秋初夏生
ホラー
「雨の日に人が突然倒れる」という不可解な事件が、金沢で続発していた。
冥府庁調査課の神崎イサナと黒野アイリは調査の末、ひがし茶屋街に佇む老舗の人形店「蓮月堂」へ辿り着く。
そこでは“誰も作った覚えのない人形が、夜ごと少しずつ増えている”という奇妙な噂が立っていた。
病に伏す人形師・桐生誠士は、異変の真相解明を二人に託し、さらに姿を消した元弟子の人形師“斎宮”を探してほしいと願う。
増え続ける人形、曖昧に濁される証言、消えた記録。静かな雨音の下で、隠された想いが少しずつ輪郭を帯びていく。
これは、失ったものを手放せなかった人間の執念が引き起こす、じわじわと心を侵す怪異の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる