冒険者の受難

清水薬子

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司祭の思惑

情交※

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  サナを抱えて揺らさないように歩き、ベッドに彼女を下ろす。
 明かりをつける手間すら惜しい。
 横たえた彼女の上に覆いかぶさって顔を覗き込む。
 暗闇の中であっても黒い瞳はなお暗く輝いていて、見つめているだけで吸い込まれそうだ。

「なあ、サナ」
「ん~? なんですかあ、カインさん」

 血色の良い彼女の唇が俺の名前を呼ぶ。
 敬称付きであることにやはりどこまで行っても他人なのではないかという恐怖がにじり寄ってくる。
 それもそうだ、二度めの時だけの約束を彼女は律儀に守っているだけにすぎない。
 優しい彼女のことだ、頼めばあの時のように呼んでくれるだろう。
 それでも、きっとこの壁だけは壊れない。

「いい、か?」

 何一つ明言せずに沈黙を守る彼女の頰を撫でる。
 自分が求めているのは果たして彼女の唇なのか、体なのか、はたまた心なのか。
 自分が何を望んでいるのか分からずにいても、彼女は非難することもなく赤らんで潤んだ瞳を静かに閉じて首に回していた腕に力を込める。
 必然的に顔を引き寄せられることになり、ぐっと距離が縮まる。
 ちゅう、と可愛らしいリップ音と共に唇が重なる。
 触れるだけで、その熱と感触はすぐに離れる。

「軽いキスなら血の味はしませんね」

 えへへ、と照れたように笑った姿に心臓が跳ねた。
 大分酔いが回ってきたのか、呂律の回らない言葉を発しながら大胆な行動を繰り返す。
 触れるだけのキスを繰り返していた彼女の行為は段々とエスカレートして、唇に吸いつかれる。
 舌をねじ込んでめちゃくちゃにしたい衝動を耐えながら、頰を撫でていた手を首から下へと移動させる。
 掌に収まるほど慎ましい胸を服の上からさわさわと撫でる。

「あっ……」

 俺の唇を舐めていた彼女の動きが止まる。
 微かに聞こえた甘い喘ぎ声をもう一度聞きたくて、反応した胸の頂にわざと指が掠るように撫でる。
 指先が掠めるたびにシーツを握る彼女の手に力が入る。
 豊かな女性ほど鈍感だと男達は下世話な噂を立てていたが、サナのこれまでの反応を見る限りあながち間違ってはいないのかもしれない。
 解放されたことで口寂しさが代わりに募る。
 自分からキスをしては間違いなく舌をねじ込みかねないので、代替案として彼女の首筋に顔を埋める。
 香りを肺に吸い込みながら肌に舌を這わせるとほんの少し汗のしょっぱい味がする。

「ひゃっ、も、カインさんってば……あっ、んうっ」

 耳元に聞こえる彼女の喘ぎ声にただでさえ滾っていた熱で全身が燃えそうになるほど体温が上がる。
 彼女の白い首筋に吸い付きながら服の中に手を入れる。
 じっとりと酒で汗ばんだ肌は掌に吸い付くようで、小ぶりな胸を揉みしだく。
 掌に収まってしまうそれは、ほんの少しでも力加減を間違えたら傷つけてしまいそうで最新の注意を払う。
 胸の頂きを軽く摘めば、一際高い声が聞こえて思わず口角があがる。

「服、脱がすぞ」

 シャツの裾を捲り上げれば、彼女も上体を起こして協力してくれた。
 上半身裸になった彼女を改めて見て喉が鳴る。
 彼女の体は余分な肉がなくて、全体的に細い。
 暗闇の中に見える体中の傷痕は彼女にしかないもの。
 傷痕に興奮するような性癖はないが、自分の知らない彼女の過去というものが形になって刻まれていて、自分とは違う人間なのだと突きつけられているようだ。
 直近の傷である脇腹のものは彼女が言っていた通り、肩の傷と比べてかなり薄い。
 ほとんど皮膚と変わらない感触の傷痕に舌を這わせながら顔を移動する。

「ふぁっ……んんっ」

 胸の頂をパクリと咥え込んで舌先で転がすと彼女の体が跳ねる。
 片方の手でベッドに膝をついて体重を支えながら、もう片方の手でやわやわと揉みしだく。
 彼女はもじもじと足を摺り合わせ、胸に刺激を与えるたび腰が揺れる。

「もう感じてるのか?」

 視線だけ顔に向ければ、片手で口を押さえて真っ赤な顔をした彼女が目に入る。
 図星を突かれたサナは数秒目を泳がせた後、一度だけ首を縦に振る。
 てっきり頭を振って否定すると思っていたばっかりに、返ってきた彼女の肯定に心が沸き立つ。
 なるべく彼女も楽しめるようにと手探りではあったが優先していたことが報われた気がして、勝手に頰が緩んでしまう。

「そうか。焦らしすぎるのも良くない、よな……」

 生唾を飲み込みながらなだらかなお腹を撫で、手を下へ動かす。
 スパッツの中に入れ、クロッチのなかに手を滑り込ませる。
 なにせ自分とは違う体の作りをしているのだから、慎重に指を割れ目の間へ差し込みつつ顔色を伺いながら行為を進める。

「ひゃぅ……ン……んっ」

 愛液でぬかるんだ膣口から指で掬い上げて陰核に擦り付けるように指で周囲をクルクルと撫でる。
 弱い刺激にサナの腰が揺れ、息が浅くなる。
 慣れてきた頃合いを見計らいつつ、膨らみ始めた陰核の表面を指の腹で軽く押し撫でるように弄る。

「は、あっ、ん、んっ」
「イきそうか? イッていいぞ」

 サナの瞳に涙が滲み始めたのを確認して、グリグリと押しつぶすように指を動かす。
 自分の手で乱れる彼女の姿に、既に張り詰めていた下半身により一層血が集まる感覚と口の中に溢れる唾液を嚥下する。
 微かに血の味が混じったそれはまだ彼女とのキスはできないと現実を突きつけてくることを苦々しく思いながらも、意識を彼女に戻す。
 揺れる腰が逃げようとするのを、足を間に差し込んで阻む。

「も、あ、あっ、あ゛~~~、ッ……!」

 彼女の手がシーツを握りしめると同時に、体が痙攣したように跳ねる。
 一際高い声をあげながら達した彼女の、少し掠れたような喘ぎを耳元で感じながらバレぬように安堵のため息をつく。
 良かった、ちゃんと出来た。
 何度か彼女を絶頂に追い詰めたことはあるが、いつも自信があるわけではない。
 行為が済んだ頃になってようやく独り善がりになっていなかったかどうか振り返るほど余裕がない。
 蕩けた彼女の顔を見るだけで理性が弾け飛び、がむしゃらに犯したくなる衝動を堪えるのに精一杯なのだ。

「はあ……はあ……はふ……」

 浅い息を繰り返すサナの頰に軽くキスを落としてレギンスとクロッチに手をかける。
 スルスルと脱がせれば、すらりとした細い足が露わになる。
 月明かりの下、彼女の裸体は淫靡で艶かしいものに見えて、痛いほどに熱を伴って張り詰めた下半身がじくじくと存在を主張する。

 まだだ。まだ、だめだ。我慢しろ。
 自分にそう言い聞かせながら彼女の太腿に手を這わせて撫で摩る。
 挿入する前に、最低二回はイかせたほうが良いらしい。
 顔も名前も知らぬ男が書いた所謂成人誌の情報を反芻して昂った体を宥める。

 むにむにとした柔らかい太腿の感触を掌に感じながら腰までゆっくりと撫で上げれば、息が整いかけていたサナの腰が再び揺れる。
 足の間に手を這わせて、なるべく強引にならないように足を開かせる。
 何度か体を重ねたというのに、やはりまだ羞恥心があるようでサナが顔を手で覆う。
 覗き見える耳や首は真っ赤になっていて理性がぐらぐらと揺れる。

「……ッ、んっ……」

 傷付けぬよう中指の先に愛液を塗してから、焦れるほど慎重に中へ沈めていく。
 爪を立てないように浅く出し入れを繰り返すたびに彼女の唇から悩ましげに息が漏れる。
 腰がくねる姿はまるで『もっとくれ』と強請られているような気さえしてきて、またも理性が激しく揺さぶられる。

「あっ、そこ、だめっ、あっ、んっ!」
「ココ、だろ? はははっ、凄い締め付けてくるな」

 浅くざらざらとした箇所を指の腹で陰核側へ押し上げるように刺激すれば、声を抑えるのも忘れてサナが悲鳴にも近い嬌声をあげる。
 耳を刺激するその甘い声に昂ぶりを増す雄の本能のまま、弱いところを執拗に責め立てる。
 またもじわりと涙が浮かんだサナの目尻にキスを落とす。

「あっ、んっ……ゆび、やだっ……!」

 聞こえてきた拒絶の言葉に冷や水を浴びせられたように昂っていた頭から血がさあっと引く。
 しつこすぎたか、もっと休ませるべきだったか。
 恐怖にも似た焦りに駆られて手を止めてサナの顔を食い入るように見つめる。

「カイン、さん。脱いで」

 クイッ、と俺の服が引っ張られた。
 サナの手が俺の服を捲ろうとしていることが、先ほどの言葉は聞き間違いではなかったと証明している。
 司祭服の下に着用するローブを重ね着していることもあって、構造をよく知らない第三者であるサナには脱がせにくい。
 それでも流石は手先の器用さを売りにする冒険者。
 例え酔っていてもすぐに構造を理解して、固く結んでいたはずの紐をしゅるしゅると衣擦れの音を発しながら外して脱がせにかかってきた。

「サナ?」
「っ…………その、ごめんなさい」

 目が合った途端、サナは決まりが悪そうに視線を泳がして謝罪の言葉を告げる。
 尻すぼみで消えかかっていた声にさらに拍車がかかって震えてすらいた。
 潤んだ瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうで、見つめているだけでゾクゾクと背筋が痺れた。

「奥が、ずっと……ジンジン、って……ごめん、なさい」

 すっかり熱を取り戻し始めた頭で彼女の発言を魂に刻み込むように耳を傾けながら、僅かな動きすら見逃さぬように具に網膜に焼き付ける。

 つまり、これは彼女からのオネダリ、というやつだろうか。

 その結論に至った瞬間、理性の手綱は容易く千切れた。
 上着を脱ぐなんてかったるいことなんてしていられず、ローブの下に着ていたズボンを半ば脱ぎ捨てるようにベッドの脇に放り投げる。
 譫言のように謝罪を繰り返し、手で顔を覆うサナに覆い被さる。
 二人分の体重にギシリとベッドが軋み、その音にサナの体が跳ねる。

「サナ、お前が謝る必要はない」
「だって、その、ごめんなさっ」
「実のところ、俺も次に進めたかった。挿れていいんだな?」

 確認の意味を込めて尋ねれば、真っ赤になったサナが小さく頷く。

 求められるというのは、こんなにも心地よいものなのか。

 バクバクと急上昇した自分の心音に息を飲む。
 サナが顔を覆っていて良かったとさえ思ってしまうほど、頰はこれまでにないくらい緩んでいる自覚はある。

「挿れる、ぞ……」
「はい……んっ、んんっ」

 解れきって熱を持った其処に自身を充てがう。
 くぷりと先端が飲み込むと蠢くように肉が絡み付いて奥へ、奥へと誘う。
 欲のままに叩きつけたくなるが、歯を食いしばって衝動に耐える。
 初めての時も前回も、自分の欲を満たすために事に及んだこともあって、千切れ飛んだ理性の代わりに罪悪感で自分を律する。

「サナ、痛くないか?」
「だい、じょうぶ……カイン、さんは?」
「っ、大丈夫だ」

 『まるで初夜のような会話だな』と湯だった頭でぼんやりと考えながら、念のためにサナに確認する。
 それどころか、息も絶え絶えな彼女は俺のことまで気にかけている。
 彼女の優しさに胸を締め付けられて、ただでさえばくばくと煩い心音が彼女にまで聞こえてしまいそうだ。
 下唇を噛んで暴走しそうになる自分を諫めていると、サナの両手が俺の頰を包む。

「うそ。だってカインさん、辛そう」
「俺は大丈夫、んむっ」

 人差し指を唇に当てられて言葉を飲み込む。

「私、結構丈夫だから。ーーだから、ね?」

 白いベッドシーツに無造作に広がった黒髪もそのままに、サナがふわりと微笑む。

「カインさんの好きにして?」
「……ッ!」

 数テンポ遅れて言葉の意味を理解して無意識に止めていた呼吸の存在に気づいてゆるゆると吐き出す。

ーー煽ったのは彼女の方だ。我ながら良くここまで我慢した。

 全ての責任を彼女に転嫁して、己の忍耐力を自画自賛する。
 彼女からの申し出を辞退する余裕なんて今の俺にあるはずもなく、思いもがけないありがたいその提案を受け入れて、最後の手綱さえも引きちぎる。

「ひゃあっ!」

 彼女のくびれた細い腰を両手で掴んで勢いよく引き寄せる。
 ぱん、と肌同士がぶつかる乾いた音が寝室に響いた。
 ねっとりと絡みつく肉の感触に快感が背骨を駆け上がって脳髄をびりびりと痺れさせる。
 先端が見えそうになるギリギリまでゆっくり引き抜いて、わざと弱点を擦るように腰を動かす。

「は、あっ、んっ!」

 弱い所を掠める度に絡みつく肉が逃すまいと締め付けて、ぐっと歯を食いしばる。
 ほんの少しでも気を抜くと暴発してしまいそうだったが、まだ彼女との交わりを終わらせたくない。
 俺の下で乱れる彼女の姿、殊更白い肌に覆われた首筋が目について誘われるままに顔を近づける。

「まって、カインさんっ! くび、だめっ……んっ」

 奥に先端を押しつけるとビクビクと跳ねる腰を押さえつけ、こみ上げてきた欲求のまま彼女の肌に唇を当てる。

「俺の好きにしていいんだろ。なあ、サナ?」

 耳元でそう問い掛ければ、返答の代わりにサナの中がきつく締め上げる。
 唇に感じる肌の感触では満足できずに軽く吸い付く。
 止める様子を見せない俺に諦めがついたようで、首に彼女の腕が抱きつく。

「ふ、うっ、あっ、ひうっ」

 何度も吸い付けば当然、肌に赤い痕がつく。
 その痕を見て溢れ出た唾液を飲み込みながら労わるように舌を這わせて、少しずらした場所にまた吸い付く。
 今度は強く、少しだけ長めに。
 艶めいた声と吐息を漏らす彼女にさらに興奮して、軽く歯を当てる。

「ひゃああっ! んっ、んんっ!」

 肌に歯を当てる度に抱きしめる腕に力が入って、さながら噛めと乞われているような気がしてくる。

 噛みたい。

 一度でもそう思ってしまうと自力でその願望を消す事は難しい。
 しかし、前に噛んで怒られたことが脳裏を過ぎる。

「サナ……噛んでもいいか?」

 彼女の耳元で強請りながら奥にぐりぐりと押しつける。
 強い刺激に息が詰まった彼女はぎゅうと俺を抱きしめた。
 赤い華が散った肌に舌を這わせながらもう一度問いかける。

「だめ、か……」

 焦ったくなるような沈黙の後、サナが髪をかき分けて顔を背ける。
 震えるような声で「どうぞ」とだけ告げた。
 許しを得て、彼女の首筋に歯を当てて、軽く顎に力を込める。
 皮膚を噛み切らないように、ほんの少しだけ、歯が食い込むように細心の注意を払う。

「ひうっ、は……あうっ……」
「は、やばいな、これ……噛む度に感じてるのか?」

 顎に力を入れると彼女の中がうねるようにざわざわと蠢く。
 歯に伝わる柔らかくてツルツルとした皮膚の感触に、獣のように息を荒げて歯を立てると更に締まりが良くなる。
 首も弱いことに驚きつつも、締め付けられる所為で限界が近くなってきた。
 首筋から口を離すと、白い肌にうっすらと俺の歯型が赤くついていた。
 名残惜しく思いながら唾液塗れの唇を手の甲で拭う。

「あっ! そこはっ、あっ、あっ、あ゛~~~ッ……!」
「は、ぅくっ……」

 腰を動かす度にベッドが軋み、滑りのよい結合部から少し上の充血した陰核を親指で撫でる。
 動きに合わせてぐりぐりと刺激すれば、腰を跳ねさせながらサナが果てた。
 絶頂を表すようにぎゅうと締め付けが強くなり、一番奥を突いた瞬間に限界まで高まっていた快感を解き放つ。
 最後の一滴まで注ぎ終えた頃に詰めていた息を吐き出す。

「サナ……あぁ、寝たのか」

 呼びかけに応答もなく、彼女の様子を伺う。
 疲れもあるのだろう、彼女は眠ってしまったらしい。
 酒を飲ませた上に夜も遅く、三回ほどイかせたのだから無理もない。

「おやすみ、良い夢を」
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