退魔師・久遠馨の心霊事件帖

三田村優希

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第弐帖・デッサン

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 20分後。

 3人は学校の近所にあるコーヒーチェーン店に入ると、さっそく何が写っているか検証を始めた。みゆきと佳奈は、それぞれデジカメとスマホを操作し画像を確認する。

「ちょっと、何コレ!」
「やだ、わたしのも写ってる!」
「だから帰ろうって、言ったじゃない……」

 写真を撮った2人が驚愕の声をあげ、宏美は半泣きである。

 3人は5時になる前に、準備室の中を確認しておいた。噂通り画材一式が棚に並べられてあるだけで、人が隠れられるようなスペースや机などない。なのに、撮った写真には、あるものが写っていた。誰も居ない、棚だけしかない準備室の中央に、画架イーゼルとキャンバス。ドアから右手、部屋の中央にそれはあり、キャンバスはみゆきたちに向けられていた。着色されていないデッサンには、生徒が描かれている。微笑みを浮かべているそれは、誰か美術部員が描いたものだろう。

 やや伏し目がちだが、女が見ても綺麗だと思うほどそのモデルの少女の顔立ちは整っていた。これほどの美少女が在籍しているならば、例え女子校といえど噂になる。だが情報通であるみゆきですら、このデッサンの女子生徒が誰であるか判らない。

「ね、ねぇ。確認するけど、こんな画架やキャンバスなんてなかったよね?」

 さすがに勝ち気なみゆきも、声を震わせている。

「う、うん……何もなかった――きゃあっ!」

 指の間から目だけを出して画像を見つめていた宏美が、不意に悲鳴を上げた。何事かと周囲の客が彼女らに視線を送り、他の2人は慌てて頭を下げる。

「ちょっと水無川みながわ、驚かさないで!」
「だ、だって2人とも、コレ……見てよ!」

 怯えきった宏美の態度を不審に思いつつ、画像を見て――慌てて口を押さえ悲鳴を呑み込んだ。

 さっき見た画像には、伏し目がちの生徒が描かれていた。が、現在、画像の少女はしっかりと両目をこちらに向けているではないか。絵の中の少女と、3人の視線がしっかりと合わさっている。しかも、さっきよりもデッサン画の少女はアップで映っている。準備室の内部が僅かに見えていた先ほどまでと違い、今はモデルの少女とキャンバスの白地しか見えない。何かを訴えかけるように、デッサン画の少女が近付いてきているようで不気味だった。

「あ……あぁ!」

 がたがたと震える3人が見つめる中、更に画像に異変が現れていく。

 生徒しか描かれていないキャンバスの余白に、文字がゆっくりと浮かび上がってくる。

 許さない。許さない。許さない。

 その『許さない』という文字は、キャンバスの余白をびっしりと埋め尽くしていく。もう書くところがないにもかかわらず、字間を見つけては書き込まれ、遂には少女の背景は真っ黒になってしまった。

「ちょっと、これ本気でヤバイよ。消すからね!」

 デジカメの持ち主であるみゆきが涙目で、画像を消去した。佳奈もスマホの画像を消去しようとするのだが、どういうわけか、彼女だけいくら操作しても消えてくれない。

「やだ、どうして? どうしてわたしのだけ」

 半泣きになりながら、必死に弄るが消えてくれない。そうこうするうちに操作を誤り、待ち受け画面に戻ってしまったのだが。

「いやああああっ!」

 声は抑えたが、スマホがテーブルの上に転がる。何事かと覗き込んだ2人も、同じように抑えた悲鳴をあげて震え始めた。

 佳奈の待ち受け画面が、デッサンの少女に変わっている。勿論そんな設定は、一切していない。何かを訴えかけるような少女と、背景は真っ白なキャンバス。そこから徐々に増える『許さない』の文字。真っ黒に埋め尽くされるまで文字は増え、リセットされたかのようにまた最初の画像に戻る。延々と繰り返される画像。強制的に待ち受けに設定されてしまった、不気味な画像。

 変なものを自分たちは憑けてしまったのではないか――? 3人は、軽はずみな行動を心底悔やんだが、遅かった。

 自分のデジカメからは、不気味な画像が消えたみゆき。最初から尻込みしていて、スマホを手にしていたものの撮影しなかった宏美。2人は佳奈に降りかかった奇妙な現象に対して同情や心配する素振りを見せはするものの、本音としては「自分でなくて良かった」である。

 佳奈も何となくそれを察知している。このスマホに取り憑いたモノをどうしようかと、帰路に就きながら思案を巡らせる。見るのが怖くて、スマホは鞄の中にしまい込んでしまった。
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